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ニューエイジの診断結果

 時は少し進み、公立病院の受付窓口。

 そこにはアストライアの戦闘部隊であるニューエイジのマヨイ、リン、エイシャが立っていた。

 待合室で待機してい彼女達は呼び出しのアナウンスを受け、それぞれが神妙な面持ちで時を待つ。


「では、こちらが本日の検査結果になります。お大事に!」


 やがてカウンター奥の部屋から戻ってきた受付担当から、三枚の茶封筒を差し出される。快活な笑みで送りだされた反面、彼女達の表情は暗く沈んでいた。

 近くに併設された休憩スペースに移動し、席に着く。誰もが何も言わないまま、目線だけがテーブルに置かれた封筒と人の顔を泳ぐ。


 異様な雰囲気と空気に周囲から囁きが生じていた。

 何か深刻な病が……怪我が……と憶測を口にする。注目の的になっているなど露とも知らない彼女達は、やがて意を決したように封筒を手に取った。

 マヨイは片目をつぶり、もう片方を細め、恐る恐る封筒を開く。

 倣うようにリンとエイシャも続き、一息に中身……診断書を取り出す。


 如月マヨイ。

 肝機能に異常あり。判定結果、C1。


 門倉リン。

 糖代謝に異常あり。判定結果、C1。


 エイシャ・アルメリヤ。

 コレステロール値に異常あり。判定結果、C1。


『まずい……』


 揃いも揃って何たる様か。

 かろうじて首の皮一枚、繋がったというべき惨状に。

 彼女達は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。


「やばいやばいでしょやば過ぎるって。こんな結果になるなんて初めてだよ? アタシ、これまで優良健康女子として通ってきたのに……」

「実習生と戦闘部隊。どちらも両立させている生活スタイルが影響しているのは分かります。でも、だからって、こんな……」

「おかしい、我の食生活に不足は無いはずだ。しっかりと野菜、肉、穀物を摂取する為に日夜ジロウ系ラーメンを食している。至高の完全栄養食に落ち度があるとは思えんのだが」

「いや落ち度しかないでしょ。頻繁に食べ過ぎなんだって」

「人を言えた義理ではありませんがエイシャは改善した方がいいです」


 思い思いに診断結果へ文句を垂れる。

 しかして、そうなってしまった自覚がある分、苦虫を噛み潰したような顔色になるのも致し方ないと言えよう。ニューエイジとしての激務は、それぞれの私生活に毒の如く侵食していたのだ。


 偏向装置によるゲート発生、インベーダーの対処。

 反社会組織ネビュラス構成員による怪人化薬の被害。

 そして何より、連日の出動に応じて現れる夜叉の対応。


 特にニューエイジは夜叉の捕縛を筆頭の目的にしている為、必然的に関連した情報収集や武装開発の中心となっている。

 彼女達が装着しているパワードスーツ、フレスベルグの設計者である本郷博士も当然。全員が研究者の輪に入って頭を悩ませている時間は少なくない。


 先日も魔力・魔法に精通した“魔法師”──夜叉本人の申告によって呼称された新たな形態への解析で徹夜続き。

 加えて日中はパフア校で実習生として生活を送っている。自身の体のケアが万全に出来ているとは言えない状況が続いているのだ。

 遺憾ながらも、狂った生活サイクルの結実が診断結果に並んでいた。


「くっそ~、しばらく甘い物を控えなくっちゃいけないかぁ。こういうのもフレスベルグのナノマシンで何とかならない?」

「バカな事を言わないでください。身体への過剰影響を防ぐ抗生アンプルを打ち込んでいるおかげで、私達は正常でいられるんですよ。というか、私も食生活を制限しないとだめですね……」

「マヨイは我らよりも食事の量が桁違いに多いからな」

「だって頭と体を働かせてたらお腹が空きますし」

「でも毎食山盛りご飯を食べるのはどうかと思う。お米の消費量どれくらい?」

「毎日七から八合ぐらいですから、そこまで多くないですよ」

「おかずも合わせたら相当なんだよなぁ」

「しかも一人暮らしだからな」


 普段の生活に掛かる精神的負担の解消。

 その手段としての食事に顕在化する問題が、現在の彼女達を苦しめていた。


『はあ……』


 意気消沈した彼女達はため息を吐く。

 これから訪れる食事制限の未来に憂鬱な感情を隠し切れていなかった。

 自己管理も大人として大切な努めなのである。若さや訓練、出動時の運動量でも誤魔化せる類の課題ではない。

 暗い表情のまま、どうしようもなく(うつむ)いていた。


「あれ? あそこにいるの、マヨイ先生たちじゃない?」

「確か、パフア校にやってきた実習生の方だよね?」

「そっす。こんな所にいるなんて驚いたぜ」

「あいつら、休日にも関わらず病院で何をしているんだ……」

『うげっ、マジか。くわばらくわばら……』


 そんな時、聞き慣れた声が耳朶を叩く。

 顔を上げれば、休憩スペースを横目に置くアキト達と目が合う。

 突然の顔合わせにお互いが指を差し、偶然の邂逅に頬を緩ませた。

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