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ダッシュ!!  作者: 浮雲士
三部
116/197

激突する二つの赤1






「さてさて。今季のCL、ロートバイエルンはどこまで行けるかね」


 揶揄するような物言いの光昭に由綺は眉を顰める。

 周囲は勝利を信じて応援しているRバイエルンサポーターだらけ。それを考慮して声は小さく、しかも日本語で言ったのだろうが意味が分かるものとしては面白くはない。

 満員のミュンヘン・スタディオン。ホームチームサポーターの大歓声が響くここであと十分後にCLグループリーグ第一節、Rバイエルン対RNSミランの試合が開始される。


「それにしてもグループリーグの組み合わせ、鷲介としてはいろいろ思うところがあるでしょうね」

「そうだね。モゾロフ・モスクワFCはともかく残り二チーム──RNSミランとヴァレンティーンFCは鷲介と因縁がある選手がいるチームだからね」


 Rバイエルンが所属するCLのグループリーグ。残り三チームはロシアリーグのモゾロフ・モスクワFC、イタリアリーグのRNSミラン、スペインリーグのヴァレンティーンFCの三チーム。

 イザベラ、グスタフがいうようにMモスクワ以外の二チームには鷲介と深く関与した選手がいる。


(RNSミランには鷲君が欧州ユースリーグ決勝で抑え込まれた”ゾディアック”の一人、フランス代表のヴァレリー選手。

 そして鷲君がプロを目指すきっかけになったあの人。エメルソン・イゼクソン・デ・ソウザ──)


 スタジアムにある大型スクリーンに表示されている両チームのスタメンを見る。

 まずホームのRバイエルン。システムは従来の4-3-3。GKはエトゥイン、DF4人は右からフリオ、クルト、ジェフリー、ジュニオール。

 中盤ボランチはドミニク、前二人はフランツとアレンだ。そして前線三人は右から鷲介、ジークフリート、エリックという昨季のスタメン。


(鷲君……)


 掲示板に表示されている彼の背番号11──今季変更された──を見て、思わず由綺は拳を握る。

 今季彼がレギュラーから外れたことに苛立っているのは二人きりの時の様子を見たり、友人たちの話を聞いて知っている。理由は現在のRバイエルンの戦術、5レーンに適応しきれていないからだということも。

 今日スタメンとなっているのは今季レギュラーとなっているアレックスの負傷が理由だという。そのアレックスだが怪我も大したことはなく早ければ今週末のリーグ戦に間に合うそうだ。


(頑張れ、鷲君)


 昨季まで絶対的主力と言ってよかった鷲介。それが監督とチーム戦術が変わったことでサブに追いやられてしまった。

 サッカー界ではよくあることだと兄は言っていたし、由綺も調べてそう言うことがあるのだとわかってはいる。だが一個人としては面白くはない。

 鷲介の個人能力は戦術を無効化するものと思っている。特に彼のスピードとドリブルは波に乗ればそれこそ止められるものがいないのではないと思えるほどだ。

 だがその鷲介のドリブルは今季、あまり見られない。昨季なら行く場面でもパスを出してゴール前に走ることが多くなっている。

 光昭曰く「無駄なドリブルが多かったから、その辺を監督に改善するよう言われているんじゃないか」とのことだが、それを聞いた由綺は首をかしげたものだ。


(鷲君のドリブルでチームは幾度も助けられたのに)


 ”ゾディアック”最高のドリブラーであるミカエル、最強であるロナウドに匹敵するとまで言われる鷲介のドリブル。多少無駄があろうがあれ一つだけであらゆるチームにとっては脅威になるはずだろうに。

 それを改善するように言うのは何故なのか。もしかして監督の見る目がないんじゃないかと思ってしまう。

 とはいえレギュラーが欠けた時スタメンになれるということは監督もそれなりの評価をしている証拠だ。

 例え戦術にマッチしておらずとも、試合でゴールやアシストという目に見える結果を出せば鷲介を使わざるを得なくなるはずだ。

 

(頑張れ、鷲君……!)


 再び心の中で応援の声を放ち、視線をアウェーチームに向ける。

 RNSミランもいつもの通り4-4-2のダブルボランチ。GKは21歳にしてイタリア代表に名を連ねるディノ・ガルヴァーニ。右SBは守備の万能選手と言われるイタリア代表のパオロ・プローディ、左SBはアルジェリア代表のリヤド・マトムール。

 そしてこのチームの目玉と言えるCB二人。右CBはシルヴィオ・ネスタ。イタリア代表であり世界屈指、現イタリアNo1CBと言われる選手。そして左のCBこそネスタと同等と言われる”ゾディアック”最強のDF。フランス代表のヴァレリー・ロベール・テュラム。

 中盤ダブルボランチはチームの司令塔であるアンジェロ・マテラッツィとSB、CBもこなせる守備特化型のジェレミア・ロイク。ともにイタリア代表である。

 前二人はコートジボワール代表の中核でもあるアルナ・オーリエにオランダ代表のルーク・デ・フロート。

 そしてツートップは世界有数のポストプレイヤーと言われるエミリオ・フェラーラとブラジル代表のエメルソン・イゼクソン・デ・ソウザ。双方ともに世界トップレベルのFWだ。


(エメルソンさん……)


 かのブラジル代表FWと鷲介と由綺が出会ったのは小6の春だ。

 当時怪我により長期離脱していた彼は治療のため日本を訪れており、また昔からの友人である鷲介が所属していた地元のサッカークラブ、サンライト赤翼SCの監督である羽鳥に会いに来た日に偶然、知り合ったのだ。

 夏の終わりに怪我が完治するまで、時々ではあったが彼はサンライト赤翼SCに訪れては鷲介とクラブの仲間たちにアドバイスやティーチングをしていた。特に当時のエメルソンによく似たプレースタイルの鷲介には念入りにだ。

 またその合間にプロサッカー選手がどういうものなのかを語ってくれた。そんな彼の話を聞きU-12デザフィアンテカップ終了後、鷲介はプロになると言い出し始めた。

 いわばエメルソンはプロサッカー選手”ヤナギ鷲介”を生み出した人と言っていいのかもしれない。


「まぁ鷲介のことは置いておくとして。初戦がRNSミランなのは正直、運が悪いな」

「そうですね。今季はイタリアリーグで未だ無敗ですし失点もたったの1。その上ここまでの平均得点数は2を超えています。

 まだシーズンが始まったばかりではありますがあのユヴェントゥースTFCを抑えての首位。紛れもない強敵です」

「その上相性が悪い。せめて次戦で戦えればよかったんだが」

「相性が悪いって兄さん、どういうこと?」

「両チームどちらも激しいプレッシングが持ち味。そしてポジティブトランジションへの移行は今季見る限りだとRNSミランに分がある」

「ポジティブトランジション……。確か守備から攻撃に移るときの速さだったよね」


 頷く兄。


「イタリアリーグや今日の試合を見ていれば嫌でもわかるがRNSミランのポジティブトランジションの速さは凄まじいぞ。

 そしてそこから繰り出されるカウンターもな。それ故にあのクラブはカウンターチームとしてはヨーロッパ屈指とさえ言われている」

「でもRNSミランは昨季のCLじゃあ決勝トーナメント1回戦でレイ・マドリーに負けて敗退したよね。一昨年に同じような結果だったけど」

「結果だけじゃチームの強さは図れん。それに国内ではユヴェントゥースTFCの後塵を拝しているがここ五年は最終節まで優勝争いに絡んでいる。

 CLは怪我人が多かったことや累積警告で主力を欠いていたなど二年連続運がなかったとしか言いようがない」


 やたらRNSミランを褒めるような言葉に由綺は不思議がる。

 Rバイエルンへカウンターで挑むチームなどいくらでもあった。その経験があるから対策もとれるだろうに、どうしてここまで警戒するのか。


「由綺が不思議がるのはわかるわ。

 リーグでもRバイエルンと当たったチームは守備を固めてカウンターで攻めてくることがほとんどだからね。

 でもそう言うクラブにもRバイエルンは圧勝している。もちろん個々やチーム力が差があることも一因だけど最大の理由はその固めた守備をパスワークで崩しているから。

 だけどCLの上位クラスともなれば当然リーグのようにはいかない。特に現在はポゼッションサッカーでも最高難易度の5レーンを主戦術としている。

 そしてその完成度はそこまで高くはない。今季無敗とはいえ失点が多いのがその証拠。先日のRドルトムント戦でもカウンター二つから失点したでしょう」


 親友の言葉に由綺ははっとされる。

 言われてみれば先日の試合は確かにRバイエルンのポゼッションはいつも通りとは程遠かったしRドルトムントの見事なカウンターにしてやられた。


「そしてRNSミランはイタリアのクラブに多い堅守のチームでもある。

 その守備力はハッキリ言えばRドルトムントと同等かそれ以上と言っていいだろう」

「ネスタ選手にヴァレリー。あの二人がいますからね」


 RNSミランを調べた由綺もその二人のことは気にかけている。

 あのバレージと同等かそれ以上とさえ言われるネスタと、その彼に劣るとも勝らないと評価されているヴァレリー。RNSミランの攻守の要と言うべき2人。


「さて今日の試合はどうなるかね。

 間違いなく激闘にはなるだろうが、散々足る結果にもなる可能性もあるからな」


 不吉な予言のように言う光昭。

 そして入場ゲートから姿を見せた両チームイレブンと共にスタジアムに歓声が響くのだった。






◆◆◆◆◆







「お、来たか」


 後ろにいるエリックの言葉が聞こえ、鷲介は後ろに視線を向ける。

 入場ゲートへ姿を見せたのは赤と黒のユニフォームを着たイレブン、RNSミランの選手たちだ。


「よう、久しぶりだな。顔を会わせるのは俺がゴールを決めた一昨年のミラノダービー以来か」


 エリックが話しかけているのはRNSミランのキープレイヤーの一人、シルヴィオ・ネスタだ。

 元々実力者として有名だったが最近は特に名前を聞く。一部のメディアではポウルセンやあのバレージ以上という声もある選手だ。

 両チームとも初戦だからか、リラックスした雰囲気で知人と会話を交わしている。鷲介は目当ての人物であるエメルソンに話しかけようとしたが先にアントニオが声をかけてしまい手持ち無沙汰だ。

 

「へぇ今日はスタメンなのか。5レーンにしっかり対応できるようになったのか?

 ああ、アレックスが怪我だから繰り上げで出場か。よかったな」


 そんな鷲介に揶揄、挑発するような声で話しかけてくる一人の男。

 傲岸不遜、天上天下唯我独尊。そんな言葉で表せるような態度の金髪碧眼の彼に鷲介は視線を細める。


「相変わらずだなヴァレリー。体と同じで態度だけは無駄にでかいな」

「お前もなヤナギ。昨季ちょっと活躍したようだが今季は打って変わってベンチが定位置になるとは笑えるぞ」


 にらみ合う二人の”ソディアック”。

 こうして対面するのは今日で二度目だが最初会った時と同じく敵愾心がもりもりと湧き上がってくる。


「二人ともそこまでだ」


 剣呑な雰囲気を発している鷲介たちに向けられる制止の声。

 視線を向けるとアントニオにジュニオール、そしてエメルソンの姿があった。


「若者らしく血気盛んなのは結構。だがそれ以上は試合でプレーで語れ。

 双方とも世界トップクラス、お互い素晴らしいものを見せられるだろう」

「”ゾディアック”最強のスピードスターと最強のDF。ファンでなくともワクワクするマッチアップだなー!」


 暢気そうに言うジュニオール。万が一のことを考えてかアントニオとエメルソンが鷲介たちの間に割って入る。

 ヴァレリーは小さく鼻息を鳴らすと何も言わずチームの列に戻る。それを見て鷲介の昂っていた気持ちがいくらか落ち着いたところで背を向けていたエメルソンが振り向く。


「久しぶりだね鷲介。まさか君が言ったあの言葉がこんなに早く実現するとは思っていなかったよ」

「”いつかプロになったあなたと同じピッチに立つ”──あの時も本気でしたよ」


 微笑むエメルソンに対し鷲介も微笑する。


「君の活躍は見ていたしアントニオやロナウド、アーギアからも聞いていた。

 私の想定をはるかに超える見事な成長ぶりだ。雅彦も喜んでいることだろう」


 嬉し気に微笑むエメルソンからの心からの賞賛。

 それを聞き鷲介は思わず胸が熱くなる。


「だが今日の試合は勝利は私たちが戴く。

 十数年ぶりにCLの優勝カップを掲げるのは私たちRNSミランだ」

「それは自分たちもです。今季こそ並みいる強豪を打ち倒してCLを制覇します。

 たとえあなたであっても容赦しません」

「そうか。だがわかっているとは思うが|RNSミラン(我々)は強い。

 今なら欧州を制覇することさえできるチームだと私は思っているからな」


 自信にあふれた態度のエメルソン。鷲介も言葉を返そうとした時だ、今日の主審が整列するよう皆に促す。いつの間にか入場の時刻になっていたようだ。


「それじゃあ、後は」

「ああ、お互い試合で魅せるとしようか」


 共に頷き自分のチームの列に入っていく。

 流れる壮大な音楽と無数のフラッシュライト、満員のスタジアムから放たれる熱のこもったサポーターの歓声。

 強豪同士の一戦に相応しいそれらを感じながら試合前のセレモニーを終えた両チームは自陣へ散っていく。

 鷲介たちホームのRバイエルンは真紅のユニフォームを纏い、センターサークル内にいる。一方アウェーのRNSミランは白のユニフォームを身にまとい、ピッチとスタジアムから放たれる圧を平然と受け止め、待ち構えている。

 主審が周囲を見て高らかに笛を鳴り響かせ、今季のCL初戦が開始される。

 スタジアム中に沸くサポーターの大歓声を浴びながら早速前に出るRバイエルン。鷲介もボールと味方の位置をこまめに確認しながら移動する。

 最終ラインまで下がったボール。それがいきなり左サイドに飛ぶ。矢のようなグラウンダーボールを収めるのはセンターラインまで上がったジュニオールだ。

 近くにいたジェレミアがすぐに距離を詰める。だがジュニオールはハーフスペースにいたアントニオとのワンツーでかわし前に。

 ドリブルしようとする彼に今度はパオロが接近するが、ジュニオールは彼が近づいたのと同時にハーフスペースにパスを出す。

 パオロの裏を取ったスルーパスを受け取ったエリック。そのまま一気にゴールに向かおうとするがペナルティエリア前でシルヴィオが前を塞ぐ。

 一瞬減速しドリブルを仕掛けようとするエリック。だがそれはフェイクで中にボールを出す。マイナス気味のボールに駆け寄るのはセンターレーンにいたジーク。それを見て鷲介は右サイドからハーフスペースに侵入する。

 しかしジークから来ると予想したパスは来なかった。鷲介の動きに気を取られ、動いたヴァレリーが空けたシュートコースへミドルシュートを放ったからだ。

 利き足ではない左足だがグラウンダーの強烈なシュートがピッチを走りゴール左へ向かう。ゴール枠内に向かっているそれと低空とは思えないシュートの勢いを見て鷲介は心中で先制点と叫ぶが、そのボールを横っ飛びしたディノのキーパーグローブが接触。ボールの起動は左にずれポストに当たり跳ね返る。

 こぼれ球にエリックが反応するが、それより早くシルヴィオがボールを回収。高く遠くにボールを蹴りだしボールはラインを割る。


(不意打ちのようなジークさんのシュートに触れるか。流石は21歳と言う若さながらあのドニに匹敵すると言われるGK……)


 エースの一撃を防がれ観客が落胆の声を上げるのを聞きながら、鷲介は体を起こしたRNSミランのGKを見る。

 鷲介と同じ17歳でトップチームデビューし、19歳でチームの正GKとなりアズーリに召集を受けた俊英。

 ジークのシュートを受けた大抵のGK──代表クラスでも──防いだ後は自分の手や腕を確認する素振りを見せる。だがディノはドニ達世界トップのGKと同じく微塵もそんな様子は見せない。

 

「見事な不意打ちだがディノの奴には想定内だ。

 ”竜殺し”なんていうたいそうな威力のシュートだがあいつもRNSミランの、アズーリのカテナチオを担う男。

 ロングやミドルじゃあいつのゴールを揺らすのはあのジークフリートと言えども簡単じゃないぜ」


 勝ち誇るような声音が聞こえそちらを向けば、自慢げな笑みを浮かべるヴァレリーの姿があった。


「そうか。となるとペナルティエリア内か一対一になればいいわけだ」

「残念だがお前らじゃ厳しいだろうな。──何せシルヴィオとこの俺がいるのだから」


 鷲介とヴァレリーは睨みあいながら言葉をかわし、同時にそっぽを向く。

 再び自陣からボールをキープして攻めるRバイエルン。一方のRNSミランは堅守からのカウンターで反撃する。

 とはいえRNSミランのカウンターには十分警戒、対策しているクルトたち。幾度かエメルソンたちはゴールに迫るがシュートは打たせない。

 だが前半十五分が経過するとRバイエルンの攻撃が停滞する。原因はRNSミランは積極的かつ的確なプレスを仕掛けてくるのと、ボランチのジェレミアがCBの位置まで下りてきてシステムが5-3-2に変わったからだ。

 

(5レーンアタックに有効な5バック。その上、的確かつ無駄のないプレス……!)


 プレスの激しさで言えばRドルトムントやブルーライオンCFCほどではない。

 だがRバイエルンがアタッキングサードより先に進もうとすると一気にプレスの圧が増すのだ。守備の形も正確無比でつけ入る隙が見当たらない。

 もちろんサイドチェンジやダイレクトパスで突破を試みようとするRバイエルンだが、RNSミランはそれにもきっちりと対応してきて自分たちのゴールに近づけさせない。

 鷲介もジーク達へのラストパスパスを防がれたり、ヴァレリーやリヤドにボールを奪われそうになったこともあった。


(こうなったら……!)


 鷲介はジークとアイコンタクトをかわし、彼らの了承を得る。ゆっくりと右のハーフレーンから下がり、ボールが中央に来た時、センターレーンにいるジークと入れ替わる。

 ジークの動きにわずかな間だがRNSミランの守備陣は驚き、しかしすぐに彼の動きに対応する。そしてその刹那の時間でボールを受けた鷲介はペナルティアークの手前にいるヴァレリーへ突っ込む。


(勝負!)


 ゴールに向かう鷲介にヴァレリーはシュートコースを消しながら前に出てボールに足を伸ばす。

 予想以上に速いそれに鷲介は驚くが体の動きは止まらない。緩急を利かせたダブルタッチで紙一重でかわし、彼の横を通り過ぎる。

 

(よし! これであとはゴールをするだけ──)


 一瞬遅れて飛び出すディノを見ながらペナルティアークの白線を踏み越えようとした時だ、真横に圧を感じた。

 何がと思うと同時、鷲介の足元にあるボールに長い脚が伸びてきてボールを弾く。そして零れたボールにディノが体を滑らせてキャッチした。


「なるほど。あのロナウドに匹敵すると言われるだけはあるわけか。

 だが油断さえしなければ何とでもなるし、想定内だ」


 声を発したのはゆっくりとピッチから起き上がるヴァレリーだ。

 余裕綽々と言ったその様子に鷲介は歯噛みし、欧州ユースリーグ決勝でも同様に止められたことを思い出す。

 かつてもそうだった。鷲介と同等、いやそれ以上と感じさせる超反応と動き。一度抜いても後発的に追いつくほどの。


(今まで相対したポウルセンたち最高峰に匹敵──。いや、同格と言っていいかもしれない)


 薄々察していたことを再認識し、鷲介が奥歯を強く噛んだ時だ、スタジアム中が沸く。

 歓声ではなく悲鳴のそれを聞いて鷲介ははっとなり、自陣に目を向ける。


「な……!?」


 目を離したのはほんの数秒だ。にもかかわらずボールは自陣にいるルークに向かって飛んでいた。

 彼に向かっていくフリオ。ルークがボールをトラップした直後に一気に距離を詰める。

 だがルークはダブルタッチでフリオをかわし前に出た。それを見て鷲介は大きく目を見開く。

 右足の側面でボールを収めたルーク。にもかかわらず完全にボールの勢いを殺し、さらに流れるような動きでフリオをかわした。

 あのラウルに匹敵すると思うほどの見事なトラップ技術にボールコントロール、それと見事に連動する動き。敵ながら見事と言う言葉しか思い浮かばない。


(トラップ技術は世界トップと聞いていたがこれほどか……!)


 Rバイエルンゴールに突き進むルーク。ジェフリーとクルトが距離を保ちながら横にスライドしてくる。

 それに対しルークは慌てた様子もなくパスを出す。クルトの頭上を越えるRバイエルンの右ハーフレーンに飛んだボールをエミリオが駆け寄り、クルトが反転するのと同時、ペナルティアークからダイレクトボレーシュートを放つ。

 ピッチを一度バウンドするも減速しない強烈なシュートはゴール左に飛ぶ。エトウィンは反応してを伸ばすは届かない。だがコースを狙いすぎたのかボールはゴールバーに激突、そのままゴール外にそれてラインを割った。

 カウンターによる先制点という悲劇を回避し 安堵する鷲介たちRバイエルンイレブンとスタジアムのサポーターたち。

 両チームは初戦にも拘らず激しく動き、ぶつかり合う。共にCL制覇を目指すチーム同士のプライドとライバルたる敵チームの士気をくじく為なのか。その様はさながらダービーかライバルクラブ同士の激突のようだ。

 前半が25分を経過しスコアは動かない。だが戦況はアウェーチームであるRNSミランに分がある。

 攻め続けるRバイエルンだがRNSミランの守備を揺らしても最後まで崩せない。ジークやエリック達が遠距離からミドルを打つもディノやシルヴィオたちが体を張って防ぎ、近くにいたRNSミランイレブンがすぐさま回収してしまう。

 鷲介ももう一度ドリブルを仕掛けるが、二度目はヴァレリーにチャージで吹き飛ばされボールを奪われた。もっとも激しすぎるそれはファウルとなりカウンターの起点とならなかったのは幸いだったが。

 一方のRNSミランは堅い守備から繰り出す鋭いカウンターでRバイエルンゴールを脅かし、二度決定機を作っていた。

 前半19分、ヴァレリーとシルヴィオがジークを挟み込んでボールを奪うと早く鋭い縦パスをRバイエルン陣内に飛ばす。クルトたち最終ラインを超えたそのボールに反応していたエメルソンはオフサイドギリギリで飛び出し一気にゴールに迫る。

 だがペナルティエリア直前でボールを収めたエメルソンの前に飛び出していたエトウィンが立ちはだかる。それでもエメルソンはシュートを放ちボールはエトウィンの横を通過するがボールはゴールの外に外れてラインを割った。

 二度目は前半24分、鷲介へのパスを足を伸ばしてカットしたアンジェロがRバイエルンのセンターサークルにいるアルナにパス。ドミニクが激しいチャージを仕掛けるがアルナはそれに耐えて強引に前に出てはセンターレーンにボールを蹴る。

 Rバイエルンゴール正面にいるエミリオに渡るボール。傍にいたクルトとジェフリーが挟み込むがエミリオは両手を広げて二人の動きを阻害し、ボールをキープ。世界トップレベルのポストプレイヤーと評されるアズーリのストライカーは倒れない。

 そこへハーフレーンからルークが接近。エミリオはルークにパスを出し、ボールを受けたオランダ代表は立ちはだかるフリオを前に減速、右を見る。だが次の瞬間、左サイドにパスを出し、そのボールに彼の背後から飛び出してきたリヤドがサイドライン上で追いつき、その勢いのまま駆け上がる。

 すぐさまフリオが寄っていくがリヤドはRバイエルンゴール前にボールを上げる。そのボールにエミリオが足を伸ばしトゥーキックを放つがジェフリーが体を張ってボールを弾く。

 そのこぼれ球にエメルソンが駆け寄りシュートを放つ。だが今度はクルトが立ちはだかりボールを腹で受け止め、苦痛に歪んだ顔をしながらもボールをクリアー。危機を脱した。


(くっそ……! こうなれば)


 エリック、ジークと視線を交わらせ、再びセンターレーンに移動する鷲介。

 ハーフレーンにいたフランツからボールが来て前を向く。正面にはヴァレリーにシルヴィオの2人がいるが、関わらず突っ込む。

 飛び出してきたヴァレリーをスピードで強引に突破。だがすぐにシルヴィオが立ちはだかり鷲介の足元にあるボールを奪う。

 だがそれは想定内──。鷲介はすぐさま反転。寄ってきていたジークと共にシルヴィオを挟み込んでボールを奪い、ジークがRNSミランのゴールに向かってパスを出す。

 そのボールに飛び出すエリック。狙った通り、実現できた決定機的チャンスに鷲介は微笑み──


「……!!」


 浮かべていた笑みはすぐに凍り付く。なぜならペナルティエリアに侵入したエリックの足元にあったボールは、飛び出していたディノに押さえられたからだ。

 昨季レーベ・ミュンヘン戦などで実行した、あえてボールを奪わせた直後、プレスを仕掛けてのショートカウンター。ゲーゲンプレス。

 相手の虚を突く攻撃──しかもRNSミランは初見のはず──にもかかわらず防がれたことに鷲介は衝撃を受ける。


「今だ!」


 近くで聞こえた大声に思わず鷲介は肩をびくつかせる。声を発したのは今まで冷静な表情のままプレーをしていたシルヴィオだ。

 シルヴィオの声を聞きディノは大きく腕を振るってボールを投げる。それをルークが収め、側に駆けてきたアンジェロにボールを渡す。

 イタリア代表でありワールドクラスのレジスタと評されているアンジェロは自陣のセンターサークルからRバイエルンの左サイドにパスを出す。早く正確なそれをエメルソンが収め、敵のゴールに向かって突き進む。

 

(ジュニオールが上がりすぎた裏を突いたカウンター……!)


 Rドルトムント戦でもやられたカウンター。要注意していたはずだが、僅かに生まれた隙をつかれた。

 しかもRバイエルンゴールに迫っているのはエメルソンだけではない。左ハーフレーンにエミリオ、センターレーンにアルナの姿がある。

 Rバイエルンはクルトとジェフリー、そして戻ってきているフリオとドミニクの四名。しかしドミニクはあまりにも距離が離れているため、実質三対三だ。

 左サイドから左ハーフレーンに入るエメルソン。ペナルティエリアまであと数メートルまで来たところでペナルティアークに到達したアルナにパスを出す。

 そのアルナの前に立ちはだかるジェフリー。その圧を感じたのか全力疾走による疲れか、アルナはトラップミスをしてしまい、ボールは右に流れる。


(よし、これでクルトさんが回収すれば)


 問題ないと鷲介が心中で思った時だ。そのボールに先程パスを出したエメルソンが猛スピードで駆け寄ってきていた。

 迷いの無いその動きを見て鷲介はぎょっとする。ミスかと思ったそれは吸い寄せられるようにエメルソンの下に向かっている。トラップミスに見せかけたパスだ。

 クルトもそれに気づき慌ててボールを回収するべく動くが、エメルソンの方がボールに駆け寄るのが速かった。彼は流れてきたボールを収め、鋭く横に動く。

 エメルソンの左半身がクルトの体からずれた一瞬、エメルソンの利き足である左足が鞭のように振るわれた。ボールが弧を描いてゴールに迫る。エトウィンも下がり手を伸ばすがボールには届かない。

 ブーメランのような軌道を見せたエメルソンのシュートはRバイエルンのゴールネット左に突き刺さった。



 




リーグ戦 6試合 4ゴール 2アシスト

カップ戦 0試合 0ゴール0アシスト

CL 0試合 0ゴール0アシスト

代表戦(三年目)1試合 1ゴール1アシスト

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