修羅場の昼休み
「なぁレンタよ。おれはお前に聞かなきゃならん事ができたんだがいいか?」
「なんだ朝から怖い顔して」
遅刻ギリギリで教室に滑り込むと、入口で待ち構えていたカズキのやつが詰め寄ってきた。
ほんと朝から一体なんの騒ぎなんだろう。
入学してまだ2日、昨日はカズキの家にも行ってないしスマホでやり取りをしただけだから怖い顔をされる理由がないように思う。
少しヒントを探るためにカズキの肩越しに教室の中を見回す。
するとクラスの男子の半分近くが目が合うと露骨に逸らしてきた。
女子の方も見るが特に気にしていないように普通に喋って盛り上がっている。
男子が関係あることなのか?
それぐらいしか分からないので降参の意味も込めて手を上げる動作をしつつ続きを促す。
「小耳挟んだ情報によると、お前と金城が付き合うことなったというデマが聞こえてきたんだよ。そんなことあるわけないと思うんだが、一応念の為確認しておこうと思ってこうした待ち構えていたわけだ」
そういえば昨日の夜は、途中からふざけ始めて真面目な話を切り出すタイミングを失ったってのもあるし、付き合い始めた実感ってのを全く感じてなかったから言い出しにくさもあった。
その後のメッセージのやり取りでちょっと付き合ってかもと思えるようなやり取りをしたけど。
やはりここは素直に言うべきだろうか?
一応今高校に通っているのは、浮気のショックで受験勉強を放棄そうになった時期にこいつが慰めたくれたおかげもある。
だから彼女が出来たことを報告するべきなのではないだろうかと思う。
「ちなみになんだがもしも事実だって言ったらどうなるんだ?」
「どうなるもなにもないぞ? その時はマリちゃんをぐえっ……」
「やらん」
「ごほっげっほ。最後まで言わせろよ」
「俺に彼女が出来ようとも妹はやらん。せめて年収1000万稼いでから出直せ」
「あっおい」
一瞬でも真面目に報告しようかと悩んだのが馬鹿らしい。
カズキには適当に機会を見つけて報告することにしよう。
それがいい。
俺は何とか担任が来る30秒前に席に着くことができ、遅刻判定にならなくてすんだ。
「おはよう。須藤君。入学して2日目にして遅刻ギリギリとは感心しないわね」
「あははっ。面目ない。おはよう金城さん」
ホームルームが始まるまでの僅かな時間に挨拶を交わす。
今日も朝から毒舌は止まらないが、昨日のチャットを思い出すとまた違って見えてくる。
遅刻ギリギリは関心しないって言うのも早く来てほしいみたいな感じに思えるし。
これはもしやツンデレってやつなのではないだろか?
「明日からはもう少し早く起きることをおすすめするわ。起きられないというのなら起こしてあげてもいいわよ?」
なんか俺の知ってるツンデレと違う。
ツンデレって確かこういうのを素直に言えないからツンデレだった気がする。
「何を変なことを考えているのかしら?」
「別になにも考えてないけど?」
「嘘ね。言ったでしょ私観察眼だけは鋭いの。いいわ明日から毎回起こしてあげるわ。どんな手を使ってもねっ…………」
「なんか怖いんで遠慮しておきます」
男の勘がどこまで当てになるか知らないが、金城さんはモーニングコールなんて優しい起こし方してくれなさそうだ。
それこそ物理攻撃とか。
ホームルーム中はこうしてふざけて話しかけてきた金城さんだったが授業中になると空気は一変し、綺麗に机に突っ伏して眠り始めた。
タイトル、『学校の眠姫みたい芸術作品になりそう』なぐらい静かに、でも規則的に寝息を立てて、授業を寝過ごして言った。
最初は遅刻を責められた割に自分は寝るんかいって思い、起こそうとしてみたが起こすとギロっと睨まれ無言で起こすんじゃない的な圧をかけられてしまうと、どうにもできない。
結局4時間目が終わるまで、1度も目を覚ますことはなかった。
そして皆様お待ちかねの昼休み。
「金城さん? 昼休みになったけど」
「んんっ。んう? そう。ではお昼を食べに行きましょうか?」
急にスイッチが入ったように起き上がりカバンを探り出す金城さんを眺めていると、背後から人の気配がしてきた。
「ねぇねぇ、レンタ。わたしとお昼食べない?」
声の主は振り返らなくても分かる比嘉川だ。
それを認識すると徐々に心臓がバクバク言い始める。
完全な不意打ちでびっくりしているのだ。
ここは断るべきだ。
昨日妹やカズキから復縁はしない方がいいと言われた。
俺自身はまだ迷っているが、彼女も出来た。
金城さん自分を利用して比嘉川の気持ちを確かめたらいいなんて言っていたが、やっぱりそんなの金城さんに失礼だ。
どんな形であれ付き合うことを了承したんだからキッパリ断るべきだ。
そうしないと俺は比嘉川を責める資格が無くなる。
浮気とキープ、やってることはほとんど変わらなくなるから。
深呼吸をすると振り返り比嘉川をみた。
そこにはお弁当の2つ持った比嘉川がいる。
「ダメ?」
目があった途端上目遣いでそう聞いてくる。
比嘉川は自分の可愛さを理解しそれを武器として使いこなしている。
だから可愛い思ってしまうし俺にも悪い所があったから浮気されたんだと思ってしまう。
それは分かっている。でも、俺は比嘉川を断ち切って前に進まないといけない。
いつまでも妹に心配かける訳にも行かないし、カズキがいつまでも俺と比嘉川の仲を何とかしてくれる保証はないから。
俺は深呼吸をするとゆっくり口を開いた。
「悪い。金城と食べるから」
言えた。
ただ断っただけで飛び跳ねたくなるほど嬉しい。
今俺は貴重な1歩を踏めたのだ。
しかし、向こうだって断れることを想定していなかったわけじゃないらしい。
「えぇーそうなの? あっそうだ! ならさ金城さんも一緒に3人で食べない?」
ここでカバンからお弁当を取り出していた金城に矢が放たれた。
金城さんはゆっくりカバンを閉めると取り出した2つの包みを机においてから比嘉川の方を向く。
「あら? あなたもしかして空気が読めないタイプの人間なのかしら?」
「なにが?」
「昨日私は言ったはずよ私は須藤くんと付き合ってると。つまりこれは恋人同士がお昼を過ごすための約束なの。恋人でもなく無関係なのだからここは諦めるべきでしょ? そんなことも分からないのかしら」
堂々とした恋人宣言にクラスに残っていたほぼ全ての人間が動揺した。
特に朝聞き耳を立てていた男子の中には落胆したようにうなだれるものをいたし、カズキはすごい顔でなにアピールしてきている。
すまないカズキ。今はそれどころじゃないんだ。
「あー、わかった2人っきりで変なことするつもりなんでしょ? だからわたしがいると出来ないから除け者にしようとしてるんだ」
そんなことは全く思ってないのだが、恋人である事実があるせいでここでダメだといえば変なことをする可能性があるとクラスメイトに思われてしまう。
そうなれば、まだクラスメイトになって日が浅いので、面白い噂は尾ひれがついて学校中を元気に泳ぎ回るだろう。
明日には他のクラスや学年の生徒にまで噂が広がりしばらく平穏な日々は無くなる。
「卑怯な手ね。そう言われしまえばこちらはあなたを拒みにくくなる」
「それでどうするの? わたしも一緒に食べていいの? ダメなの?」
「好きにすればいいわ。須藤君仕方がないけどここで食べましょうか」
策略にはめられた俺たちは教室でお昼を食べることになった。
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