入学前のたわむれ
入学式当日の朝。
俺は珍しく早起きをしていた。
これから始まる高校生活に少しだけ期待していつもより早く目が覚めたという方が正しい。
普段はどちらかと言うと遅刻ギリキリ間に合えば問題ないでしょタイプの人間。
「ふぁぁあっ」
「眠そうだね」
「まぁ早く起きたからな」
「今日から高校だけど大丈夫、お兄ちゃん?」
ひとまずリビングに降りると、既に妹のマリがソファーに座ってテレビを見ていて、振り返って首だけこちらに向けてきた。
妹は俺が比嘉川に浮気された事を知る人物の1人。
クリスマス翌日落ち込み勉強に全く身が入っていない俺に、そのまま受験不合格になったらもっと惨めになると発破をかけてくれた恩人でもある。
姉のような頼もしさもがあるせいで知り合いからはよく生まれる順番逆だろってからかわれるほど。
それでもありがたい存在だ。
基本的に妹は早起きなので俺より先にリビングにいることが多い。
今、この場に俺と妹しかいない。
両親はいつもも遅くまで働いていたので、この時間に起きていることはあまりない。
父さんも母さんも仕事大好きで海外に平気で飛んでいくような人達だ。
基本は妹か俺が2人分の朝食を用意する事になる。
別に当番制ではなく、その日の気分とか予定がない方がやるみたいな曖昧なもの。
今日は妹がやるみたい。
「さぁ? わかんね。なるようになるさ」
すっと立ち上がりキッチンに向かう妹の背中に向かって返事を返すと定位置であるソファーの右端に座ってニュースを眺める。
金城グループというどっかの金持ちの企業がファミレスチェーン店の運営会社を買収したなんてニュースが流れている。
結構良く行く店だからどう変わるのか気になるな。
「パンでいいよね?」
「うん」
「ジャム? マーガリン?」
「うーん」
「どっち?」
「あぁ」
「聞いてる?」
「あぁ?」
「だからどっち? ジャム?」
「ジャム」
朝はぼーっとしていることが多いが、これはさすがにまずい。
雑に返事していることがバレて妹が不機嫌になっている。
朝食を用意してもらう立場でこれはいけない。
目を覚ますために先に顔洗ってくるか。
朝食を食べ終えた俺は、入学式の用意のために部屋に戻った。
充電器に差しっぱなしになっていたスマホが通知を知らせるようにピコピコとランプを点滅させている。
着替えの前に確認しておこうと思いロックを解除した。
『起きてっか? 』
親友の楠木カズキからのモーニングコールだ。
そういえば、入学式そうそう遅刻したくないからメッセージ入れて反応なければ電話で起こしてくれって言っておいたんだった。
『起きてる。ありがとう 』
そう短く返して着替えを始める。
中学時代とほとんど変わらない制服の作りなのでさほど手間取ることもなく着替え登校予定時間より少し早く家をでた。
そのおかげか通学路にはほとんど人はおらず、2、3台車とすれ違った程度。
それも1台はこの辺じゃあまり見かけない高級外車だ。
新入生が乗ってるはずはない。
しばらく歩いているが人が少ないと日程を間違えたんじゃないかって不安になる。
1度立ち止まり念の為プリントを再度確認し、スマホで日付を見返す事にした。
遅刻より日程間違えてる方が恥ずかしいし。
3回確認しても間違いがないと確信がもてたので再び歩き出すと背後からドタバタと何者の走って来る足音がして振り返った。
「とぅ!」
そんな掛け声と共に振り下ろされるチョップを間一髪腕で防ぐ。
「危ねぇお前」
「いやー悪ぃ悪ぃ。いつも以上にぼーっとしてるかと思って心配になって」
そんな軽いノリと共に現れたのは一応の親友楠カズキ。
髪を茶色く染めた若干チャラ男風な風貌の男だ。
チャラいのはあくまでも見た目だけで中身は真面目なのだが、ノリが軽すぎるのが欠点。
「反応して俺が足音を警戒しなかったら入学前に大ダメージだったぞ? あと、心配の仕方完全に間違えてる」
「まぁそれだけ怒れるなら元気ってことだ。うん、良いな」
「何勝手にいい感じにまとめてんだよお前」
「合格決まった途端、急に元気なくなったやつがこうして元気に入学式に来てるんだ、めでたい事だろ」
確かに俺は受験という浮気のショックを忘れて打ち込めるものがなくなり春休みの間元気を無くし無気力状態になったことがあった。
その時に毎日家に来てはゲームの相手になり俺を元気づけてくれた。
まぁそれは半分口実みたいなもので。
「俺が元気になったとしても妹と付き合うことは許さん」
「このシスコンめ」
「なんとでも言うがいい。チャラ男のようなやつには妹はやらん」
カズキは俺の妹の事が好きらしい。
妹は母さん似で可愛いらしい。
俺としてはどっちも可愛いとは思わんのが、母さんは学生時代モデルをやっていたとかで客観的に容姿が整ってるのは確かだ。
その遺伝子を受け継いだ妹がモテるのもわからなくはない。
だからこそ妹が男を誑かすビッチにならないように兄として最低限狙おうとする同級生ぐらいは抑えておく必要がある。
「そろそろ遅刻しそうだしいくべ」
カズキとふざけているうちにどうやらかなり時間が過ぎてしまったらしく俺達は大急ぎで高校へと走ることになってしまった。




