パフアの学業
「あー、かったりィ~……祝日込みとはいえ、休みの期間短くね? 思い切って一年ぐらい家にいようぜ?」
「そんなこと許される訳ねぇだろ。退学になるわ」
『エルフ族特有の時間に対する価値観じゃのぅ』
地球とネイバー側。複雑な両方の世界文化を学ぶべく人工学園島に設立された小・中・高一貫のマンモス校。
対ゲート、対インベーダー用の人材育成も目的に取り入れたパシフィック・フェデレーション・アシュランス専門校。
頭文字を取ってパフア校と呼ばれる学術機関へ向かう魔導トラム。その車内で会話する者が三人。
肩を落として気だるげな態度を隠さないエルフ族のリフェンス。
人の形をしてはいるものの、その正体は高機能独立汎用人工知能であるリク。
方や、睡眠不足で鋭い目付きのイケメン。
方や、はだけた着物に身を包んだ妖艶な美女。
各々の恰好はともかく、まぎれもなく周囲の目を引く美男美女に挟まれた中心に、最も平凡な見た目をしたアキト。
奇抜な組み合わせでありながらも、いつものやり取りを交わしながら、三人は通勤ラッシュで混雑した人の壁に混じっていた。
「つーか、なんでリクも来てんだ? いっつもアキトの部屋で待機してんじゃなかったか?」
『マシロの頼みでのぅ……設計した新武装と同期させる手順が必要だとかで、レイゲンドライバーを預けておるんじゃよ。その作業工程に人工知能である儂が付いていると計器が上手く作動せんようでな』
「間に合わせの避難所として、オレのマギアブルに移動してもらってる」
「ああ、そういや分離できるんだったか」
『いつもはやる必要が無いゆえ、滅多にやらんがな。とはいえ、この美しい見目で注目を集めてはお主らの生活に支障を来たす。そろそろ希釈化しておくとしよう』
「すんごい自信」
胸を張り、薄まっていくリクを横目に、アキトはため息を吐いた。
そのまま魔導トラムは進み、パフア校の最寄り駅で停車。数分ほど整備された並木道を歩いて、校門前に立つ教師へ挨拶をしてから敷地内へ。
校舎に入り、所属している教室へ移動する傍ら、合流した同級生たちとも気軽に話しつつ自分の席に座る。
身体に角や羽、尻尾、そもそも二〇センチほどの全長しかないなど。特徴を持つネイバーが混合した教室内に鐘の音が響いた。
「よし、席についてるな。感心感心」
「ちーっす、イリーナ先生。今日も身体だけはさいこぼげぇ!?」
「連休明けで構わずセクハラをかます。貴様も元気なようで何よりだ」
入室したイリーナにタブレット投げつけられるリフェンス。既に幾度となく交わされたやり取りに、もはや教室内の誰もが反応しない。
机に突っ伏したリフェンスから魔法でタブレットを回収し、彼女は教卓に立つ。
「さて、馬鹿の鎮圧が済んだ上で出席を取る、と言いたいが先に連絡事項だ」
イリーナはタブレットを操作して、画面に表示された内容を見る。
「先週、先々週とゲート被害が多発し、各地で復興作業が始まっている。魔力偏向装置の影響はあれどあまりにも頻発しているな。この事態を重く受け止めた校長は生徒たちの危険意識を高める為、そして自衛手段の理解と適切な判断を学ばせるという魂胆で……」
教卓を叩いて、再び注目を集める。
「今日は一時限目から外でマギアブルの実習、インベーダーとの遭遇を想定した対処の訓練だ。教官は私、特別顧問として教育実習生のマヨイ、リン、エイシャ先生の三人がつく。全員、体力を使い切る勢いで鍛えてやるから覚悟しておくように」
『い、イヤだぁあああああああ!!』
にやり、と笑みを浮かべたイリーナに対し、教室中から不満の声が湧く。
教導の内容に非があるのではない。ただ、イリーナはかつてネイバー側の世界で後任の指導をしていた際、あまりの厳しさから鬼畜教官と揶揄されていた。
その異名は世界を越えて轟いており、休み明けの緩んだ精神を締めるような発言に阿鼻叫喚の嵐が発生していたのだ。
「……きっついなぁ」
それは、ヤシャリクを扱う為に普段からトレーニングをこなしているアキトにとっても、凄まじく厳しいものであった。




