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鬼の教導

 学校全体の敷地面積の内、五割以上を占めるパフア校の校庭。

 用務員の手で整備された木々や陸上用のトラック、サッカーのゴールポスト、野球の練習場、テニスコートなど。

 一般的なスポーツ用具もあれば、柔軟な対応力を育てるとかで建設された、アトラクションじみた障害物もあったり。

 ネイバー用に調節できる物で構成されているため、多様な需要に応えられる……とリフェンスが感心していたのを思い出す。


「地球人だろうとネイバーだろうと、インベーダー相手にはスタミナが重要となる! お前たちに必要なのは自身の身を守り、生き延びるチャンスを掴む脚力だ! よって校庭を一〇周し、最初の周から一〇秒以上遅れた者は各種筋トレを追加する! どうだ、やる気が出てきただろう!」

『ひぃいいいいいいいいいっ!!』


 当の本人は、他の生徒と並んで悲鳴を上げながら爆走しているが。


『言っとる内容に間違いはないんじゃが、随分とゴリ押しな指導じゃのう』

「マギアブルの講習をさっさと終わらせて、もうずっと走らせてるもんな」

『講習と実技で人員を半々に分けたにもかかわらず、自身は実技に付きっ切りで汗一つ掻いておらんぞ。どうなっとる?』


 集団の先頭を走るイリーナ先生を見つめ、希釈化したリクと小声で話す。

 彼女は他のネイバーと同様に魔力を封じる腕輪を付け、肉体強化もしていない。つまりは素の身体能力で生徒たちを率いていた。

 以前、校内で見かけた時にずっとスクワットしてたり、荷重魔法で体に枷を付けてた事もあったかな。あまりにも体力お化け過ぎる。


 反面、リフェンスなどの日頃から潤沢な魔力でズルをしている生徒はすぐに影響が現れていた。滝のような汗を流し、青い顔をして最後尾付近で団子になっている。大変だね。

 頬を伝う汗をタオルで拭きながら、自業自得のツケに泣き叫ぶ親友を眺める。


「みなさーん! あと少しですから、頑張ってくださーい!」

「体調悪い子はちゃんと言ってね~。お水もあるし、日陰で休ませるから~」


 特別顧問、というより教導補助に徹しているマヨイ先生とリン先生が、つぶさに生徒の身に目を光らせ、オーバーワークにならないよう気に掛けていた。

 そのせいか、男子は悪い所を見せたくないと躍起になり、女子はそんな彼らに呆れながらも負けたくないと奮起している。


「イリーナ先生と合わせて飴と鞭な関係性……で、あってるか? この表現」

『まあ、近しいんじゃないかの。だが……もう一人の方はどぎつい鞭じゃな』

「限界ギリギリまで走らせてこそ、自身の体の使い方を学べるというもの。体力づくりに専念するイリーナの判断は正しい。よって──キビキビ動け、軟弱者ども!」

『ぴぃいいいいいいいいいッ!!』


 肩を抱いて震えるリクの視線の先に、追い込むように集団の最後方で走るエイシャ先生がいた。

 彼女もイリーナ先生と同じく、汗一つ流さないままに走り続けている。加えて一定の速度であるため、追いつかれたら発破を掛けられるという地味に嫌な構図となっていた。


「さっさと走り終えて休憩に入ってよかった。これの後に筋トレはしんどいし」

『うむ。最速でゴールし、周回遅れも当然無し。見事な結果じゃ』


 リクは自分の事のように誇らしげに胸を張る。普段から夜叉として活動するためにトレーニングをしているが、これが想像以上に効果的だったらしい。

 周回遅れどころか集団を二回追い越して、ネイバーを含む他の生徒は未だ校庭に倒れ、肩で息をしているのに周りを気にするぐらいの余力が残っていた。


『授業が始まる直前まで懸念しておったようじゃが、杞憂じゃったろう?』

「うん。正直、自分でも驚いてる」

『カカカッ! そりゃあ自主トレに加え、ヤシャリクの性能ありきといえどインベーダーとやり合っとるんじゃ。鍛えられて当然よ!』


 ああ、そっか。パワードスーツの補助があっても運動量がすごい事になってるから……既に結果は見えてたって訳か。


「ひぃ、ひぃ……や、やっとおわった……!」


 そうこうしている内に、死に体のリフェンスがやってきた。

 汗で変色した運動着も相まってか、ヨレヨレで痛々しい。


「お疲れ。水飲む?」

「いや、ここで入れたら、吹き出す……少し、休んでからにする」

『賢明な判断じゃな』

「よし、五分休憩後に実戦訓練を始める! マギアブルと訓練用武器を持て!」

「全然休めない感じしない?」

「むりぃ……!」


 木剣を片手に、イリーナ先生の無慈悲な宣告が響き渡った。

 水筒を抱えて休憩地点に転がる生徒たち、リフェンスから諦めの声が上がる。


「うむ、悪くない判断だ。かねてより子ども達の体力低下が懸念されている時代と聞く。インベーダーへの対処と併せて鍛えられるなら、それに越した事はない」


 軽く息を整えた程度でイリーナ先生の横に並び、エイシャ先生も収納魔法に納めていた木剣を取り出した。自前の物なのか、かなり年季が入っている。


「手始めに元気そうな奴から……ふむ。天宮司、我と打ち合ってみるか?」

「バカなマジかよウソだろ」

「おっしゃ! 頑張れアキト、応援してるぞっ!」

『こやつ、自分が選ばれなかったからと言って急に元気に……』


 パフア校が誇る脳筋先生たちが元気過ぎる。平然と会話しているのが目についたのか、名指しで呼ばれた。

 断りを入れようにも既に訓練用スペースに歩いていたので、どうにもできない。仕方ねぇ、やるかぁ……生身でどれだけやれるかな? 

 ため息を吐いて、スペース横に置かれた武器置き場から、初等部用に調節された木刀を手に取る。

 マギアブルの画面にちらりと視線を下ろす。表示された身体能力強化とシールドの自動発動設定を、リクから遠隔でしてもらって。

 訓練用スペースで互いに間合いを取って向かい合う。


「お前だけは他の生徒と比べて余裕がありそうだったからな。加えて、普段の動きからも武術に精通した者の雰囲気を感じる。……さあ、遠慮はいらん。お前の力を見せてくれ!」

「あまり期待しないでほしいんですけど……」


 嬉々として木剣を構えるエイシャ先生に応えて。

 両手で握り締めた木刀の切っ先を向ける。

 でも……ああ、ちくしょう! やっぱり普通の体育授業が好きだなぁ!

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