ヒーローの裏側
『ただいま、っと』
『お疲れ様じゃ、アキト』
魔法師、ひいてはアキトとリクは問題無く発動した転移魔法でポラリスへの帰還を果たした。
店内の中心でレイゲンドライバーからマギアブルを外して変身を解除。パワードスーツ、ヤシャリクが空中に溶けて殺生石に入り込んでいく。
全てが収まり切った直後、レイゲンドライバーが粒子化。人体を構築し、ふわりと浮かぶリクの姿を形成した。
「おかえりだぜ、二人とも」
「通信が断絶されてたせいでモニタリングも支援も出来なかったけど、苦戦せずに済んでたみたいだねぇ」
ガレージに繋がる扉からリフェンス、マシロが姿を見せる。
アキト達を出迎え、労うために喫茶店内の冷蔵庫からペットボトルを取り出し、手渡す。
「そんで、どうだった? 魔法を自由に使える感覚ってのは」
「万能感がすごかったかな。イメージ次第でなんでも出来そうと思ったのは初めてだ。カドゥケウスも言われてたより使いにくくなかったし、近接でも戦えてイイ感じ。ごり押しは無理そうだけど」
「そんな設計で制作を頼んだ記憶は無いんだが……?」
「やっぱ実戦じゃないと分からないこともあるよね」
マシロはメイジスタイルの感想を聞きながら、ガレージから持ってきた魔核をリクに渡して吸収させていた。
『いやはや、なんともまあ恐ろしきはアキトの適応力よ。儂も驚いたわ……しかし消耗が他のスタイルと比べて格別に悪いのぅ』
「あれ、ヤシャリクのバイザーにはエラーとか出てなかったし、吸収能力でどうにかなってたんじゃないの?」
『周囲の魔力とデッドレイスの魔核を吸って補ってはいたが、収支はトントンと言った所じゃよ』
「まあ、かなり派手に魔法をぶっ放してたみたいだしな。おまけに転移魔法まで使ったんだ、妥当な消費量だろ」
戦闘中は気にも留めなかったようだが、繰り出した数々の神秘的な現象は並みの魔法使いでも行使できない代物ばかり。
ヤシャリクの神経伝達を利用し、想像力によって形成されるそれらは、比例して魔力消費量も相応に大きいのだ。
「かといってアクトチェイサーで退散するには、人の目も監視カメラも多い商業区じゃ補足される恐れがあった。いい判断だったと思うよ」
「うーん、でも好き勝手にやり過ぎて、リクに負担が掛かるのは……」
『なぁに、下手に魔力エネルギーを節約して倒し切れませんでした! では本末転倒じゃろう? エネルギー効率に関しては儂に任せて、気にせず戦えばよい』
もはや恒例となりつつある、新たなスタイルに対する感想会。
ヤシャリクの性能、ほぼ全てを魔力・魔法運用に切り替えたメイジスタイルの可能性と注意点を把握し、共有。そして次の戦いに向けて意識を改める。
イリーガルなヒーロー活動に勤しむ勢力として、真面目なアキト達はそんなやり取りを交わしてから。
避難指示の解除に応じて帰宅することになった。
「にしても、今回ニューエイジはリン先生しかいなかったんだな。マジで残りの二人は体調不良で休んでるのか?」
帰り道、夕空の下。
デッドレイスの怪人によって破壊された街並み、負傷者の対応に当たるアストライアの隊員、救助隊を横目に。
アキトとリフェンス、希釈化したリクは家路に着いていた。
『恐らくマジなんじゃろ。ほぼほぼ完封試合だったとはいえ、あそこまでやっておいて姿を見せんのはおかしいからのぅ』
「もしくは裏でネビュラスの調査をしてる、とか考えてたけど」
「結局、真実は分からず仕舞いってわけか。まっ、どうせマシロさんがお散歩感覚でアストライアのサーバーから情報収集するだろ。吉報は座して待つってな」
『情報漏洩はシンプルに犯罪行為なんじゃよなぁ』
第三者に聞かれたら問題になりかねない会話を交わして、歩を進める。
「あと、話の流れで忘れてるかもしれねぇから言っておくが味覚の件、ヴィニアの姐さんと相談しておけよ」
「ああ……うん、そうだったな」
『んまー、生徒に万が一があっては学校全体の問題に発展しかねんからの。説教されても甘んじて受けるべきじゃと思うぞ』
「わかってる、わかってるよ……」
自らが積み重ねた負債の返済、避けられない展開を想像して。
リフェンスのジトッとした目線を背後に受けて、アキトはため息を吐いた。
命を繋ぐ仮面のヒーローも、日常では普通の小学生なのだ。
その事実を象徴するかの如く、三人は運航停止になった魔導トラムの路線を跨いで、各々の家に帰宅するのだった。




