妹無双
薄暗くなった道を1人で歩く。
金城さんとは正門で別れたのだ。
送って行こうかとも思ったが迎えが来るからいらないと先に言われてしまっては無理に一緒に帰る訳にも行かず1人寂しく帰っているわけだ。
1人で歩いていると思いのほか暇なので、ついついスマホに手が伸びる。
「うわっ」
スマホのロックを解除してびっくりメッセージが100件以上ついていた。
そのうち90件近くがが妹で、5件ほど広告で1件だけカズキからのメッセージが入っていた。
『入学式まだかかるの? 』
『 もしかしてご飯食べてくるの?』
『 連絡してよ』
『 おーい! スマホ見てー』
『 早く返信しないとご飯抜きにするよ?』
『もしかして事故?』
『 あの女と同じクラスになって自殺とかやめてよ』
こんな感じのメッセージが90件ついていた。
最後のメッセージがもう知らないで締められているのでだいぶ怒っているようだ。
「これはだいぶまずい事になった」
あの浮気の時ショックで何も手につかなくなった俺を見てから妹は少しだけ心配性になってしまった。
妹はきっとものすごく心配して俺の帰りを待っていることだろう。
連絡を怠ったからには、怒っている妹に当然今日あった出来事を説明する責任が発生する。
心配かけたのだから当然だ。
彼女が出来たから遅れましたなんても許されるとは思えない。
「よし、コンビニでケーキでも買って機嫌とるか」
少しだけ寄り道して帰ることが決定した。
夕方のコンビニは驚くほどに人がいない。
万引きの疑いでもかけているのかじっと監視カメラ以上に睨みをきかせる店員の視線を浴びながらスイーツの置いてあるコーナーにつくと1番目立っているケーキに目がとまった。
500円超のそこそこの大きさのイチゴショートケーキだ。
妹は昔からショートケーキが好きなので買えば確実に機嫌を取る事ができるだろう。
しかし今月のお小遣いは受験で見送っていたゲームを買うためにほとんど使ってしまっている。
約1年間一切やってなかったからついつい荒ぶってお小遣いを使い切ってしまったのだ。
ここで500円を失うとあと3週間程を61円で過ごさねばならなくなる。
悩みどころ。
他のもので安いスイーツでもそれなりに効果があるかもしれないが、他に妹がどんなものが好きかあまりよく知らない。
あまり自分の好みを表に出してくれるタイプでもないし。
しかし昔からクリスマスは妹の好みに合わせてイチゴのショートケーキなのだ。
だから確実に喜ばせられるのはこれしかない。
いや、機嫌とるためのアイテムと考えるから高いのだ。
詫びの品を買うとすればむしろ500円は安いんじゃね?
少し前に母さんが持って帰ってきた取引先からの詫びのお菓子は1万円越えの高いものだった。
それを考えると500円は破格といえる。
よし買って帰ろう。
そう決意するとレジにショートケーキを持っていくのだった。
ショートケーキを崩さないように慎重に持って家に帰ると玄関を開けてすぐに妹が正座をして俯いていた。
扉が開いた音で顔を上げる。
「遅いっ! 遅くなるなら連絡ぐらい入れてよ」
人の顔を見るなり涙目でそう叫んだ。
妹と泣かせた事にかなりの罪悪感が全身を包み心苦しくなる。
「ゴメン。ちょっと人と話してて帰るの遅れたんだよ」
「んーんっ。誰と?」
慌てて謝ったものの、妹は家にあげるつもりがないのか、玄関に正座したまま自分の横の床を叩き俺に座るように促すと、一瞬考えるように唸ってから尋問を開始した。
咄嗟に嘘をつこうかと思ったが脳内に金城さんの顔が浮かび、あなた嘘つくの下手よね? 脳内再生された。
「金城さんって言う人だ」
嘘をつくのは良くないと思いながらも余計な部分を省いて答えた。
「男の人? 女の人?」
「女」
「はぁ。いい? お兄ちゃんあんな悲しい思いをしないためには、必要以上に女の子と関わらないこと。今のお兄ちゃんはまだ傷口が治ってないの。だからどーしても女と仲良くしたいって言うならあたしが……」
「それなんだけど付き合うことになった」
「えー!? お兄ちゃん何考えてるの? その人中学時代からの知り合いじゃないよね? あたし把握してないし、誰よその女」
「落ち着け。なんかさらっと変なこと言ってるし、情緒不安定だぞ?」
「はぁはぁはぁはぁ。お兄ちゃんが変なこと言うからでしょ? 入学初日彼女ができるなんて絶対おかしい。詳しく話して」
「ならそろそろリビングに移動しないか?」
暖かくなり始めている4月といえど夜は冷える。
特に玄関はいつもひんやりしているので、座ったまま動かずに、喋るとなると寒くて風邪をひくかもしれない。
妹は身体な弱いし。
そう思い靴を脱いで立ち上がる。
「お兄ちゃんずっと正座してたら足痺れたから運んで」
「おう」
「えーおんぶは子供ぽい」
お姫様抱っこでリビングまで妹を移動させる事になった。
「お兄ちゃんそのコンビニ袋もつよ?」
「それ詫びな。中身はお楽しみ」
「ほんとに? お兄ちゃん今月ゲーム買いすぎたからお金ないとか言ってなかった?」
「そうだが? 両手塞がってるから扉空けてくれ」
「はい」
連携してリビングにつくとソファに向かい合って座る。
妹は既に詫びの品のコンビニ袋が嬉しいのか若干顔をニヤつかせている。
「何黙ってんのさ、ほら説明する」
ニヤついていたのは一瞬のことで思い出したように顔をあげた。
俺は少し悩んだんだが放課後の話を包み隠さず言うことにした。
復縁の話も全部だ。
全部聞き終えた妹は。
「はぁー? お兄ちゃんは復縁なんてしないよね?」
「正直言うと悩んでる」
「なんで? 浮気されたんだよ?」
「でもあれは俺が受験に力を注ぎ過ぎたせいもあったんじゃないかって思わないこともないんだよ」
「そんなことない! お兄ちゃんはあの女と同じ高校に行くために頑張ったんじゃん!だからそんなことある訳ないよ! いい?次復縁迫ってこられても絶対断ること! それから金城さんって人は、何か裏があるような気がするから変なことをしてきたらあたしに相談すること!以上!」
有無を言わせない迫力に思わず頷くしかなかったのだが、こうも俺は悪くないって言ってくれる人がいるとなんだかそう思えてくる。
次復縁を迫られたらしっかり断る。
そう心に決めて夕食を食べようとキッチンに向かう。
「なにしてんのお兄ちゃん?」
「そろそろ夕飯食べようと思って」
「お兄ちゃんが返信しないから1人で食べちゃったよ?」
「俺の飯は?」
「ないね」
「えぇー」
「うそうそ。まだ、あたしも食べてないからサッと作って食べちゃお」
心臓に悪い冗談はやめてくれ。
そんなことを思いながら夕飯を用意するのだった。




