裏工作
時は変わり、アキト達が調理実習をしている頃。
病欠扱いでパフア校に出勤していないエイシャと行動を共にしている本郷博士は、【超人計画】の情報を掴むべく調査に出ていた。
第二の東京と揶揄される、広大な敷地面積を誇る学園島。
アストライア本部から本島に向けて伸びる海峡大橋を越えて、海辺近くに連なる一軒の家屋を二人は訪ねていた。
以前にアライアンス系列の研究所に勤め、【超人計画】を提唱した研究者たちの一人。生体関連の分野において、それなりに名を馳せていた者の住所──の、はずだった。
インターホンを押しても反応は無く、戸を強く叩いても応えない。
まさか、と思いつつ玄関に手を掛ければ、鍵が掛かっていなかった。不審と胸騒ぎに戸を開き、がらん、とした閑散な空気に混じって漂う血の臭いが鼻につく。
護衛という立場もあり、屋内を先行するエイシャは臭いの発生源を発見。
そこにいたのは、見るも無残なほどに体を切り刻まれた初老男性の惨殺死体。その近くには女性と思しき死体もあった。
恐怖と苦痛に歪んだ表情は、事前に確認していた通り。間違いなく、二人が探し求めていた人物そのものだった。
「ふむ……【超人計画】の一端、何かしら掴めるかと思っていたが」
「当然、その辺りの対策は織り込み済みか。ネビュラスめ、口封じを実行するとは行動が早いな」
血痕、肉体の状態から二週間、少なくとも死後数日は経過していると診断。
それは水面下で動いていたネビュラスが、活発的に姿を見せ始めた時期に合致していた。恐らくは、アストライアに把握されないよう関係者を殺害したのだろう。
加えてただ殺すでなく、鋭利な刃物によって切られた部位の断面。
人智を越えた何かの力──インベーダー、怪人の能力によって処理されたのは容易に判断がついた。
「この調子では、他の者たちも無事ではないだろうな」
「ああ。アストライアの調査員を派遣し、地域の警察と連携して、すぐにでも確認するべきだ。……とにかく、まずは通報するか」
「まさか我らが第一発見者になるとは。方々への説明が厄介だぞ、これは」
すぐさま本郷博士が通報した事によって、付近の駐在所からやってきた警察からの事情聴取、近隣住民からの情報収集、と処理が続く。
アストライアの人員である事実、死体のありえざる破損状況。
それらが功を奏し、第一発見者でありながら犯人として扱われる事はなく、事後処理は進んでいった。
その影響と学園島から離れていた事で、デッドレイスの怪人騒動には駆けつけられなかったが、ネビュラスに対する危険度は以前に増して跳ね上がったと言えよう。
「ネビュラス、【超人計画】、怪人化薬、構成員の暴動……今後は一層、気を引き締めねばならんな」
「そうだな。学園島のみならず、日本の平和を乱す今回の件は、かなり尾を引く問題となろう。ニューエイジとしても力を入れて取り組まねばな」
夕暮れの下。
最寄りの警察分署から解放されたエイシャと本郷博士。
二人は学園島へ繋がる海峡大橋をアストライアの社用車で疾走しながら、緊張した面持ちで今後について思案に暮れていた。
「……む? リンから連絡が来ていたか」
「内容は?」
「怪人化したネビュラスの構成員が商業区に出現したが、夜叉と共に討伐し、救出に成功したそうだ」
「おお、さすがだな! 彼女ならば単独でもやってくれると信じていた!」
「友としても、仲間としても誇らしいな。…………なお、戦闘中に夜叉は新たな形態、魔力・魔法に精通した姿へと変貌を遂げたそうだ」
「くっ、次から次へと新しい力を得てくれるな。設計者として理解しているが、厄介極まりない──待てよ? “騎士”に次ぐ新形態を見せたということは」
「また先が見えないデスマーチの再開だな……」
どこか遠くを見つめるように、諦めた目つきのエイシャ。
ハンドルを握る手が強まり、歯を食いしばった本郷博士。
夜叉の新形態に関する調査、分析、検証、考案、開発……様々なタスクが脳裏をよぎっていく。
両者は共通した夜叉への恨みを胸の内に秘めながら、社用車をアストライア本部の地下駐車場へ入らせるのだった。




