暗闇に蠢く
こぽり、こぽり、と。
気泡が浮かび上がる不気味な音を鳴らす、暗い培養槽の前で。
「さて、正義面の忌々しい連中は我らの崇高な目的に気づいたかな?」
白衣を着た、一人の男が呟いた。
彼の手には分厚い書類が握られており、使い込まれているのか汚れが目立つ。
「地球と異世界、そして不規則に繋がるゲート先の異界。常識は既に塗り替えられ、人類は皆、その恩恵に享受している」
書類を見下ろし、次いで培養槽を見上げる。
視線の動きに合わせて明かりが点灯し、内部が照らされた。──そこにいたのは液体に閉じ込められた人間だ。
地球人、ネイバーなどの人種を問わず。生命維持を目的とした幾本ものケーブルに繋がれ、眠り続けるように瞳を閉じている。
「なればこそ象徴たる魔物、インベーダーの可能性を追求するのは自然の道理」
既存の法則に収まらない、奇特な生態を持つ生物。
彼らがもたらす資源、物質、能力は人類を新たなステージへ押し上げた。
「人は病や災い、寿命すら超越し、上位の存在へと生まれ変わる……! その道行き、恩寵の先へ誰よりも到達する事こそ、我が使命!」
胸の内から湧く高揚感を隠そうともせず。
男は両腕を広げ、自らが神の代弁者とでも言いたげに口上を上げる。
その背後にはローブを身に纏い、顔を隠した大勢の人影が控えていた。全員が何を言うでもなく、当然のように頭を垂れる。
まるで神を崇めるかの如く、カルト的な妄執の空気を漂わせていた。
「再誕の誉は我ら“ネビュラス”にあり! 偉大なる進化の果てに向かう者達よ! 障害となりし敵に鉄槌を下し、栄華を手中に収めるのだ!」
『おおおおおおおおおおおっ!』
興奮を抑えられず、曝け出し、叫ぶ。
薄暗い地下空間を揺らし、振動させ、培養槽に眠る者が瞳を開く。
覚醒直後、目に映るのは白衣の男が持つ古い書類。
掠れの目立つ表紙の中に、確かに並んだ文字列──【超人計画】。
自らが被検体となり施術された、非合法な手段が記載されているそれを見て。
静かに、不気味に、鼓動を一段と強く打たせた。
新しい力と敵の存在を示唆して6話を終わりとします。
次話はリンと関わりを持つ描写になります。




