チェイスバトル
バイクとデュオメス。地上戦に限られ、されど高速化した戦闘。
目まぐるしく変わる景色と障害物。引き合っては離れて、金属同士のぶつかり合いによって火花が散る。
相変わらず大柄な体躯から放たれる大剣の一撃は鋭く重い。加えて、敵う相手でもないと下に見ていた評価を変えたのか、身の丈に迫る重盾をも攻撃に組み込んでいた。
それもただ殴るだけでなく放置車両の一部を破砕し、投擲物として投射してくるなど。小賢しくも攻撃手段の一つとして活用していた。
打撃と斬撃。二重の攻撃は確かな脅威だ。
『まったく、舐め腐りおってからに……! 左右どちらとも面倒じゃの!』
『でも、付け入る隙は見えた。攻めに集中するから剣側に接近してくれ』
『任された!』
だが、アキトもまた、伊達に夜叉として戦闘経験を重ねていない。
減衰フィールド内で追い詰められた最中も、着実に、確実に。勝利へと至る道筋を構成していた。
意気揚々と応えたリクの運転でアクトチェイサーは加速する。
バイクに乗りながら戦う。夜叉にとって初めての試みであり映画やアニメ、漫画でしか見た事がない事象だ。
しかし夜叉は動じず、臆することなく、加速していく世界に適応している。ひとえにヤシャリクの性能、リクの運転あっての結果ではあるが、それだけでは説明しきれない天性のポテンシャルが作用していた。
『──!』
上下左右。あらゆるルートが繋がるハイウェイを走行しながら、デュラハンは夜叉の接近に気づく。
大剣を握る側面に近づいた瞬間、間髪入れず鈍色の刃が振り抜かれる。
バイザー越しに幾度となく見てきた軌道。絶えず同じ位置へ加えていた傷痕、衝撃、耐久限界……全てを考慮して、フツノミタマの刃先を合わせる。
一瞬の拮抗。だが、積み重ねられた果ての一合は大剣の刀身を半ばから切断。別たれた刀身は無情にアスファルトの上を転がっていった。
『──ッ!?』
『驚くのは、まだ早いな』
息を呑むかの如く、首元の炎が強く揺らめいて。
アクトチェイサーで再加速し、デュオメスの前面に躍り出て。
鋭く切り返した流れのまま、すれ違いざまに反対側の盾を切り裂く。構えていた腕部ごと切り落とし、血飛沫のように炎が噴き出す。
体のバランスを失いつつもデュラハンは片手で手綱を離さず、そしてデュオメスも献身的に支えていた。
『美しい関係性だ……感動的じゃな。だが無意味だ!』
『言ってる事が悪人なんだが』
軽口を叩き合うリクとアキトも、僅かながらのコミュニケーションで最高の連携を取ってみせている辺り、相手の事を言えた義理ではない。
『──っ』
大剣と盾、片腕を失い、自身の劣勢を悟ったのか。デュラハンライダーは西部工業区の外へと逃げの一手を取る。
減衰フィールド外へ出れば起死回生できるとでも考えたのだろうか? 出現当初に空中浮遊していたデュオメスの能力で? あまりにも愚かと言わざるを得ない。
出た所で同様にシステムが復帰したヤシャリクの敵ではなく、仕留められるのは時間の問題だろう。もっとも精細さを欠いた騎乗でアクトチェイサーを振り切れるはずもない。
そして何より……ニューエイジがいる。
『むっ、後方から高熱源反応が三つ! 高速で飛来してきて……ああ? フレスベルグの反応じゃが、リミッターを解除して無理矢理動かしとるようじゃのぅ』
『動力はどこから供給して……そうか、支援車両。アクトチェイサーと同じハイブリッドエンジンなら、フィールド内でも走行可能なのか』
夜叉は横目でスレイプニルの存在と、高速で飛行しているニューエイジを確認。
装甲の表面に幾何学な線を浮かばせ、各所から蒸気を上げている様子は普通と言いがたく、限界を超えて稼動していると察せられる。
逆に言えば、通常よりも高機動で行動できるということ。その上で各種武装も問題なく使用できるなら、負けはない。
『夜叉! 我らで奴の身動きを封じる!』
『その隙に大技、決めちゃってよね!』
『各機、散開して攻撃を! 足止め後に拘束用ランチャー準備!』
三又に分かれたスラスターの軌跡は夜叉の頭上を通り、デュラハンライダーを囲い、ブレードの斬線が空を切り刻んでいく。
波及的な攻撃の連続。避けられず、鎧は傷つけられ、体勢を崩され、たまらずデュオメスは四肢を止める。
言葉通りに、デュラハンライダーを中心に。三点の位置についたニューエイジは背部にマウントしていたランチャーを構える。
無理強いなエネルギー供給により、静電気のような音を鳴らしながら放たれた。空中を支点とする疑似的な拘束魔法は瞬く間に展開。
『──ッ!!』
『今こそ好機じゃ!』
『アクトチェイサーを頼んだ』
デュラハンとデュオメスを絡め取るネットを前に、殺生石を三度叩く。
レイゲンドライバーから溢れ出した魔力エネルギーを全身に纏わせながら、アクトチェイサーから飛び降りる。
着地し、駆け出していく最中、エネルギーは夜叉の右脚とフツノミタマに収束。
『ふっ!!』
漆黒のモヤを纏うフツノミタマを投擲し、デュラハンライダーを串刺しに。
直後、円錐型の力場が発生。彼我の距離が迫り、そして一息に跳躍。
前転し、右脚を伸ばして。力場へ吸い込まれるように飛び込んだ夜叉は、加速した体を弾丸として貫いた。
『──』
断末魔を上げる暇も無く、デュラハンライダーは自身の炎に包まれた。
夜叉がアスファルトを焦がし、フツノミタマを刺してブレーキをかける。
傍に自動走行で寄ってきたアクトチェイサーが停車し、ゆっくりと振り返った瞬間。漆黒のモヤ……魔力エネルギーが反応し、爆縮。
ハイウェイ上に巨大な爆炎をもたらし、インベーダーの討伐は完遂された。




