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ターニングポイント《前編》

「……なに? スティングレイの反応が消えた……?」


 学園島地下に存在する、ネビュラスの秘密基地で。

 思わぬ情報がもたらされ、暗がりに沈んでいた男は呟く。

 応えるように、室内に併設された液晶モニターが点滅。男の困惑を解消するべくか、様々なデータを表示し始めた。


『本日午後一時五三分、少女の始末に移ったスティングレイからの通信が途絶えました。同時刻に学園島上空で雷が発生、直後に待機してた反応が消失。推測……スティングレイは雷に打たれ、怪人化が解除されたのではないかと』


 同時、設置されたスピーカーから無機質な女性の声が響く。

 アストライアのロゴスに匹敵する能力を持った、ネビュラスが統括する情報集積人工知能──ミュトスのものだ。


「たかが自然発生した雷程度で怪人がやられるものか。だが、実際に事が起きているのだからな……こちらの不手際か。回収はどうだ?」

否定(ネガティブ)。落下ルート、落下地点を算出した結果、東京湾近海に着水したと見られますが、付近をアストライアの哨戒船が航行中。ネビュラスの構成員を派遣するのは適切ではないと判断します』

「怪人化が解除された以上、相応のダメージを負ったなら身動きも取れんだろう。逃走は不可、身柄も押さえられたと考えるべきだな……」


 あらゆる索敵類の感知に触れないステルス性能を保持し、誘導可能な魔力エネルギーの刃で、凶器の証拠を残さず対象を殺害する。それがスティングレイの能力であり、役目。

 暗殺を主とする構成員である為に人員を割けず、故に単独で行動させていたのが仇となったのだろう。

 これまでネビュラスにとって有益な恩恵を与えてきたスティングレイの末路。嘆かわしくも組織の目的の為ならば、その犠牲は許容しなくてはならない。

 容易く生死がどうであろうと構わない……男はそう考え、深くため息を吐く。


「まあいい。それよりも想定外なのは、あの少女が怪人にならず、自壊もせず生き残った事だ。理屈も分から無さそうな子どもの癖に、意外にも理性的なんだな」


 マヨイ達、アキト達が探していた白髪の少女。

 彼女が持っていた怪人化薬は不完全──他の物と違い、インベーダーの超常的な力を与える代わりに、打てば確実に命を落とす代物であった。

 周囲を巻き込み、口封じも兼ねた時限付きの爆弾。

 手っ取り早く恐怖と混乱に正気を失い、自爆する物だとばかりに思っていた。だが、少女は生きているのだという。


『スティングレイに取り付けられたカメラ映像は、随時ネビュラスのサーバー内に送信されていました。ですが、少女が自身にアンプルを打とうとした瞬間に乱れ、その後は定かではありません。しかし……』

「過去にネビュラスが作り上げた最高傑作が、彼女の元へ辿り着いたと把握。されど、そこから先は映像送信が完全に断絶。復旧もままならない状態か」

肯定(アファーマティブ)。ミュトスの性能では限界があり、これ以上の情報は得られません』

「構わない。元より君はクラッキングに特化している個体だからな」


 かつてアストライアのサーバーを攻撃し、軍用設備の権限を奪取。

 ニューエイジと夜叉を苦しめた元凶のミュトスに、男は提案する。


「少女に持たせた怪人化薬。アレが無傷で残存していると思うか」

『確証を得られていない現状、応えられません。ただ、少女の身柄は総合病院ではなくアストライアの療養施設の預かりとなったようです』

「ふーむ、困ったなぁ。こちらの身分がどうなろうが捨てた以上どうでもいいが、仮に怪人化薬が残っていればアストライアへの情報寄与となってしまう。かといって本拠地に構成員を送り込むには戦力が足りない」


 怪人化薬の完成度を確認するべく、定期的に学園島を襲撃させている弊害。

 その影響が、影を差すように現れ始めてきたのだ。


「仕方ない。しばらくはネビュラスの活動自体を自粛するとしようか」

『よろしいのですか?』

「ああ。隠れ蓑としての病院勤めは中々に有意義だったが、意外にもアストライアに鼻のいい連中がいるみたいだからね」


 ネビュラスの首魁としての判断を下し、首から下げたネームプレートを外す。


「時には肉を切らせ、骨を断つ必要もある。互いに高め合う形で協力してもらうとして、アストライアへの施しにしよう」


 それに、と。

 液晶モニターの一つを見つめながら、カリヤは口元を歪める。


「思わぬ収穫も得られたからね……」


 そこに表示されていたのは、最高傑作と称した人物。

 男こそ未だ知らずとも──夜叉の変身者たる天宮司アキトの診断書だった。

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