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現場急行

『リフェンス、お主……もうなんも言うな』

「ちょちょちょ、ちょっと待てよ!? いくらフラグ立てたからって、そんな都合いいことあるかよ!」

「っていうか、インベーダー出現って言った? ゲートじゃなくて?」


 マシロさんの疑問はもっともだ。

 普段の警報ならゲートに関して明言するはず。それに、ゲートが発生する予兆をリクが感じ取れていなかった。

 インベーダーはゲートの向こう側からしかやってこない。これは確実だ。なのに警報が発令し、避難を呼びかけている。

 リクに詰められたリフェンスが、面食らいながらもガレージに備え付けられた小型のテレビにリモコンを向けた。夕方時のニュースは中断され、現場付近の俯瞰カメラの映像が映し出される。


「……見回してもゲートは無い。本当にインベーダーだけが出てきたのか?」

「もしくは反政府組織の連中が非合法のクスリで怪人になったか……アストライアの本部が近い工業区で? 死にたがりかな」

「減衰フィールドの影響が残ってるせいか知らねぇけど、カメラ映像が荒くて正確性は無いな」

『ともなれば、現地で直接確認する他なかろう』


 テレビから早々に興味を無くし、リクはレイゲンドライバーから実体化。

 収納魔法を発動し、ガレージの中心に魔法陣が展開され、アクトチェイサーが姿を現す。

 間髪入れずライダースーツに衣類を変え、跨り、ヘルメットを被り、子ども用の物を差し出してきた。


『乗れ、アキト! 新しい力を得ての初陣じゃ、気合い入れていくぞ!』

「行くのはいいんだけど、ここで変身しないの?」

『変身中の落ち武者にガレージを滅茶苦茶にされては堪らんじゃろ? 隠蔽魔法を掛ければ、向かう途中で変身してもバレはせんよ』

「……それもそうか。分かった」


 荒らされたガレージに泣き叫ぶマシロさんを想像し、リクに従う。

 ヘルメットの顎紐を縛り、バイザーを下ろして、後ろに乗って腰に手を回す。

 そうしているとリフェンスがガレージのシャッターを開き、外の空気と夕焼けの日差しが入り込む。応えるように、リクがアクトチェイサーのエンジンを点火。

 暖気──前に貰ったマニュアルで学んだ──しなくともエンジンは機嫌の良い音を鳴らし、振動が伝わってくる。


「シャワー浴びて寝ようかと思ったけど、そういう空気じゃなくなったねぇ」


 頭を掻いて、ぼやきつつ。

 マシロさんは作業机のパソコンと向き合い、キーボードを叩く。


「二人は最高速で現場に向かって。ヤシャリクの情報支援システム、シフトバングルの通話回線に介入して、リアルタイム通信で状況を伝えるよ」

「俺、なんもすることねぇな。ガレージの掃除でもしとくか」

「緊張感の欠片も無ければ避難する気も無いのか?」

「シャッターを閉めれば地下室に内蔵してある結界装置が作動するから、シェルター並みの防護性能はあるわよ?」

「初耳なんですけど?」

「色々魔改造してんなぁ……」

『カカカッ! なーに、備えあれば憂いなしということじゃろう。なればこそ、存分に夜叉として動けるというもの!』


 心底爽快とでも言うように。

 リクはアクトチェイサーのスロットルを回し、エンジンを吹かす。


『では、行ってくるぞ!』

「行ってきます!」


 挨拶も程々に、急加速に包まれた身体がガレージを飛び出す。速度を上げ、風を切るアクトチェイサーが路地を抜ける。

 リクの隠蔽魔法によって周囲の景色が歪み、姿が曖昧になり、ハイウェイに繋がる道路を疾走していく。


『通信感度良好、魔力エネルギー間の阻害は無し、風雨によるノイズキャンセリングも絶好調。どう? 聞こえてる?』


 夕方時の渋滞を縫うように進み、少ししてからマシロさんの声が響いてきた。


「ばっちりです! 問題ないです!」

『よかった。それじゃ、簡潔に伝えるよ。インベーダーは工業区の西部にある、彼らの旧死体処理場に出現したらしいわ』

『死体処理場じゃと? 何やらきな臭い感じがするのぅ。よもや殺し損ねたインベーダーが放置されてた、とかじゃあるまいな?』

『どうかな。数年前から放置されてて、今日になって建物の撤去作業で人が入ったみたいだし……』


 ハイウェイを爆走する最中、次第にテレビ局のヘリやアストライアの車両が散見されるようになってきた。

 警報が鳴ってから一〇分と経っていないのに……まあ、仕事が早くて悪いことはない。テレビ局はともかく、アストライアは民間人の保護が最優先だし。


「古い施設にインベーダー……何が出てきたかは分からないんですか?」

『最近のアストライアは不祥事続きで何かと警戒してるみたいでね。映像機器とか情報媒体の干渉を弾いてるせいで、詳しくは確認できてない』

「つまりは、出たとこ勝負って感じか」

『魔力が豊富なヤツであれば嬉しいんじゃがな』

「メシの種としか見てないじゃん」


 リクの言い分に溜め息を吐きながら、アクトチェイサーは工業区を突き進む。

 居住区から離れた位置にある目的地、旧死体処理場が近づいてきた。


『そろそろか……アクトチェイサーを自動運転に切り替える。アキト、手を』

「わかった」


 回していた手をリクが掴む。

 次第に構成されていた肉体が粒子を経て、レイゲンドライバーへと変換される。

 リクがいなくなり、吹き付ける風に負けないようにハンドルを握って。

 既にマギアブルが装填されたドライバーをへその下に押し付け、両脇から伸びたベルトで固定される。直後に法螺貝のような待機音楽が鳴り響いた。


『Get ready?』

「変身!」


 マギアブルの無機質な機械音声に応え、押し込む。


『Warning! Warning! Warning!』


 警告音とは裏腹に、殺生石から飛び出した鎧武者がアクトチェイサーに追従。

 舞うように空中を飛行し、流れるような動作で抜刀。

 刀身を腹に当て、横に切り裂けば、血飛沫の如く噴き出した黒いモヤと弾けた鎧が各部位に纏わりつく。


『Life threatening Artifact! Please stop!』


 インナー、鎧、ロングコートと身体に展開。

 そしてリクの趣味である赤いマフラーが首元を覆い、風になびく。

 先鋭的な兜に紅のバイザーが降り、フツノミタマが腰に下げられる。


『コンプリートじゃ!』


 ドライバーから内部通信を経由してリクの声が響き、夜叉への変身が完了。

 ガレージでリクが呟いていた通り、細かな指の動きすら滑らかな気がする。加えてシフトバングルはヤシャリクに合わせて、再び左手首に装着されていた。


『うんうん、変身移行中のサイズ変化も機能してるね』

「これは、すごいな。感覚が全然違う」


 そしてフツノミタマとは反対の位置に、見覚えのない小さなケースが取り付けられている。些細な違和感すら抱かないほど、自然に──それらの使い方が頭に入ってきた。


『自動ラーニングも異常なし。準備は万全じゃ!』

「ああ。このまま旧死体処理場に突っ込む!」


 自動運転されたアクトチェイサーのカラーを変化させる。

 青、白を基調とした色味から赤、黒へと。同時に隠蔽魔法が解かれ、周囲の景色が正常に戻った。

 スロットルを回し、再加速。解体用の足場が組まれた建物へと突入した。

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