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これからの提案

「何やってんの、リフェンス……?」

「わりぃ、アキト…………全部話しちまった」

「全部?」

「夜叉のこと、俺達の関係性、なんでこんな事やってるか」

『うおおおいっ! マジで全部かえ!?』


 悲しそうに肩を落とすリフェンスにリクが動揺する。

 今更、誤魔化しは不可能だと思ってはいたが予想以上に事態は進んでいたらしい。


「非常に興味深い内容だったよ。二人の出会いから戦う目的、今日に至るまでやってきた事。多少、無理をしてでもニューエイジの聴取から逃げてきて正解だった。しれっと工場内を散策して悦に浸ってるリフェンス君から事情を聞けたからね」

「何してんだお前」

「つい、暇で魔が差して。あと、逃げた所で詰められる予感しかしなかったし、待って説明した方がいいかと思って」

『そりゃあ……そうじゃろうな』


 マシロさんはピンチを救ってくれた人でもあるし恩はあるが……夜叉の正体を知られた以上、打ち明ける必要がある。

 周りにバラされたくないから説得して黙認してもらいたいし。


「さて、思わせぶりな態度はこれまでにして、建設的な話をしよっか」

『建設的、のぅ……? いうて立場が不利なのは儂らの方じゃし、甘んじて聞かせてもらおうかの』


 椅子を用意され、実体化を解いて半透明になったリクを隣に腰かけた。

 マシロさんと対面する形で。えっ、俺だけ正座継続? と言いたげなリフェンスに対し、彼女は工場内を荒らした罰と答えた。

 思えば、避難する前より周りが少し汚くなっているように見える。自業自得の罰なら、仕方ないな。


「まず始めに説明しておくと、アタシはアストライアのデータベースに潜り込んで調査し、自分で推理して夜叉の正体について薄々と気づいてたんだ」

「大前提が凄すぎるんですけど」

「確信を抱いたのは弟君の仕草だね、以前に見かけた夜叉とまるっきり同じだったから。だったら話を聞いてくれるかも? って考えてアクトチェイサーを渡しに行ったんだ」

『聞いてるだけで洞察力も胆力もヤバすぎるんじゃが?』

「デュラハンライダーの討伐を終えて君達が去って、ニューエイジもといアストライアの事後処理が始まった頃合いで、しれっと工場に戻ってきたんだ」


 そこから先はリフェンス君が言った通り、と。

 経緯を言い終えたマシロさんは指を立てる。


「んで、色々と共有させてもらった上で核心的な部分に入るんだけどさ……君達の活動、アタシに支援させてもらえない?」

「……支援?」

「本当なら、大人として夜叉の活動を止めるべきなんだろうけど……ただのヒーローごっこ、だなんて言える覚悟でやってないでしょ?」

「もちろん。アストライアに守れない人達も、夜叉なら守れるし助けられる。二度と、オレのような存在を生み出したくない」

「うん、分かってる。……話を戻すけど、リクちゃんのエネルギーを安定供給させるのにインベーダー狩りは必須。そこに弟君の意志も介在していて、相互に作用し合ってる。けれど今でこそリフェンス君の協力もあって、個人の範疇でどうにかなってるけど、今後はアストライアも派手に動いてくるよ」

「まあ、理屈や理由はともかく、減衰フィールドを強引に展開してきたしな」


 リフェンスの発言に頷いて、そこで、とマシロさんは手を叩く。


「ある種の組織的な運用が夜叉には必要だと思うんだ。表立って動く訳じゃないけど、あらゆる面での後押し・後ろ盾・根回しが出来る存在は重要だよ。今回の変身だって分断されなきゃどこでやるか難しかったでしょ? 言葉裏を合わせられる人がいるだけで、かなり助かるんじゃないかな」

「なるほどな……毎回、隠蔽魔法で隠してはいるが限界がある。魔法が行使できない、もしくは探知されたら不審な目で見られるのは確実……ありがたくはあるな」

「でしょ? だからまずは協力者の一人として、その第一歩として、アクトチェイサーを譲渡したってわけ」

『ほほう、そういう魂胆があったのじゃな。そしてバイクもちゃんと貰える、と。しかし解せんな、そこまでやってお主にメリットがあるのか? 先ほど言った内容とは別に。どうも苦労や面倒を押し付けているように思えるぞ』


 良い事ばかりの提案に訝しげなリクの言葉が刺さる。

 だが、想定された疑問だったのか。マシロさんは首を横に振り、そして攻撃的に目を細めて口を開く。


「自由に使えるインベーダーの素材が欲しいの。リクちゃん、収納魔法使えるでしょ? それで倒したインベーダーをいくらか回収してほしいのよ。魔石とか魔核以外にも様々な素材があればアクトチェイサーの整備に改造だって出来るし。……何より、私を通せば合法的な手段で売却できるわよ? お金、入用でしょ?」

「ふーむ……金が目的ではないとしても、なんだかんだアキトに迷惑かけちまってるからな。相談とか会議の都度、家には厄介になってるし、家計へダメージを与えちまってるし」

『改造についても素人の儂らより、専門職であるマシロに頼った方が吉か』

「ソフトもハードもお任せあれ、ってね。リクちゃんと協力すれば、ヤシャリクの調整も手伝えると思うから」


 これまではリクが空いた時間で、戦闘後のケアやメンテナンスをしてくれていた。そこにマシロさんの手が加わるなら、これまで以上に盤石な状態で戦闘に挑めるかも。


『マシロほどの技術力があれば、今までよりも効率的にヤシャリクの機能を解放できるやもしれんな。──儂はこの提案、受けても良いと思うぞ』

「俺も異論はねぇ。金銭、技術面で頼れる人がいるのは安心感がちげぇからな」

「二人が言うなら……というか、アクトチェイサーの事で助けてもらった恩を返したいし……うん、どうか手を貸してください」

「もちろんっ、受け入れてくれてよかったよ! 改めて今後ともよろしくね?」


 椅子から立ち上がり、伸ばされた手を握り返す。

 こうして夜叉と逆波モーターズ令嬢兼メカニック、マシロさんとの協力関係が結ばれた。

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