入学式と復縁と割り込み
学校に着くと正門にはクラス分けの掲示板が張り出されそこにこれから同級生となる人達が群がっていた。
「レンタ、完全に出遅れたな」
「背高いんだし何とか見えないのか?」
「いや無理だな。見てみろ」
カズキが顎で示した先には元カノの比嘉川が人混みをかき分け最前列に行こうとするが力負けして押し出されている瞬間が視界に映る。
幸いな事に俺たちの方が後ろにいるので前の掲示板に気を取られている間は気付かれることは無いだろう。
だから今行くのはやめた方が良さそうだ。
「それにしても意外だったよな。なんだかんだでベタ惚れしてたはずの比嘉川が……なんて」
「蒸し返すなよ。ショックで家に帰っちゃいそうだ」
「あー、わり。さすがに無神経だな。でも気にはなるだろ?」
そんなこと俺が1番知りたい。
だが、何も聞かずに別れると決めた以上今更聞くというのもダサい。
なんであれ比嘉川は別れることを受け入れたのだ。
これ以上引きずっても迷惑な人になるだけ。
クラス分けで上手いこと別のクラスになればほとんど交流はないはずだ。
俺は帰宅部になるつもりだし委員会もやらないから接点が生まれることは無い。
しばらくすると掲示板のピークが過ぎ、隙間が出来たので、クラスを確認する。
1~5組まであるようで1クラスずつ掲示板が区切られている。
1組は名前がなかったので、2組を確認していると先に3、4組を見ていたカズヤから喜びの声が聞こえてきた。
「見ろレンタ。俺とお前は同じ3組だぞ! これで1年同じクラスだ」
言われて見ると真ん中に確かに須藤レンタの名前があり、その上に楠木カズキの名前もあった。
「今年もよろしく」
「新年かよ」
と喜んだのもつかの間。
流れで見た女子の名前を見たところで一気に顔が曇った。
「神様を殴る方法って知らん?」
「あちゃーご愁傷様レンタ」
同じ3組に元カノの比嘉川の名前まであったのだ。
入学式。
新入生のみながこれから起こる高校生活に期待と不安を胸に抱き、若干ソワソワと落ち着きの無い感じで、体育館に整列している中、俺は1人どす黒いオーラを出しながら校長先生の話を聞いていた。
「おいおい、レンタさーん? 隣近所から怖いって苦情来てるんだが?」
「文句は神様に言え」
5分の1ならそりゃさ、引く可能性もあったよ。
でもだからって見事に引くことなくない?
なんだよこの確率。
絶対何かしら操作が行われているだろ。
パッと見うちのクラスに見知った顔ぶれが固まってるし。
「レンタよ。お前があいつと極力関わらなくて済むように俺が協力してやるからその殺気だったオーラしまえ」
「本当だな?」
「あぁ」
「信じるからな?」
「任せとけ」
俺とカズキの間で元カノと極力関わらなくて済むように何とかする同盟が結ばれた事で少しだけ心が楽になった。
式が終わると、新入生達は担任を先頭に教室に戻る。
俺のクラスの担任は30歳程の女の先生だ。
1部の男子生徒は、美人が当たったとはしゃいでいたが、厳しく一喝したことで、震え上がった。
はしゃがれることは慣れているのかもしれない。
教室に戻るとそのまま自己紹介が始まる。
廊下側の男子から始まり、次の生徒が終われば俺の番という所まで来ていた。
しかし、何も思いつかない。
進級進学における自己紹介は、最初の関門だ。
クラスメイトになった人間の中に自分と合う人がいるかどうかを見極める大事な要素だ。
上手くトップカーストになるかもしれない人間に気に入られれば、それだけでグループ入り成功する確率は上がる。
逆に失敗すれば、それだけでぼっち確定なんて事も。
失敗出来ない最初のイベントそれが自己紹介だ。
だと言うのに何一つネタや興味を引かせられるものがない。
受験勉強ばっかりしてきたせいで流行りのゲームも知らない。
少し前のやつはウケ狙いに失敗して滑っていたが、勇気を称えた拍手によってクラスに溶け込んだ感じがした。
次にウケ狙いをするなら確実にウケる何かが必要。
くそっ。無駄にハードルあげやがって。
「……です。1年間よろしくお願いしまーす」
考えているうちに前の自己紹介が終わってしまった。
「次」
担任の短い指示におれはその場に立ち上がる。
そして1周クラスを見回すように見る。
その途中にいる元カノと目が合いそうになり慌てて方向転換。
そこから誤魔化すように早口で自己紹介を始めた。
「須藤レンタです。えー趣味はゲーム………………1年間よろしくお願いします」
大失敗だ。
恥ずかしさのあまり、風船がしぼむようにゆっくりと着席。
その動作が面白かったのか近くでこらえるような笑いが漏れ聞こえてきた。
声の主を探して見ると真横の席に座る女子だ。
長い黒髪のとんでもない美少女。
アニメキャラならメインヒロインでもおかしくないほどに整った顔を笑いをこらえるためにくしゃくしゃにしているのは、なんだかちょっと不思議な感じで悪いとは思いながらもガン見してしまった。
一通り笑い終えると当然視線に気づき目が合う。
「何かしら?」
見られている事が不快だったのだろう不機嫌な事を隠そうともせず、睨みつけながら、低い威嚇するような声で俺に問いかける。
「すごく笑ってたみたいだからなんか喜んで貰えて良かったなぁと」
「何よあの情けない自己紹介。本当笑えてくるわね。でもそういうの嫌いじゃないわ」
俺のお隣さんは口は悪いが美少女で少し変わった人みたいだ。
そこから会話は途切れたが、彼女の自己紹介の番になった。
「金城カノンですよろしくお願いいたします」
金城さんは友達付き合いに興味がないのか義務的な1行を3秒足らずで言い終えると流れるように着席する。
その芸術品にも劣らない容姿のおかげなのか、クラスのほとんどが金城さんに見とれ文句を言えず放心したように時が止まっていた。
まさに天性の美少女だからなせるチート。
俺も見事にかかり金城さんに見とれていた。
「ねぇ……もしかして無視しているのかしら?」
「はっ? もしかして俺?」
「他に誰がいるのよ。私の隣にはあなたの他にいないでしょ?」
「思っきりいるけど」
「そんなことはどうでもいいのよ」
「なんか用なのか?」
「私、観察眼に優れているのだけれど、その観察眼で見つけたあなたの情報を披露しようかと思って」
「何それ怖い」
金城さんとはほとんど話していないのに情報を見つけたとか言われたらそりゃ恐怖しか感じないだろう。
しかし気になるのも事実。
俺はひとまず続きを促した。
「あなた。このクラスに嫌いな人がいるんじゃないかしら? 具体的には女子の中に」
「え!? そ、そんなことは無いけど……」
「そう……。なら片思いをしてるそれか告白して振られた女子がいるのかしらね」
そう言いながら金城さんはピンポイントで比嘉川の座っている辺りを見た。
当然おれには動揺が走る。
金城さんがどうしてそう思ったのかは不明だが、ものすごく惜しい所まで来ているのだから。
「ハズレって顔ね。それじゃ元カノとかかしら? あら正解なのね。あなた素直でわかりやすいわ」
「こんなことしてなにが目的なんですか?」
「私も高校生活を楽しみたいの。だから隣の席の男子がいい人かどうか見極めるの。なにかおかしい?」
確かに金城さんの言うことはおかしくない。
でもそれならさっきの短すぎる自己紹介はどうなんだろう。
行動と矛盾している。
「そうね、自己紹介の短さでも気にしてそうだから言うけど、私不特定多数と仲良くする趣味はないの。私が面白いと思う人だけを厳選して仲良くする事にしているの。全部顔に出てるわ。本当に面白い。あなた嘘とかつけないタイプでしょ?」
「そうだけど」
「ならこれからよろしくね」
これだけ怖そうな少女でも、一瞬見せられた笑顔でどれだけマイナスになった心象もチャラになるんだからもしかしたら金城さんって現代に生き残ってる魔女とかなんじゃないか?
自己紹介が終わるとそのまま解散となった。
クラスメイトとなった皆は、親睦を深めるべく連絡先の交換等に励んでいる。
俺は残念ながらそういった声掛けはなく、代わりにあったのは……。
「ねぇレンタ。今から少しだけ時間もらえないかな?」
放課後になり男子の誘いを全部無視して一直線にやってきたのは元カノの比嘉川メイ。
その表情は、遠い昔に告白された時と同じだった。
「あぁわかった。外に出よう」
俺は素直に比嘉川の後ろをついていき、人気のない階段の踊り場にやってきた。
すごく静かなせいか遠くから盛り上がるどこかのクラスのはしゃぎ声が聞こえてくる。
「それでどうしたの?」
沈黙に耐えかね俺から切り出した。
比嘉川と直接会うのはクリスマス以来初かもしれない。
もちろん教室や卒業式で顔は合わせていたがこうして面と向かって2人きりで話すのは久しぶりだ。
今更何を言い出すつもりなのだろう。
「あのね。その別れの事なんだけど……取り消せないかな?」
「え?」
「1ヶ月以上さ、離れてやっぱりわたし、レンタがいないとダメなんだって気がついたの。だからやり直したいの。メールで言おうかとも思ったんだけど、やっぱりこういうのって直接言った方がいいと思って。今日学校行く前に家に行ったらもう出たあとって言うから会えなくてさ……」
比嘉川は嘘をついている。
確かに俺は早く家を出たけどその後カズキと遅刻ギリキリになりそうなぐらいバカやって走ってきたのだ。
そして入学式前のクラス分け発表の掲示板で前にいる比嘉川を見たんだ。
どこかが真実だとしてもどこが矛盾する。
だから比嘉川は嘘をついた。
でも比嘉川が反省してくれているのなら1度ぐらいチャンスをあげてもと思ってしまう自分もいる。
比嘉川が彼女だった日々が楽しかったからこそショックだったわけで、やり直したいと言うなら……。
「その必要はないわ」
「誰?」
葛藤している最終に聞こえて来たのは女の子の声だ。
とても澄んだ綺麗な声。
一瞬妄想かともおもったが、比嘉川が反応していることから妄想ではないはず。
「私は同じクラスの金城カノン。自己紹介したの忘れた?」
「そ、そうだったわね。全然印象に残ってないわぁ。それでこの場に出てきて何? わたし今大事な話してるんですけど、無関係な人は引っ込んでいてくれません?」
比嘉川のこんな怖い顔初めて見たかもしれない。
突然現れた金城さんに驚いたはずが元カノの見た事のない一面に驚きが上塗りされた。
「私が無関係? それなんの冗談かしら? 私今日から彼と付き合うことなったのだけど?」
もっと強い驚きが上塗りされた。




