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エイシャの目測

 ──ふむ。この少年、やはり……


 エイシャは木刀を振るうアキトをいなし、考察に思考を落とす。

 イリーナより気に掛けてほしいと言われた日から、偶に見掛けたアキトの動作は武人の空気を漂わせていた。

 目線の動きもまた、周囲を警戒し危険が無いかを探るようで。

 今回の授業では、他生徒と比べて明らかに差があるスタミナが判明。

 木刀で的確に急所や弱点を狙う鋭さ、軽やかな重心移動に合わせた剣技の冴えは生半可な技量ではない。

 マギアブルの支援こそあれど、全ての要素から子どもらしくない。


 ──このまま育てば有数の戦士となるな。


 地球人でありながら、自身が育ち、守ってきた森の戦士たちと同等まで成長すると判断。

 一体どこで、どうやってここまで実力を高めたのか。凄惨な過去を背負えど、奮い立ち戦い続ける者としての姿にエイシャは戦慄する。

 下手をすれば見覚えのある動作に夜叉との関係性を見出す恐れもあった。

 しかし、子どもと大人という詰め切れない差が開いているのは間違いなく。徐々にアキトが劣勢になるにつれ、そして子ども相手の指導という事もあり、そんな思考は弾かれていった。


「だあっ、くそ! 攻めきれない!」

「むしろ子どもながらによくやった方だ。称賛に値する」


 かれこれ五分ほど攻防を繰り返していた。

 訓練なので手加減されていると分かっていても、決定打を与えられず悪態を吐くアキトに対し、エイシャは感嘆を口にする。


「出来れば、このまま指南してやりたいところだが、まだ生徒が控えている。故に──礼として私の技を披露し、終わりとしよう」

「エイシャ先生の……っ!?」


 大仰な口ぶりに驚愕し、呼応するように。

 間合いを取り、大上段の構えを取ったエイシャが一歩、踏み出す。

 纏う空気の変化を察したアキトはシールドの出力を上げ、木刀を構え直した。

 彼女が練り上げた魔力が視覚化され、湯気のように立ち昇る。景色が歪み、水彩画のようにぼやけていく。

 他のダークエルフに比べ、エイシャの魔力量は少ない。しかしその分、少ないなりの工夫を重ねてきた。

 横に広く浅く、ではなく、縦に狭く深く。こと肉体強化という一点に関して、彼女の技量はネイバーでも最高峰に位置する。


「剛剣……」


 魔力が全身を覆い、淡い燐光を放つ。

 数秒の間が空き、鋭い視線が交差する。

 対するアキトは、木刀の切っ先を向けたまま微動だにしない。


「……一閃っ!」


 その態度に妙な胸騒ぎを抱くも、エイシャは迷わず木剣を振り下ろす。

 いかなる障害をも切り裂く、必殺の絶技。ニューエイジとしての活動においても使用される事の多いそれは、空を断ち、アキトのシールドに。


「ここだッ!」


 触れる直前、木刀が差し込まれる。

 何を、と疑問が湧くよりも早く、自身の握っていた木剣が半ばから粉砕した。視界を破片と、負荷に耐え切れず折れた木刀が舞い散る。

 遅れて生じた衝撃がシールドを割り、仕組まれた反発の術式が互いを引き離す。

 エイシャは咄嗟の対応で踏ん張り、アキトは軽い身体が浮き、背中から転がる。


 ──今のは……!


 自身の体から纏っていた魔力が霧散し、消失していく最中。

 先ほど発生した現象は、アキトが狙って起こしたのだと理解する。


 ──互いの耐久限界を把握した上で、構造上の脆弱な部分を貫き、技の発動を阻止したのか! なんとも面妖な……!


 目を回すアキトの元へリフェンス、マヨイ、リンと集まっていく。

 抱えて連れていかれるアキトへ、白熱した訓練に湧いた皆から拍手が送られる。


 ──歴戦の猛者がおこなうような動作に迷わず実行する胆力。ますます成長が楽しみな子どもだ。……故郷の者にも見習ってほしいものだ。


 教習の念に駆られながら、頬を垂れる汗を拭う。

 そんなエイシャの元へイリーナがやってくる。呆れ気味に早足で。


「イリーナよ、今のを見たか!? 天宮司は才能の塊だぞ! あのまま育てばいずれ、地球人でもネイバーに劣らない戦士へなるやもしれん。貴殿が気に掛けるのも納得だな!」

「こんのバカ垂れが、誰があそこまでやれと言った! お前たちの戦いに一部の生徒が引いてたぞ。いつもそうだが、訓練で熱を上げ過ぎるな脳筋!」

「な、なんだとぉ……その物言いは撤回しろ! いくら我でも許さん!」


 興奮気味なエイシャを諫めるイリーナ。

 やんややんやと騒ぎ立てる両者はヒートアップし、生徒を置いてけぼりに。

 アキトの介抱を終えたマヨイ、リンが戻ってくるまで続いていた。

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