妹と親友の話
放課後、誰よりも早く帰って行った比嘉川を見送り、ゆっくりと帰り支度を進めていると、ぽんと肩に手を置かれた。
教科書をカバンに入れ、振り返るとカズキがなにか言いたげにたたずんでいる。
「朝の続きと行こうぜ! リア充のレンタくぅーん!? 詳しく聞かせてもらおうじゃないか!」
そこでぐっと肩を掴んでいた手に力がかかる。
中学時代に喧嘩で鍛えた握力は高校生男子の平均を超えている。
さすがに手加減はしてくれているとは思うがそれでも痛いものは痛い。
「痛てぇって、やめろ」
掴まれた肩を強引に捻って外しながら睨みつける。
あーなんかじんじんしてる。
「無駄な抵抗はやめて大人しく付いてくるんだ。……いやおまえの家で事情聴取と行こうじゃないか!」
「お前は理由をつけて妹に会いたいだけだろ?」
「そ、そんなことは無いぞ。親友に彼女が出来たらどんな風に付き合って、どこまで進んだか、からかう……確かめるのが務めってもんだ」
「今からかうとか聞こえたんだが、気のせいじゃないよな」
「……そんなことはどうでもいいんだ、さっさと帰ろうじゃないか」
このままでは良くないそう思い、助けを求めようとして隣の席を見たがそこに先程までいたはずの少女はいつの間にか教室のドアの方に移動していて、今まさにその扉を潜り帰ろうとしているところだった。
俺は慌てて呼び止める。
「助けて、金城さん!」
金城さんは足を止め振り返ったが、こっちに来ることはなく、どことなく黒い笑みを浮かべて、
「今日の昼休み、散々私を辱めておいて助けてなんて都合がいいとは思わないの?」
「確かに顔を赤くさせるような言動はしたけどそれだとまた違う意味に聞こえるんだけど?」
「とにかく私が恥ずかしい思いをしたのだから須藤君も恥ずかしい思いをすべきよ。それじゃあ……私、帰るから」
パタン。
少し強めに閉められ扉の音に残っていたクラスメイトが一瞬ビクッとはねて、椅子から落ちる。
そしてどっと笑い声がおきて落ちた少女が恥ずかしいそうに立ち上がるのを見ながら、唯一助けになりそうな人が去っていってしまった絶望感で1人笑えずにいた。
結局俺は、カズキの尋問を逃れることができず、家の近くまで着いてくるのを許してしまっている。
「なぁほんとに来る気か?」
「何度も言わせるなよ、あの金城とレンタが付き合ってるってそりゃみんな気になるだろ? でもレンタも金城もろくに真相明かさないだろ。そうなると変な噂たっちまうからおれが解明して正しく伝えてやろうと、……あっ、ちょっとコンビニ寄ってくか?」
「金ねぇ」
「そういえばお前おれがオススメしたゲームめっちゃ買ってたもんな。仕方ねぇ今日は奢ってやるよ」
何とか諦めさせようと説得を続けているとコンビニが目に付いたので寄ることになった。
店内に入り飲み物とお菓子を見定める。
「あ、おいレンタなんで高い方のコーラ選ぶんだ、少しは遠慮しろ」
「お前こそ来んなつってんのに来るんだ文句言うな」
「確かに悪かった」
「あれ? ここはもうちょいやり合う流れじゃないのか?」
やけにあっさり引いたカズキに多少の違和感を感じたのだが、その答えはあっさりわかる事になる。
「あれ? お兄ちゃんとそのお友達さんだ」
中学の制服に身を包み、財布だけもってやってきたのは妹のマリ。
「コンビニで一体何してんの?」
「何って買い物じゃん。お菓子買いに来たの。誰かさんがいつの間にかあたしの大事な和菓子食べちゃったみたいだから。そういうお兄ちゃんこそ友達にたかってるの? みっともないよ」
「いえ、マリさん。あなたのお兄さんはそんなことはしていません。僕が家に遊びに行かせていただく立場なのでお菓子を買っていこうと提案しただけです」
無駄にビシッと背筋を伸ばし妙な口調で妹に説明するカズキ。
いつ見てもこの変わりようは笑えるんだよなぁ。
しかもなにが悲しいって未だに名前すら覚えられてない。
お兄ちゃんとお友達さんって。
笑っちゃ可哀想だよな。
毎回緊張して自己紹介し忘れるんだから仕方ないんだけど。
ここで下手にツッコミを入れてたかっているとバレたら怒られそうなのであえて黙って成り行きを見守る事にした。
「あっ、そうなんですね。兄にこんな素敵な友達が……ぜひ今後も仲良くしてください」
「はい、こちらこそ。あっそうだお兄さんにお菓子を買うついでなので、マリさんにもなにか……」
「そんな悪いですよ〜」
「ついでですから」
「お兄ちゃん?」
「本人がこう言ってるんだ、素直に買ってもらえばいいじゃないか?」
「そうですそうです。遠慮なんてしなくていいんですよ? 僕これでもお小遣い多いですから」
チャラい見た目と相まって、中学生と付き合ってる不良高校みたいだな。
中学時代に同じような光景を見たことがある。
クラスでもまぁまぁ人気の真面目そうな清楚女子とチャラチャラした不良が、隣町のディスカウントのストアの数字の書かれた暖簾の奥のコーナーで買う買わないで揉めてた。
友人数名で見たので夏休み明けのメイントピックスとなり、男子の間でめちゃくちゃいじられてた。
そのせいかすぐに別れたらしいけど。
あの時の女の子、元気にしてるかな?
そもそも高校行ったのかな。
「そ、そうですか? それじゃあちょっと選んできます」
関係ないことを考えているうちに話がまとまったらしく妹はスイーツコーナーに向かって行った。
「よし、これで好感度上がったな」
「カズキ、お菓子で釣れるのは小3までだろ」
「うっせぇ貴重な1歩だろ。それよりマリちゃんの好きな飲み物ってなんだ?」
妹は何故かモテるのに彼氏を作ろうとしてない。
まぁ兄である俺が頼りなくて恋愛どころじゃないってのもあるのだろう。
その腹いせなのか知らないが告白された自慢だけはムカつくのでやめて欲しい。
「は? あいつが好きなのはそこにあるレモンサイダーだが? でもそれ家に箱で置いてあるから買っても好感度は上がらんぞ?」
「まじか」
「まじだ」
妹は俺より家の手伝いをしているので月の小遣いを倍ぐらい貰っている。
なのでその小遣いを使って、お気に入りのものを買いためている。
「あ、あのこれでお願いします」
好感度アップ大作戦が失敗して、うなだれるカズキのもとに羊羹をもって戻ってきた妹が声をかける。
「はい。任せてください」
一瞬で立ち直りそのままレジに移動するカズキ。
俺と妹は他のお客さんの邪魔にならないように外で待つことにした。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「さっきさ、お兄ちゃんの元カノ? からメール来たんだけど」
「なんだってさ?」
「あなたのお兄さん悪い女にたぶらかされてるから助けてあげてって」
「は? 金城さんが? そんなことないだろ」
確かに告白された理由もよく分からないし怪しい所がないとは言わないけど、少なくとも浮気してそれを隠して復縁を迫ってくる女よりははるかにマシだろう。
「でね、ゴールデンウィークぐらいにその人うちに連れてこられないかな?」
「聞いて見るよ」
「うん。よろしく。じゃあ私先帰ってお茶の用意しておくね」
「あぁ」
妹を見送り、カズキと合流するとそのまま家へと向かう。
妹が先に帰って露骨にカズキのテンションが下がったおかけで歩くペースが早くお湯を沸かしてる最中に着いてしまった。
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