授業を終えて
「今日の授業、めちゃくちゃキツかった……」
「だろうよ。一限目からずっと眠そうだったもんな」
『生身でヤシャリクの動きを再現するからそうなるんじゃ』
一日の全エネルギーを消費したと言っても過言でない実習を終えて。
残りの授業を乗り切ったアキト達は窓から覗く、暮れ出す夕陽に照らされたビル街を眺めながら、魔導トラムに揺さぶられていた。
「デュラハンライダーに出来たんだから対人でも、と思ってたんだよ。シールドの反発と木刀で同じ場所を叩いていけば、折れるって」
「理論上は可能だろうが実際にやる奴はいねぇんだよ」
「夜叉の時に安定して活用できたら武器を無力化できるし……」
『ヤシャリクの性能と儂の演算に頼らんでやるにはムズイじゃろ』
「うん。生身では二度とやらねぇ」
「まあ妥当だろうな」
肩からズレ落ちそうなバッグを背負い直し、アキトはマギアブルを取り出す。
「うえっ、充電二〇パーセント切ってる……あれだけ多用してればこうもなるかぁ。あまり使わないようにしないと……」
『ずうっと希釈化しとるおかげで消耗は無いが、切れたら自己魔力で補う他ないからのぅ。さっさとレイゲンドライバーを返してもらわんとな』
「そういや、昼間にマシロさんから連絡来てなかったか?」
「ああ、グループの方にメッセージが届いてたね。レイゲンドライバーの同期と調整が終わったから、ポラリスに集合だってさ」
『そんじゃあ、このまま最寄りの駅まで行くかの。いやー、楽しみじゃな!』
楽しげに肩を震わすリクに苦笑し、数分後。
アキト達は商業区の中心から少し外れた停車駅で降りる。帰路に着く会社員や買い物帰りの主婦に紛れながら路地裏へ。
車が通れるか否かといった幅の道を進み、モダンな外観の建物が見えてくる。
名をポラリスという、逆波マシロを店長としたガレージ付きの純喫茶。
イリーガルな活動をおこなうアキト達にとって隠れ家、秘密基地として機能する元名店である。
「店は開いてねぇし、中にもいねぇみたいだな。ガレージで作業中か?」
「そうなんじゃない?」
アキトがシャッターの横にある勝手口を叩く。返事はない。
不審に首を傾げ、リフェンスが強めに叩く。返事はない。
ドアノブを回しても開かず、鍵がかかっている。何をやっているのかとリクが希釈化した体を活かし、扉を通り抜けて中に入った。
そうして室内を確認したリクが頭だけ外に出し、神妙な表情を浮かべた。
『マシロの奴、中で爆睡しとるぞ。相当調整に時間をかけていたようじゃ』
「あー、だからメッセージの返信がこなかったんだ?」
『うむ。女子がしてはならん表情と服装で寝こけているので、しばし待て。起こして整えさせる』
にゅっと室内に戻ったリクが実体化したのか、カランコロンと下駄の音が。
衣擦れやわずかに悲鳴じみた声の後、ドタバタと騒がしくなる。ガレージが揺れていると錯覚するほどだ。
少しして、シャッターが大きな音を立てて開かれる。
「お、お待たせぇ……」
着崩れた服を申し訳程度に直して。
乱れた髪と目の下の酷い隈をそのままに。
最低限の身だしなみを整えたマシロが、気丈な笑みを浮かべてアキト達の前に姿を現した。




