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ダッシュ!!  作者: 浮雲士
三部
162/197

CL決勝 ロート・バイエルンVSマンチェスターFC(3)






「アンドレアスさん、撃たれる!」


 鷲介が叫ぶと同時、カットインしたヨハンが鮮烈なミドルシュートを放つ。

 弧を描き、しかも早いそれは立ちはだかっていた味方をかわしゴールへ向かうが、ギリギリのところでアンドレアスのグローブが弾き、ゴールの外にボールは転がる。

 危機を免れ安堵するも鷲介はすぐに気を引き締め、電光掲示板に視線を向ける。

 前半38分。同点に追いつかれてから8分しか経っていないが現状、試合は完全にマンチェスターFCに圧倒されている。

 前半の内に同点に追いつかれた自分たちのショックもあるのだろうが、それでもマンチェスターFCの攻撃はすさまじい。いや、異常だ。

 得点を取るたび、マンチェスターFCは前へ前へと出てくる。同点に追い付いた後は、SBもCBも守備を放棄したようなポジションを取って攻撃参加する有様だ。



 鷲介たちRバイエルンイレブンは同点に追いつかれたショックと、監督はマンチェスターFCがさらに攻勢を仕掛けてくると見たらしく、攻勢に出るのはカウンターの時のみ、前に出すぎないよう指示が下っていた。

 そしてマンチェスターFCは同点に追いついた勢いのまま、攻勢を強めている。

 ヨハンはRバイエルンの右サイドを疾風の速さで駆け、マルシオは今まで以上に自由気ままにあらゆる場所へ顔を出す。シャルルとアーサーは正確なパスを何本も放ち、前線の選手や上がってくる味方へボールを見事につないでいる。

 もちろんRバイエルンもそれらの攻撃を防ぎ、カウンターに移ろうとしていた。しかしボールを奪取し、いざカウンターをするも、何故かマンチェスターFCの選手たちは絶妙に邪魔なところにいては、カウンターを見事阻害してくる。

 カウンターを潰した後、マンチェスターFCの選手はすぐさま前に走る。Rバイエルンにも勝るとも劣らない走力やパス回し。その様は”赤い悪魔”の異名の通り、凄まじい。

 そして今のCKでも、Rバイエルンゴール前に集まる選手たちの数が非常に多い。


(CKになったとはいえ後方に残っている選手が一人だけってどういう状況だよ。

 後半ロスタイムで1点差と言う状況ならともかく、攻撃に全振りしすぎだろ)


 ゆっくりとCKにシャルルが向かう中、Rバイエルンゴールに集まるマンチェスターイレブン。

 その多さに必然と仲間たちもゴール前に集結してしまい、両チームイレブンの大半が自陣のゴール前に集結する有様となっている。

 もしカウンターの縦パスが放たれ、唯一センターサークル付近に残っている鷲介にボールが来れば一転して大ピンチになるというのに。

 高く上げられるボール。シャルルの正確無比なキックはオーバーラップしているフィルの元へ。

 しかしジェフリーが激しく体をぶつけ邪魔をし、横に流れたボールをフリオが拾う。

 カウンターのチャンスかと思いきや、そのフリオにヨハンが詰め寄る。

 狙いすましたかのような早く、鋭い接近。だがフリオは慌てず左にパス。マルシオを背に寄ってきたクルトとのワンツーで前に出る。

 パスが来ると思い動く鷲介。しかしフリオの視線を見て、直前で軌道変更。

 それに唯一残っていたCBのリチャードがつられた瞬間、フリオはロングパスを放つ。

 高く上がった、少し緩やかなボール。それは鷲介とは真逆の左サイドに飛び、それを追いかけるのはジュニオールだ。

 同点のきっかけのファウルをしたことを気に病んでいるのか。いつになく気合の入った顔でボールを追うジュニオール。

 そしてサイドラインを割るギリギリの所で追いつき一気に駆け上がるが、ペナルティエリア付近でジェイソンが追いつく。

 彼が間に合わなければそのままゴールへ一直線することもできたのに。そう思いながら鷲介は動きボールを要求する。

 

「鷲介!」


 フェイントでジェイソンのマークをずらしパスを出すジュニオール。それは鷲介の元へやってくるが、そこにはリチャードが接近している。

 鷲介がボールを収めた時と同時に突っ込むため、位置と速度を調整しながらの接近。それ自体は見事だと思いながら鷲介は心中で嘲笑う。


(俺がボールをすぐに手放すことを想定していないとはな)


 ボールを持ちすぎる鷲介は今シーズンでいなくなったというのに。

 そう思い鷲介は改めて周囲に視線を向けて跳躍。ヘディングでボールをハーフレーンへ送る。

 リチャードの頭を越したボールに駆け寄るのは、疾走してくるアレックスとフィルだ。平行に走っている両者だが、僅かにアレックスの体が前に出ている。

 いけると鷲介が思ったその時だ、フィルが加速。いや、アレックスのユニフォームを掴み前に出る。

 だがアレックスも負けじとフィルの体を押し返す。そして飛び出した彼はダイレクトでセンターレーンへボールを転がす。

 転がったボールに駆け寄るのはRバイエルンの10番。ポールに追われながらも転がったボールに駆け寄ったジークはシュートを放つ。

 逆転弾──強烈なジークのシュートにグローブを弾かれたためか、前に出て体を広げていたアーロン。

 しかしジークが放ったのは、そんなGKを嘲笑うかのようなループシュート。右足の甲で放たれたシュートは緩やかな軌道を描き、ゴールネットを優しく揺らした。


「やった!」


 相手の勢いを挫く勝ち越し弾に思わず鷲介はガッツポーズ。ゴールを決めたチームのエースに駆け寄る。


「流石ですジークさん。素晴らしいゴールです!」

「お前のヘディングパスやアレックスのダイレクトパスがあってのものだ。

 ともあれこれで前半はこのまま終わるだろう」


 そう言ってジークが周囲をぐるりと見まわした時だ、怪訝な顔になる。

 何かを見ているジークを見て、鷲介も視線を追うと、そこにはインカムで会話している主審の姿が。


「まさかVAR? でも今のプレーでチェックされるようなところは何もなかったはず」


 そう言う鷲介の目の前で主審はVAR確認のためピッチ外へ。

 ざわつくスタジアム。数分後戻ってきた主審はゴール無効のハンドサインを出した。


「な……!」

「どうなっているんだ!?」


 仰天とする鷲介とジーク。すぐさまフランツが凄まじい剣幕で詰め寄り説明を求める。

 二人が話す中、スタジアムの大型スクリーンにその理由が映し出された。アレックスがジークに折り返しのパスを出す直前、フィルの体を押して彼を倒したことがファウル判定となりノーゴールになったようだ。

 とはいえ鷲介としては納得しがたい。アレックスのあれは確かにファウルを取られてもおかしくはないが、明確にファウルと言えるものではない。

 また間近で見ていた鷲介は知っているが、先にファウルまがいのプレーをしたのはフィルだ。


「先にユニフォームを掴んだ、ファウルをしたのはフィルでしょうに……!」

「それは俺も見ていた。だが判定が下った以上文句を言っても仕方がない。切り替えろ」


 憤る鷲介とは対照的に冷静な表情のジーク。とはいえ彼の瞳には怒りが渦巻いているが。

 ともあれ彼の言う通りなので鷲介は大きく息を吐いて不満を吐き出す。そしてリスタート地点に目をやり、ぎょっとした。

 場所はマンチェスターFCのペナルティエリア直前。そこにいつの間にかシャルルの姿があったからだ。


「アンドレアスさん、DFの皆、気を付けて──!」


 鷲介の声と同時、高らかに吹かれる試合再開の笛の音。

 それらと同時にシャルルはボールを蹴る。強く高く蹴られたボールはあっという間にハーフェーラインを超えてRバイエルン陣内へ。

 真っ先にそれに反応しているのはマルシオ。だが少し遅れたもののクルトが彼の前を塞ぐ。

 しかしマルシオはすぐさまそれに対応。飛び出しから一転、ポストプレーへ移行。

 跳躍したマルシオに合わせるかのような、シャルルのボール。クルトも遅れてジャンプするが当然間に合わず、マルシオは頭でボールを落とす。

 クルトの頭上を越えたボールに反応するヨハン。絶妙でなおかつ無駄がなく速い飛び出しでボールと共に凄まじい速度でRバイエルンゴールに迫る。

 細かく位置修正しながら距離を詰めるアンドレアス。そしてヨハンがペナルティエリアに入りわずかに減速したのと同時、一気に距離を詰めた。


(完璧な距離の詰め方! これならシュートは打てない)


 と、鷲介が思った次の瞬間だった。ヨハンはアンドレアスをかわした。

 ひょいっ、と言うような軽いかわし方。直前までMAXスピードだったというのに。

 自分、そして相対する相手の動き。それら全てを正確に把握したうえでの、文句のつけようがない切り返し。

 鷲介が何かを言う隙も無い。アンドレアスをかわしたヨハンのシュートはシュートミスと言う軌跡も起らず、Rバイエルンゴールにしっかりと収まった。


「んなっ……!」


 ゴール取り消し直後の失点に、思わず鷲介は口から変な声を出す。

 鳴り響く主審の笛の音を聞き思わず俯いた時だ、何やら騒ぐ声が聞こえる。

 顔を上げれば先程のフランツのようにヨハンは主審に詰め寄っていた。


「な、何だ?」

「どうやら今のゴールもノーゴールのようだ。ヨハンのオフサイドを取ったようだ」

「オフサイド? ……あ」


 ジークに言われて思い出す。

 マルシオのヘッドに反応したヨハンの飛び出し。あれを見た鷲介は見事と思うと同時、オフサイドではないかとも思ったのだ。

 すぐ笛が鳴らなかったからすぐに脳内から消し去ったが、遅れたものの当たっていたようだ。


「先程の俺のゴールと同じくVAR判定による取り消しのようだ」

「そうですか。まぁなんにせよ安心しましたよ」


 前半終了間際の勝ち越し弾など、もっともあってはならない展開の一つだ。

 しつこく主審に食い下がろうとするヨハンをマルシオが引き離して、試合は再開される。

 とはいえすでに時間はロスタイムに入っており、ほどなくして前半終了の笛がスタジアムに響き渡るのだった。











「ロナウドの言う通り、エキサイティングな前半でしたね。

 双方とも攻撃に傾倒しているクラブですが、こうもゴールを決めるのは流石に驚きです」


 ハーフタイム中、トイレ休憩を済ませたラウルたちはすぐに席に戻らず、スタジアム内にある総合ストア、アルフォンス・ストアのすみにいる。

 飲食をはじめグッズなど、様々なものが売っている売店や、そこに集う人々を眺めながら、ラウルたちは先程購入したコーヒーを口にしながら、前半について語っていた。


「全くだ。CL決勝で前半だけで6ゴールも入るなんて聞いたことがないぞ。

 しかもミスを突かれてからの失点というわけでもない。両チームのアタッカー陣は実に恐ろしい」


 そう言ってセルヒオは肩をすくめる。

 前半だけで6ゴールも生まれたこの試合。普通ならDF陣などに突っ込みの一つでも入るものだが、今日に限ってそれはない。

 失点こそしたもののDF陣の責任になるようなところは皆無だからだ。両チームのDFたちはしっかり対応、対策していた。

 ただ、両チームの攻撃陣が、それを上回っただけの話だ。


「正直、僕としては両チームの攻撃陣を比べたら、わずかではありますがマンチェスターFCに軍配が上がると思っていました」

「それは俺も同意見だな。ジークフリートとアレックス、鷲介。この三人はマルシオ、シャルル、ヨハンの三者ほどじゃない。

 それにバランスがいい攻撃特化のRバイエルンに対し、マンチェスターは攻撃超特化型チームだからな」


 かつてマンチェスターFCは攻守に隙のない万能チームだった。だが今の監督になってからは攻撃超特化のクラブへと変貌していた。

 その試合の様は前半の通り、ミドルサードギリギリが最終ラインとなるようなハイラインを敷き、陣形を無視するかのようなハイプレスを繰り返してボール奪取。

 そこから一斉に敵陣になだれ込んで高速パス回しで相手ゴールに迫り、または正確なロングフィードによる縦パス一本のカウンター。

 この戦い方となりマンチェスターFCは以前よりずっと失点は増えた。だがそれ以上に得点力が上がった。

 今季リーグを制覇できたのは、CL決勝まで上がってこれたのは、その得点力のおかげだ。


「だから俺としては前半はスコアレスか、Rバイエルンがリードすると思っていたんだがな」

「僕としては逆ですけど、どうしてそう思っていたんです」

「単純な理由だ。──Rバイエルンの監督ならマンチェスターFCの攻撃陣を嵌めるよう指示を出すと思っていたからな。

 実際、フランツたちの指揮の元、前半の半ば当たりからそうしていたし」


 Rバイエルンが同点に追いついてから立て続けに3点を取れたのは、Rバイエルンの5レーンがマンチェスターFCのしつこいプレスに順応したただけではない。

 マンチェスターFCの攻撃パターンや攻撃に移るタイミング、攻撃時にボールを集める選手たちを試合中に学んだからだ。

 もちろん試合前にいくつもある試合映像でそれらを頭に叩き込んでいるだろう。だが現実は知識通りにいかないもの。

 記憶した情報と実際の試合で得た情報。試合中、Rバイエルンイレブンはそれらをすり合わせたことで早く的確にマンチェスターFCイレブンからボールを奪うことや、嵌めて取ることに成功していた。


(クルトとジュニオールに加え、ミュラーとフランツもそれに協力したんだろうな)


 実際、事前の情報とその日の試合に得た情報のすり合わせをするのに結構な時間がかかる。少なくとも前半丸々は。

 だがそれが前半の半分近い時間で終わったのはRバイエルンの優れた、司令塔にもなれる四つの頭脳があったからだ。


「だが結果は同点。

 でラウル、お前はどうしてマンチェスターFCリードで前半が終わると思ったんだ?」

「はっきりこうだと言える、明確な答えはありません。

 僕も最初はセルヒオさんと同じで最初は鷲介たちのリードで終わると思っていましたけど、2点差をつけられても一向に変わらない彼らを見て、これは追いつきそうだなと思いました。

 過去、そして今シーズンもマンチェスターFCはそう言う試合をしていましたよ」


 ラウルの言葉にセルヒオは目を細める。

 それをラウルと共に見たのはまだRバイエルンと試合をする前のことだ。偶然暇だったセルヒオは実家に帰省しマンチェスターFCのゲームを観戦。

 そして始まってすぐに偶然姪とのデート帰りだったラウルも実家にやってきたため、自然の流れで彼と共にその試合を見ることとなった。

 相手はマンチェスターFCやマンチェスター・アーディックのようなビッククラブではないが、中位に位置しており状況によってはビッククラブも食ったことがあるチームだ。

 そしてその日、そのクラブはマンチェスターFC相手に前半で2点先取していた。マンチェスターFCのサッカーをよく研究した見事なサッカーだった。

 もちろんマンチェスターFCも怪我や警告で主力がいなかったが、それでもそのクラブは後半30分まで2-0のスコアを維持していた。

 しかし残り15分でスコアは最終的に4-2となった。もちろん4はマンチェスターFCのスコアだ。

 後半から途中出場したマルシオが泥臭いゴールを決めると、それを皮切りに他の選手たちも鬼気迫る表情で相手ゴールに迫り、立て続けにボールをネットに突き刺しての逆転勝利だった。

 あの時の試合も、マンチェスターFCは終始ハイプレスとハイラインを執拗に続けていた──


「捨て身ともいえる激しいプレスにハイラインを実行し続け、そしてボールを奪うやシャルルを中心とした高速のパス回しで相手を切り崩し、または精密機械のようなロングパスで相手の陣形の穴を突く。

 何より点差が開いても全くめげることなく前半から走りまくる彼ら。あれはRバイエルンと同じく、僕たちでも気圧されますよ」

「……そうだな」


 サッカーとは点が入りにくいゲームである。そのため普通は失点しないように考えるものだ。

 だがマンチェスターFCのサッカーはその考えがないように思える。点を奪われても挫けずめげず諦めず走ってくる。

 確かにあんな、狂気と紙一重と思えるような戦い方をされればリードしていても気は休まらないし、気圧されるだろう。


「後半、どうなりますかね」

「わからんな。両チームとも失点しているがゴールも決めている。

 前半の戦いぶりは正解とも不正解ともいえないから大きな変更はないと思う。

 だが前半の通りの試合を後半をするのなら、マンチェスターFCが有利だと俺は思う」

「RバイエルンはマンチェスターFCの要所を突いているのにですか?」

「だからこそだ。そもそもマンチェスターFCから見れば、そのようなことは日常茶飯事だろう。

 ならそこを逆手に取るか、他の策を練ってくる可能性もある」

「あのアラン監督がですか!?」


 驚くラウル。

 しかしセルヒオは静かな口調で言う。


「アラン監督は確かに猪突猛進。はっきり言って馬鹿と言ってもいい人だ。

 だが頭が悪いわけじゃない。お前と見たあの試合もあの人は勝利につながるよう細かい修正をしていたからな。

 残り45分、何かは仕掛けてくるだろう」







リーグ戦 24試合 18ゴール10アシスト

カップ戦 3試合 3ゴール4アシスト 

CL 9試合 14ゴール4アシスト

代表戦(三年目)2試合 3ゴール1アシスト

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