お昼のざまぁ
俺のお弁当タイムは昼休みが始まって10分後からスタートした。
机の上に置かれた弁当を俺の机に移動させ、金城さんは何故か椅子を俺の横に持ってきた。
チクリと視線が突き刺さる。
「…………………………」
ゴクリと緊張で喉を鳴らす。
俺は今初めて女子の手作り弁当を開けようとしている。
横でそれを作った本人がガン見してくるのだ。 しかもものすごく緊張してるのが伝わってきてこちらに移るぐらいだ。
「あの、あんまり見られると開けづらいんだけど」
「そ、そうよね。えぇ少し向こうを向いておくからそのうちに開けてもらえるかしら」
俺に背を向ける感じに向きを変えてもらうとゆっくりと包みを開ける。
中には黒い2段式のプラスチック製の弁当箱。
上に箸が収納出来るよくあるやつだ。
触った感じあまり使われてようで、新品みたいに傷がない。
とりあえず箸を取り出すとその音に反応して金城さんが90度ターンしてまた横に戻ってきた。
「まだ箸出しただけ」
「あぁ。ごめんなさい」
もしかして金城さんって緊張すると毒舌が緩むのか?
先程までの威勢はどこかへ消えさり、しおらしくしている態度は性格まで文句の付けようのない美少女のようで弁当の中身にも期待が高まる。
意を決して横の弁当を留め金外し蓋を取り去る。
そこには、ハンバーグ唐揚げのメインと卵焼き。
ブロッコリーとプチトマトが入っていて、ハンバーグのタレが唐揚げに侵食しないようにレタスの葉で仕切られているおかずの層が飛び込んできた。
卵焼きは焦げも少なく、完璧な出来栄えだ。
下の段にはしっかり米が詰まっていて真ん中には梅干し。
まさにお弁当の見本のようだ。
「おぉこれ、すげぇじゃん」
弁当を作ってもらうなんて小学校の遠足以来。
無性にテンションが上がる。
金城さんは恥ずかしいのか、チラッ一瞬こちらを向くと背を向けたまま椅子の上で体育座りをして顔をうずめた。
しかし髪の隙間から覗く耳が、言い逃れできない赤くなっているのを俺は見た。
「レンタ。それぐらいならわたしでも作れるけど?」
近くの席を勝手に占領した比嘉川が不機嫌そうにそうアピールする。
ちなみに比嘉川の弁当は、冷食をつめただけなのか、ベジタブルミックスとコロッケ唐揚げ、そして謎の茶色い米の弁当を2つ広げていた。
片方は俺に食わせようとしていたようだが、さすがに2個は食えないし、そもそも先約は金城さんだからと引いてもらった。
何故かそれだけのことでカズキから購買でプリン買ってやるよと褒められたのだがよく分からん。
俺だってNOと言える日本人だ。
「いやいや、そりゃ確かにこれより美味しい料理はあるかも知らないけど、そういう事じゃないと思うぞ?」
「意味わからないんだけど?」
「俺もよくわかってない。けどそんな気がするんだよ」
料理を美味しくする上で1番のスパイスは愛情なんて言うけど、それは冗談じゃなくてほんとにそうなのではないかと思うほどに金城さんの弁当は魅力的に見える。
それをこれくらいと言ったことに多少のイラつきを覚えたが抑えて食べることに集中する。
「その、恥ずかしいのだけど? 早く食べなさい」
「そういう金城さんは食べないの?」
「私は後でいいわ」
「一緒に食べるために横に来たんじゃないの?」
「きちんとした反応を見るためよ。美味しくないのに美味しいなんてお世辞言われたら腹立つもの」
そうは言うが金城さんなら食べながら俺の反応を見るのは余裕だろう。
金城には心を読めるレベルの観察眼ある。
だからその言い訳には違和感を覚えた。
俺はそっと金城分の弁当の包みに手をかけた。
「あっ、ちょっとやめなさい」
金城さんの制止も無視して弁当箱を開けると、そこには焦げたハンバーグ。申し訳程度に衣をまとった露出魔の唐揚げがびっしりと詰まっているだけのおかずコーナー。
したのご飯が入っているところにも同じようなハンバーグと唐揚げが詰まっている。
「これって?」
目が合う。
涙目で今にも泣き出しそうな表情。
言葉はない。罵倒のひとつでも言いたいのに出てこないのかパクパクと開閉を繰り返すだけ。
「ぷっ、何この失敗ばっかりの唐揚げ。酷すぎなんですけど」
場違いなまでに明くバカにしたような比嘉川の声が教室を包む。
こいつからすればライバルの弱点を見つけたとでも思っているのだろうが、この瞬間比嘉川への気持ちがプツリと切れたのがはっきりと分かった。
こいつは努力する人をバカにするそういう奴なんだろう。
俺が受験勉強で努力していた時も、こいつはそれを馬鹿にしながら浮気をしていたんだ。
どうしてこんなやつを好きになれたのだろう。
一瞬でも好きだった自分が恥ずかしい。
無性にそう思えてきて、金城さんの焦げたハンバーグをやけ食いしてしまった。
「ちょ、そっちは私の……」
「大丈夫こっちも美味しいから」
「なっ!?」
教室に残っていた他のクラスメイトがヒューヒューと茶化してきたけどそんなことは関係ない。
「レンタそんな焦げたやつよりこっちの方が美味しいからやっぱりこっちを食べない?」
しかし1人だけ空気の読めてないやつがいた。
俺はハンバーグを全部食べてからたっぷり間を置いて。
「冷食じゃんそれ。美味しくて当たり前だろ? それを何自分が作りましたみたいに言ってるんだ? お前相当恥ずかしいよ」
「冗談だよね? レンタがわたしに酷いこと言うはずないよね?」
「この際だからはっきり言うよ。俺がお前と復縁する可能性は今この瞬間に無くなった。もう俺に構わないでくれ」
俺は努力する人間が報われて欲しいと願っているらしい。
比嘉川が努力している人間を笑うのをみて無性に腹が立った。
残っていた俺も悪かったかもしれないって気持ちがさっぱり消えた。
多分俺は無意識のうちにそう思っていたのだ。
俺が比嘉川を振ったという噂は、放課後には全校生徒が知るところとなった。




