閑話 よもつへぐい
今回は雑談・おしゃべりのみになります。
ここで書く内容なのかどうか少々悩みつつ、やはり書くことにしました。
食にまつわる話と言えなくもありませんので。
先日の明け方、奇妙な夢を見た。
私はおそらく大学生。
実家のある町の近く(多分、同じ市内の奈良県寄りの地区)にある大学寮で暮らしている。
寮は時代の付いた建物で、廊下や階段は光沢のあるなめらかな木材をふんだんに使った、大正時代のモダン建築物を思わせるたたずまい。
ああそうだった、この学校は地方の小さい私学にしては、そこそこ歴史があるのだけが取り柄の学校だった、とぼんやりと思いながら、私は自室へ向かう。
寮の部屋は基本二人部屋で、お手洗いとお風呂は共同ながら小さなキッチンが各部屋にあり、自炊をするのが基本…という変則的な寮だった。
部屋にはすでにルームメイト(同じ小中学校に通った幼馴染みのひとり。もちろん現実で彼女と同じ大学に通ったこともなければ、ルームメイトになったこともない)が帰っていて、キッチンの流し場で食器類を洗っているらしい音がしていた。
ああそうだった、私は今日、自分の洗い物をしていなかったと軽い罪悪感を覚えつつ、後ろ姿の彼女に『私がやるよ』と声をかける。
彼女は『いや、いいよ』とこたえた。それじゃあ夕飯は私が作ろうかなと言うと、『うんお願いする』とこたえた。
何故か彼女がずっと後ろ姿なのに軽い違和感を覚えながらも、私は食材を買いに行く。
ワックスのしみこんだ鈍い光沢のある廊下を、私はエコバックを手に歩く。
何故かところどころに、小麦粉らしい粉がこぼれ落ちている。
よく見るとそれは、小さな子供のはだしの足跡だった。
幼児が、うっかり落とした粉を踏み、そのまま歩いたような雰囲気だ。
なんとなく背筋がぞっとし、立ち止まって辺りを見回す。
お手洗いの入り口に、一番多くの足跡があった。
たくさんの子供が一斉にお手洗いへ駆け込んだような、どこか乱れた足跡だった。
こんなヘンな七不思議、ウチの寮にあったかな?などとどこかのん気なことを思いつつ、私は外へ出た。
いつも買い物する店へは何故か行けず(理由がわからないまま予定の行動が阻害される、夢あるある)、他を探す。
スマホで検索をすると、少し行った先で『この辺りで一番最初に稲作を始めた地区』が、町おこしの一環として地元で作った米や農産物の即売会をしているのを知る。
そちらへ向かい、『昔ながらの田んぼで作った』という触れ込みの米を2㎏ほどと、いくらかの野菜を買う。
お米のパッケージにある田んぼの写真は非現実的なくらい水が澄んでいて、何故かアユやイワナが泳いでいるようだった。
こんな田んぼでお米が出来るのかなと思いつつ、私は寮へ戻ろうとして……目が覚めた。
とりとめのない話でスミマセン。
正に『ヤマもオチもない』話、なんとなく不気味だったとしか言いようのない、しょうもない夢の話です。
ただ目が覚めた時、『助かった』というような気分になったのだけは確かです。
あの米と野菜で食事を作って食べてはいけない、理屈抜きでそんな気がします。
起床した私は朝ごはんを作り、家族と一緒に食べました。
バタートーストやハムをもぐもぐしながら、頭の中に浮かんだのは『黄泉戸喫』という言葉。
黄泉で煮炊きした食べ物を食べると、もう現世に戻れないというあの話です。
あのまま寮に帰り、買った米を炊いて野菜を料理し、後ろ姿だけの彼女と一緒に食べていたら……私は、心臓麻痺でも起こして眠ったまま突然死、していたかもしれません。
トーストの耳の部分を奥歯で噛みしめ、食べるっていうのはその場所で生きるってことなのかも……、と、眠そうな顔でトーストをかじっている家族の顔を見ながら、思いました。




