表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/89

激戦奮闘

『普段は優秀な分、恨み節を言う機会なんて毛ほども無かったのに……今回ばかりはアストライアの馬鹿どもに怒鳴りたい気分じゃ!』

『気持ちは理解できるけど、押さえてくれ』


 怒り心頭なリクの言葉を聞き流しながら、アキト──夜叉は減衰フィールドによって墜落し、地を駆けていた。

 ゲート出現の警報によって置き去りにされた車が目立つハイウェイ。

 視線を遮る黒煙、炎に呑まれかけた道路。障害物と悪路の戦地を、今まで以上にヤシャリクの基本性能を引き出して行動していた。

 何故ならば、そうでもしないとデュラハンライダーに追従できず、好きなようにいたぶられてしまうからだ。


『──!』


 重い蹄鉄と鎧が擦れる音。

 対して身軽に、軽快に。入り組んだハイウェイを縦横無尽に駆け巡っては、デュラハンはデュオメスに騎乗したまま攻撃を仕掛けてくる。


 減衰フィールドの効果をものともしない速度と重量。

 騎乗状態であるとはいえ、三メートル強はある体躯から叩きつけられる大剣の一撃は、受けたフツノミタマをへし折らんとする。


 しかしゲート発現の黎明期から存在する武装の一つ。ヤシャリクと共にあり、夜叉の代名詞とも言える太刀は頑強だ。

 甲高い金属音を鳴らし、逸らすものの、弾き飛ばされた。


『障害を打ち破り、猛然と邁進し、暴威を振るう人馬の力。侮っているつもりは無いが、これほどまでとは……』


 “天翔”とタケミカヅチが封じられ、基礎的なスペックも大幅に落ちている。

 以前より強力になった減衰フィールドのせいで、ヤシャリクに施されていた防護は意味を成さなかった。

 空中で自由が効かなくなったニューエイジを強引に拾い、申し訳ないがクッション代わりに車両へ放り投げて。

 墜落していく最中……自身の不甲斐なさを嘆いたリクの慟哭が思い起こされる。


『っ、ヤシャリクのパワーダウンが響いてるな。受け流しにくい』


 両脚で踏ん張り、フツノミタマを路面に突き刺して。

 体を押し留めながら、勝手の違う手応えに不快そうな言葉を吐いた。


『──っ』


 その間隙を突いて、デュラハンライダーは再び肉薄する。


『させないっ!』


 そんな夜叉とデュラハンライダーの間に銃弾が放たれる。

 魔力エネルギーではなく、実弾。前者に比べれば威力は小さく、鎧を持つ二体にとって効果的とは言えないが牽制にはなる。

 実際、ニューエイジの三人が同時に発射した弾丸にデュラハンライダーは反応。飛び跳ねるように避けて、夜叉の頭上を越え、ハイウェイを疾走する。


『すまない、助かった』

『礼を言うのはこっちの方だよ~!』

『情けない話だが、こちらはまともに動けん……!』

『支援射撃ぐらいしかできませんが、気を付けて!』


 紫電を散らし、今にも壊れそうなフレスベルグ。

 備え付けられた予備電力のバッテリーによって、最低限の動作でライフルを構える三人に夜叉は礼を伝える。

 個人間での通信はノイズだらけな為にオープンチャンネルで会話しているが、明確にヤシャリクよりも低出力である弊害が如実に表れていた。


 幸いにも脅威と定めているのが夜叉だけでよかった、とアキトは思う。弱った獲物から攻めていくのは戦いの基本。率先して撃破されてもおかしくなかった。

 本来の性能ならまだしも、減衰フィールド内でニューエイジを守りながら戦うのは厳しいだろう。


 フレスベルグでの継戦が不可。まともに戦えるのは夜叉のみ。アストライアの援護は期待できない。

 対するは全ての要素で上回るデュラハンライダー。フツノミタマで切り結べてはいるものの、事態を好転させるには不足が多すぎる。


 勝てはしないが負けもしない。もし夜叉に興味を失い、他の地区へ出向けば追いつけず被害は拡大する。

 減衰フィールド外に出ても機材が正常に稼働するかは定かでない。ならば確実に、ここで仕留めなくてはならない。


 何か、劣勢を覆す手立てはないものか。

 そう考えながらも、夜叉はデュラハンライダーの連撃をいなし続ける。

 蹄鉄が道路を砕き、刃が交差し火花が散り、苦境に晒され、遠方からはけたたましい音が響き渡り──


『……な、なんじゃ?』

『エンジン音?』


 場にそぐわない爆音に夜叉はハッと顔を上げ、周囲を見渡す。

 魔力を燃料とする内燃機関の静粛性とはまるで違う駆動音。ニューエイジの三人も気づいたそれは徐々に近づいてきており、音の発生源へ目を向ける。

 赤く尾を引く何かが、ハイウェイの上を疾駆していた。


『ちょいと待て……人間の生体反応に自動二輪、バイクじゃと!?』


 注目の的と化したその存在はアスファルトを切り裂くように、障害物を避けながら距離を詰めてきていた。

 されどデュラハンライダーは気に取られることなく戦闘を継続。

 ほんの少し、意識を逸らされた影響か。掬い上げるような大剣の一撃は夜叉の芯を的確に捉え、大きく吹き飛ばす。

 苦悶の声を漏らし、体勢を整えようとした矢先に、前肢を振り上げたデュオメスが立ち塞がる。


『まず──』


 フツノミタマで受けきれるか、と。迷いよりも先に動いた体に影が差す。

 炎上する車を乗り越え、凄まじい速度で飛び込んできた件のバイク。緩慢に流れる世界で捉えた、夜叉にとって酷く見覚えのあるそれは、孤児院の院長ヤナセが愛用していたアクトチェイサーだ。


「ヒャッハーッ!!」


 何故ここに? 誰が乗って?

 そんな戸惑いを意にも介さず、運転手は高揚した叫び声を上げてデュオメスへ突撃。空気を揺らす衝突の後に、両者とも弾かれた。

 突然の衝撃に大きく後退し、狼狽えるデュラハンライダーとは裏腹に、自動二輪は巧みな運転技術によって危なげなく停車。

 思いもしない闖入者の登場に誰もが呆気に取られていた。


「ふうっ、間一髪ってところだったわね!」

『……貴女は、まさか……』


 そんな中、運転手の正体に気づいた夜叉は、バイクを降りて近づいてきた女性に声を掛ける。


「むふふー、驚いた?」


 くぐもって、しかし確かに微笑んだ声で。

 ヘルメットを脱いだ彼女……逆波マシロは、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「アストライアがヘマして夜叉がピンチかもって考えたら、居ても立ってもいられなくてね。個人的に、君の力になりたくてさ」

『……こんな怪しい人物のか?』

「あっははは! もしかして気遣ってくれてるの?」


 正体がバレている訳ではないとタカを括り、猫を被る夜叉の言葉。

 反面、既に全てを知り、真実へと到達しているマシロ。彼女は夜叉の纏う真面目な空気を感じ取り、豪快に笑い、そして顔を傍に近づけた。


「貴方が弟君であるのはもう分かってる。そのスーツが、リクちゃん由来なのも」

『っ!』

『なっ!? どうやって!?』

「安心して。ちゃんとリフェンス君にも確認は取ったし、協力する意思は見せたから。ヴィニアはもちろん、誰かに漏らしたりはしない」


 とにかく詳しい話は後で、と。

 踵を返したマシロは停めているアクトチェイサーへ指を差す。


「今は何よりも、あのインベーダーを倒すのが先決。その為には追従できる足が必要……そうでしょ?」

『……助かるが、いいのか? 無事に返せる保証はないぞ』

「馬鹿にしないでよね。アタシが整備したバイクよ? この程度の危険走行でぶっ壊れるほどヤワじゃないわ」


 それに。


「壊れたって、故障したって、アタシが何度でも直すわ。こう見えて、それなりに天才なんだから!」

『──わかった』


 マシロの思いも、考えも、互いの立場も理解している。その上で決断したのなら、尊重するだけだ。

 夜叉は彼女にニューエイジの元へ退避しておくように伝え、アクトチェイサーに跨る。

 横目で保護される彼女を一瞥。次いで明らかに警戒度を引き上げ、様子見に徹していたデュラハンライダーを視界に捉え、レイゲンドライバーを叩く。


『ありがたい厚意に甘んじるとしよう。リク、運転は任せた』

『おうとも! ぬっふふふ……災いにあって福が舞い降りおった! よもやよもや、かっちょいいバイクを運転できる日が来るとはのぅ!』


 アクトチェイサーに備わるシステム機構と繋がったリクによって、スロットルを回さずともエンジンが吹かされる。

 右手でフツノミタマを。

 左手でハンドルを握り締めた夜叉はその場でアクセルターン。

 タイヤの擦れた痕を残しつつ、爆発的な加速でデュラハンライダーに接近。

 一瞬の交差。響く金属音が、第二ラウンドの始まりを宣言した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ