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明朝の兆し

書きたくなったので投稿再開します。

ガヴも終わって、仮面ライダー成分を補充したくなったので。

 わずかに東の空が白み、東京都近海に浮かぶ人工学園島は朝を迎え始めた。

 日夜問わず業務に勤しむ者は朝日に目を擦り、夜型の異類人……ネイバー達は眠気に身体を預ける。また、陽が昇るよりも早い時間から、日の始まりに向けて準備を始める者もいた。

 新聞配達、早朝マラソン、店の仕入れなど。

 活気立つ商業区の中心地より外れた区画に位置する、純喫茶“ポラリス”も例外ではなかった。


 しかし店舗内に照明の光は無い。

 代わりに、真横に併設されたガレージから音や光が漏れ出ていた。

 機械類の駆動音、振動。凄まじい速度で叩かれるキーボード、それに紛れて響くご機嫌な女性のハミング。

 それらは全てポラリスの経営者と逆波モーターズの技術者であり、そして令嬢でもある逆波マシロによるもの。


「ふんふふーん……」


 彼女はデスク上にある複数のモニターに顔を向けていた。

 されど眼球だけを目まぐるしく動かし、画面に表示された内容を吟味している。


「殺生石──さすがはゲート出現の黎明期に開発されたアーティファクト。アライアンスの機密の塊ね……パワードスーツ“ヤシャリク”も相応の代物」


 地球人とネイバーが混合された防衛組織アライアンス。

 世界規模で人類の敵対種インベーダー、彼らが出現するゲートの対処に当たる組織が保有する兵器。その最高峰とされる物と比較した資料を眺めながら、マシロは呟く。


「本郷博士の設計は凄まじい。天才なんて安易な括りに納まる器じゃないわね。内部情報を抜かれないように強固な防壁まで設定しちゃって……情報の解析に時間が掛かっちゃったな」


 学園島を騒がせている、夜叉という存在。

 唐突に現れてはゲートを破壊し、インベーダーを討伐に注力する謎多き人物。アライアンスの分家組織たるアストライアとは別の、人類を守護する鎧武者……というのが、表向きの認識だ。

 その変身者である天宮司アキトと同盟を結んでいるマシロは、彼の活動を支援する為にヤシャリクの性能分析を実施。

 彼女自身、傍目から見れば天才に分類される才能の持ち主。

 わずか二日の完徹によって、殺生石およびヤシャリクに眠る情報のほとんどを引き抜いていた。


「基本性能は既に完成されていて手が付けられない。近距離武装フツノミタマと遠距離武装タケミカヅチ、おまけに“天翔”で機動力もバッチリ。弟君の素質も相まって、並のインベーダーに負けるなんて事態はありえない」


 眼の下に濃い隈を作らせたマシロはデスクに頬杖をついて、ヤシャリクのホログラム像を見つめる。


「あえて言えば、突出してないのが欠点。万能過ぎて、何かの能力に特化した相手には苦戦するかも……となると」


 ホログラムを手で掻き消し、再びキーボードを叩く。


「過去に変身してきた装着者のデータ。身体に合わせて自動で全長が変化するヤシャリク。自己修復型ナノマシンの応用。インベーダーの魔核、素材を吸収し適応する性質変化。リクちゃんの人工知能として最高峰の演算能力を駆使すれば……」


 早口で捲し立て、キーボードから手を離し、回転椅子を回して。

 背後に佇んでいた箱型の巨大な装置。その中で浮遊する、殺生石が埋め込まれたベルト型制御装置のレイゲンドライバー。

 その隣には、似たような意匠が施された腕輪のような物体があった。それはマシロが一から設計し、夜叉の新たな力となるべく造り出した物。


「弟君の、ひいてはリクちゃんの求めている性能に近づける」


 全ては守れない。けれど、せめて手が届く範囲の命を繋ぐ。

 子どもながらにしては割り切った、悲痛の決意。その意志へ応えたいと考えたマシロが、持ち得る技術の全てを注いだ腕輪を横目に。

 糸が切れたかのように、カクンと眠りへ落ちた。

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