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森羅万象、メイジスタイル!

 デッドレイス──それは、不定形な実体を持つ幽鬼種に分類される。

 人や物に宿った思念や怨念が積もりに積もった末、自我を得たと由来される特殊なインベーダー。

 体を構成するありとあらゆる要素を魔力で補っている為、肉体と呼べる箇所がまるで無い。唯一あると言えるのは依り代たる物体、もしくは魔核のみ。


 加えて幽鬼種という存在自体が強力で、そして魔物へと変性するプロセスが独特な事から対処法が安定しない。

 かろうじて討伐したとて周辺被害は尋常でなく、そこに(つの)った憎悪や悪意がまた……と。無限の輪廻と連鎖を生み出し、独自の生態系を広げていく。


 ただ一つ、自然の摂理として。

 魔力には、魔力をぶつければ相殺されるのだ。

 それはゲートの先、異なる異世界から持ち寄られた常識であるが、もちろん地球上でも例外ではない。


『ふんっ!』

『ゴアァ!?』


 だからこそ夜叉が振るう、魔力を纏ったフツノミタマはデッドレイスの真芯を明確に捉えていた。

 されど相手も怪人。それも特位に位置するインベーダーの力を使う者。

 幾度も吹き飛ばされ、汚れた幽鬼の体を浮遊させ、再び場の魔力を掌握。


『むっ……』


 それは夜叉がエンチャントしている魔力も例外ではなかった。

 ヤシャリクに内包された魔力エネルギーはともかく、外部に流出させている以上、損失やロスはまぬがれない。

 フツノミタマに付いた黒いモヤは吸い取られるように、デッドレイスへ。

 自身の魔力に変換され、死を手繰る幽鬼の手中に納まってしまう。


『かーっ! 魔力が乱れとるせいでマシロ達との通信が断絶されとるし、うっとおしいわ! これではキリがないのぉ!』

『エンチャントで対応できるなら夜叉のまま片付けられると思っていたが、こうも魔力エネルギーを奪われては厳しいな』

『フレスベルグの可変速ライフルは弾速が早い。故に変換されること無く、打ち漏らした魔法の処理は可能じゃが……』


 夜叉は横目で、空中をホバリングするリンを視界に入れる。

 ライフルを腰だめに構え、周辺に浮かぶ魔法の予兆──球形の魔力塊を寸分の違いもなく狙い撃っていた。その隙にわずかながらではあるが、避難できていない民間人を運び出している。

 おかげで夜叉はデッドレイスの相手にのみ集中できていた。しかし……


『激しい動きを控えてるな……怪我を押してまで動いてるんだ。攻撃に参加させるのは無理だし、これ以上無茶はさせてやれないな』

『とはいえ、夜叉の武装ではあやつを仕留めるのは相当キツいのぅ』


 視線を戻し、眼前で魔法の発動準備に入るデッドレイスを見据える。

 魔力が変換される(たび)にエンチャントは剥がされ、魔力エネルギーを奪われてしまう。リクにとって動力源の一部を喪失させられるのは、継戦維持にも関わっていた。


『まったく、馬鹿真面目に付き合ってられんわい。人の気も無くなってきたんじゃし、そろそろ新しい形態のお披露目じゃ!』

『そうしよう』


 手早くレイゲンドライバーの殺生石を叩く。

 薄く魔力を纏ったフツノミタマを横薙ぎに一閃し、斬撃を飛ばして納刀。

 デッドレイスの周囲に浮いていた魔力塊へ、音速を越えた飛ぶ斬撃は接触し、一瞬の閃光の後に爆散。

 誘爆するように周辺を巻き込み、デッドレイスを煙に巻く。

 怪人の埋もれる悲鳴、リンが賞賛する雄叫びを背に──ベルトの右側に下げられたケースへ夜叉は手を伸ばす。


『魔力には魔力を。ならば使うのは当然っ』

『メタモルシード“メイジ”、Active!』


 リクの声に応えるように、取り出したメタモルシードを起動。

 流れるままに殺生石へかざせば、リフェンスの声に似た力強い音声が。

 直後、幾重にも重なる管楽器の如き(うらら)かな音色が鳴り響く。


『……アイツもマシロさんのをマネしたのか』


 ノリノリで音声を提供してそうなリフェンスを想像し、苦笑しながら。

 夜叉は発行するメモリをシフトバングルに接続。腕時計のような形状になったそれは、激しく明滅を繰り返す。


『Advent! ヴァリアブルモデル、Ready!』


 ナイトスタイルと似た緑色の粒子が溢れ出し、人影が飛び出す。

 輪郭を持った形は、奇しくもデッドレイスに酷似したローブ姿のがらんどう。

 下半身があるべき箇所から粒子を漏らし、腕部と(おぼ)しき部位の先には身の丈ほどはある錫杖を(たずさ)えた巨躯の魔法使い。


 そんな魔法使いは夜叉の頭上で、鎖と化した粒子に拘束される。

 全身を縛られたローブ姿のがらんどうは空中に(はりつけ)のまま、足下から巻き上がる炎に焼かれていく。

 離れて見ていたリンは思う──魔女裁判がモチーフなのか、と。


 騎士に代わる新しい形態の発露に驚くよりも先に、フレスベルグのバイザーが映す、異常な魔力関連のパラメータ。

 故障を疑うレベルの数値に戸惑う最中、魔法使いが灰となる直前に。

 限界を迎えたように鎖が弾け、ローブが夜叉の頭上へ舞い降りる。


『この力は過去の戦闘データに加えて、多種多様なインベーダーの素材、リフェンスの知識……エルフの魔法知識の全てを注ぎ込んでいる』


 リクの補足に耳を傾けながらも、呼応するように夜叉の体がふわりと浮かぶ。

 ローブの下で溶けるように、夜叉の鎧と緑の粒子が絡み合う。


『魔法に不得手なお主でも万全に扱えるように調整されておる。そして何よりの真骨頂として、この形態は儂の、殺生石の吸収能力を大きく変性させておる!』


 魔法使いのヴァリアブルモデルが所持していた魔法杖“カドゥケウス”が右手に納まった。

 二重螺旋が特徴的で持ち手に困らない本体に加え、先端には音を媒介とする為の特殊機構“マギア・チューナー”が備わっている。


『命を無闇と奪うような事は出来ん、というかやれんしやらんが、魔力に関してはデッドレイスよか専門的に使えるぞ! 反面、ヤシャリクの機能性が大幅に変わっておる反動でパワーアシストは弱いが……』


 マフラーは形を変え、魔力制御の役割を持つ赤いスカーフに。

 兜代わりにフードが下ろされ、奥で光るバイザーの色味が紅から緑に。

 ヤシャリクの基本パラメータが軒並み低下し、補うようにまったく新しい数値が表示──全身から灰が噴き出して、再変身が完了される。


『Reformation Override! メイジスタイル!』

『千変万化、変幻自在な森の魔法使い! 友の力、使いこなしてみせよ!』


 夜叉と同じく細身の体は、どことなく頼りないように見えた。

 しかしてローブに秘められた確かな装甲が、差し込む陽光に照らされる。

 どこか神秘さを感じさせる出で立ちをそのままに、夜叉は新たな姿へ転身した。

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