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閑話Ⅲ 関係ないけど、未だにモヤァとする話

 今回はちょっと、いつもと毛色の違う話題になるかと思います。


 私個人にはまったく関りないし、ましてン十年単位は昔(おそらく高校生くらいの頃)、テレビでチラッと見聞きしただけのエピソードなのですけど。

 未だに時々思い出し、モヤァ…と嫌な気分になることがあります。


 自分でも、何故こんな些細な内容をしつこく覚えていて、思い出す度にモヤァとするのかよくわかりません。

 お読み下さった方の中にもしわかる方がいらっしゃったなら、ぜひ感想欄などで教えて下さいませ。

 では始めます。



 ン十年前のある日。

 おばさんになって『かわかみれい』と名乗ることになる、ピチピチギャル(死語)だった娘さんが、自宅でぼんやり、家族と一緒にテレビを見ていました。


 テレビの内容は、いわゆるトークバラエティ的なもの。

 ゲストとして呼ばれていたのは、とある有名な俳優の夫婦。

 旦那さんも奥さんも若い頃に映画やドラマで活躍していた方で、その当時はいい感じに落ち着いた、おじさんおばさんタレントとして活動している……雰囲気だった記憶があります。


 旦那さんは、傲慢と紙一重の偉そうな態度ながらそこが少年ぽくてカワイイ、というキャラで売っていて、奥さんは、寡黙でしとやかな和風美人、というキャラで売っていたと記憶しています。

 テレビに出る頻度は当時、圧倒的に旦那さんの方が多かったような気がします。


 さて。

 このご夫婦、亭主関白ながら仲睦まじいおしどり夫婦として有名だそうで、その日は旦那さんの、ちょっとワガママな亭主関白的惚気話を披露する……という形のトークでした。



 司会者が


「○○さん(旦那さんの名前)、お聞きしたところでは、毎日朝食は和風と洋風、二種類作ってもらっているそうですね?」


 という内容の質問をしました。

 ○○さん(旦那さん)は当たり前の顔で


「ああそうだよ、何、君は作ってもらってないの?」


 的な返事をします。

 司会者が苦笑い含みで


「ひょっとして和風と洋風、各一人前ずつ召し上がるんですか?」


 というやや間抜けな質問をすると、


「いいや。和風か洋風、好きな方だけを食べるんだよ」


 と彼は答えます。


「え?じゃあどちらか一方は余るということですか?」


 という、ある意味視聴者の気持ちを代弁した質問をする司会者。


「ああ、そうだねえ」


 と、○○さんは悪びれずに諾い、司会者が


「もったいないじゃないですか。あらかじめどっちが食べたいか、前もって言っておいたらいいんじゃないですか?」


 と、あきれ気味にツッコミを入れると


「だって、どっちが食べたくなるかなんて、その時にならなきゃわからないんだもん」


 と、○○さんは言い放ちました。

 奥さんはその隣で、黙って曖昧に……もとい、淑やかにほほ笑んでいました。



 その瞬間、私はかなり真面目に、ムカッとしました。

 邪気のない顔で『どっちが食べたくなるか、その時にならないとわからない』と言い放つ彼を、はっきり『馬鹿』だと思ったものです。


 ちなみに関西人の私の感覚で『馬鹿』という単語には、かなりシリアスに愚か者というニュアンスがあります。

 『阿呆(アホ)』という単語には愛嬌がありますけど、『馬鹿』にはほとんど愛嬌はありません。

 この辺は、東の地方にお住まいの方とは逆のニュアンスになると思いますけど、私は当時、はっきりと西の地方のニュアンスで○○さんを馬鹿だと断じました。


 だって、そうじゃありませんか?

 『どっちが食べたくなるか、その時にならないとわからない』という気持ちは、わからなくはありません。

 でも、自宅はホテルや料亭じゃないのですよ?

 『どっちが食べたくなるかわからない』旦那の為に、奥さんもしくはこの家の家政婦さんは、どっちか一方は無駄になるとわかっている食事を作るのです。

 廃棄するとしたら単純にもったいないですし(彼が金持ちで、その程度の金銭的負担はまったく問題ないとしても)、奥さんもしくは家政婦さんが、残った方を有無を言わせず食べることになるのではと思うと、それはそれでモヤァ…とします。


 妻や家政婦が残った方を食えばいい、美味しいんだから(彼は、不味いもの出したら一気に不機嫌になって作り直しを命じそうなキャラでしたので、きっとどちらの朝食も美味しく作られているでしょう)別にいいじゃないか、と思っていそう。

 自分以外の人も『どっちが食べたくなるか、その時にならないとわからない』気分があってもおかしくない、要は『人間』だって認識していないのではないか?

 つまり彼は、自分以外は人間と思ってないんじゃないか?と感じて、私はその時、すごく嫌な気分になったのです。



 あれから幾星霜。

 彼らの姿をテレビなどで見かけなくなりました。

 アレがテレビ的演出の可能性もありますし、彼らはそもそも役者。

 番組に必要な役を、意識無意識は別として演じていた可能性はあります。


 『ちょっとワガママな関白亭主と、亭主に従順でありつつも、実はてのひらで転がしていそうなヤマトナデシコの妻』


 そういうユニット?として売っていただけで、意外と○○さんは恐妻家で、淑やかそうな奥さんは鬼嫁だったなどということも、あるかもしれません。


 でもこの場合、そういう実態はどうでもいいのです。

 『二種類朝食を作らせ、食べたい方だけを食べる』

 という態度を、ほほ笑ましい亭主関白エピソードとして紹介される空気感が、今思い出しても嫌です。


 食事に対して、そして食事を用意する人に対して、そういう態度は失礼な気がして仕方がないのです。



 これが、様々な朝食を用意してお客さんを待っている飲食店ならそれでいいのです。

 不特定多数のお客さんがめいめいが好みの朝ごはんを堪能する場所であり、そこのスタッフはそれこそが仕事なのですから。

 ただ……、家庭はやっぱり、それとは違う気がするのです。


 食事作りを含め、家事も仕事ではありましょう。

 でも、純粋に仕事と言い切れない部分がある気もします。

 食事を作る方も提供される方も、相手を気遣って労わる気持ちがないと、家庭内の空気がゆがんで殺伐としてきそうな気がします。



 もちろん、これはあくまで個人の意見・感覚です。


 メシひとつでごちゃごちゃ言うな、その家の旦那さんがそう望み、奥さんを含めた家人が認めているのなら、他人がごちゃごちゃ文句をつける筋合いはないと言われれば、『ごもっともです』としか言えません。


 でも。

 食事を提供される方だけが我儘言いたい放題、提供する方はひたすら、お客様(この場合は亭主)のお気持ちに沿って作るべき、な空気感は、はっきり気持ちが悪いです。

 それを、いいなと思う人も潜在的に一定数いるだろうなと思うと、正直気持ちが暗くなります。



 自分の食事を作って、食べること。

 『作ってもらう』のが当たり前じゃなく、自分も作る努力をすること。

 趣味的に大層な料理を作るんじゃなく、日常の料理を作ること。


 ここをもっと大人の皆さんは考え、大事にしてほしいですね。


 もちろん、料理は得手不得手があります。

 嫌いな人はとことん嫌いでしょう。

 でも、目玉焼きやスクランブルエッグ、味噌汁や野菜炒めくらいなら、練習すれば誰でもできると思います。

 幼児・児童でもない限り、それがコンスタントに出来るようになって初めて、家庭を運営する者として食事にアレコレ注文が付けられるのではないかとちょっと思います。



 ……うーん、なんだか堅苦しくなってしまいましたねえ。スミマセン。


 でも家庭内で、誰かだけが満足していて誰かは我慢している食卓は、不健全だと思うのです。

 ○○さんちの朝食の食卓が、実際のところどうかは知りませんけど、イメージされる風景に、私は未だにモヤァ…と嫌な気持ちになります。


 ニコニコしているのは○○さんだけで、奥さんはあの時の番組内のように、曖昧に笑って静かに○○さんが選ばなかった方の朝ごはんを黙々と食べている……、これってホラーです、私の感覚では。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前にも書きましたが、 料理はつくった人が神です。 私の知り合いに「料理ができない」と言って、インスタントラーメンも作らない者がいます。 いやいや「できない」のではなく「やらない」ので…
[良い点] この夫婦が誰か、ちょっと分かったような……。 確かに一時期は一緒にバラエティーなどに出演されていた気がします。 これ、遠回しに『うちのかみさんは料理が上手くて、レパートリーもある。できた…
[一言] 家庭に限らず、誰かが我慢して成り立っている関係は長続きしないと思っています。 この夫婦のその後のことは分かりませんが。
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