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舞台裏

「──どういう了見で、フィールド発生装置を発射した!?」


 アストライア本部の作戦指令室に、本郷博士の怒号が反響する。

 彼が開発した、対夜叉用の魔力エネルギー減衰フィールド。ネイバーの魔法技術、博士本人の設計によって実現されたソレは、彼の調整無くしては使えない代物だ。

 何故ならば、無作為に放てば既存の設備に加わった、魔力に作用する機械類の動作を止め、破損させてしまう。ニューエイジのフレスベルグですら例外ではなく、無差別で制御は不可能。


 生活の生命線を損傷させるという無視できない要素が潜在しているが故に、アストライアの上役だろうと自由に行使できないように制限を掛けていた。加えて、博士に無断で使用しないようにある種の封印処理すら施していたのだ。

 再びの改良を重ね、問題無く使用できるまでは、と。


 そんな思惑も、会議で伝えたはずの注釈も無視され、調整中であったフィールド発生装置を搭載したインベーダー用短距離誘導ミサイルは放たれた。

 一瞬の戸惑いに遅れて、バカな、と。本郷博士は手元にあるミサイルの発射装置を見やってから、再度モニターに視線を戻す。


 室内に響く警報と困惑の後に、ミサイルの炸裂がモニターに映る。

 幸いにも指令室は減衰フィールドの影響を受けないよう手を加えているが、映像のブレにまぎれて墜落している夜叉、ニューエイジ、デュラハンライダーは違う。

 寸前まで繋がっていたニューエイジとの通信は断絶され、雌雄を決したとは言いがたい状況を招き、継戦の流れを断ち切らんとする一手。

 自身がミサイル発射の権限を持つ唯一の存在であることを知っている上で、強引に発射する者など一人しかいない。


「答えろ“ロゴス”!」


 最悪の戦況を生み出した諸悪の根源。

 アライアンスの中枢コンピューターより枝分けられ、アストライアの根幹に宿りし情報集積人工知能──ロゴスに向けて、本郷博士は叫ぶ。

 室内に散りばめられたモニターの一つが不気味に歪み、膨張するように。風船の如く浮き出てきたホログラムが人型を取り、悠然と本郷博士の前に姿を見せる。

 近未来な服装に身を包み、眠たげな視線で彼を見つめる彼女こそロゴスだ。


『アストライアが主体としているインベーダーの撲滅。人類守護に動いてはいるものの、三ヶ月あまりに渡って正体が判明していない夜叉の捕縛。主題として掲げられた課題の二つを解決する一挙両得の最善手であると判断し、発射しました』

「減衰フィールドによって生じる周囲の損害に関して無視できるものではないと、伝えていたはずだ! 故に再使用は許可できないと!」

『既にホーネッツとクイーンを殲滅した以上、残された特位インベーダーを処理するに手勢は充分。そして作戦の成功に犠牲が生まれるのは必然であり、これは最低限で済む話……実に合理的な判断であったと自負していますが?』


 人工知能は個人として尊重されるもの……その理念はアストライアにも適用されている。

 ありとあらゆる情報を精査し、作戦考案に参加するなど普段であれば良き隣人として頼もしい人物だ。

 突発的な作戦の変更や提案を口にすることもあり、されど第三者へ相談して協議するなど工程を挟むことがあった。

 だからこそ、今回の強行手段──火器管制システムに干渉して、遠隔でミサイルを放つという方法を取ったことに誰もが呆気に取られていたのだ。


『遭遇する度に一時的な協力関係を組めるといえど、夜叉に対する潜在的な脅威や畏怖を払拭するべきです。アストライアは迅速に正体を判明させ、彼の者を確保しなくてはならない。学園島及び多くの民を安心させるのに、事態を早急に進めるのは何も悪いことではないでしょう』

「だからとて大勢の生活基盤を破壊していい理由にはならない! 本土に最も近い工業区の一つが麻痺すれば、被害は波及的に広がってしまうというのに……アストライアが人類に利敵する行動を取ってはならんのだ!」

『言ったはずです。この作戦で発生する犠牲は、あえて吞む他ないと』


 本郷博士の追及を流し、まったく聞き入れないロゴスは伝えない事は伝えたと言わんばかりに。振り返り、再びモニターの中へ戻っていった。


「机上の空論や正論ばかりで事が成せるほど、状況は甘くない……!」


 拳を握り締めた本郷博士は心の中で悪態を吐く。共に未来を歩む新人類として期待されている人工知能が、愚かにもこんな手を使うとは……!

 そんな強硬策の結果が、戦況を映し出すモニターに表示される。


 彼らが墜落した先は学園島の内部へ続くハイウェイの上。

 放置された車両からは火の手や煙が上がり、舗装された道路が罅割れている。

 そこではフレスベルグの機能を大きく制限されたまま戦うニューエイジ。

 基本的なパフォーマンスは変わらずとも、どこかぎこちない動作が目立つ夜叉。

 対してデュラハンとデュオメスという、元より互いの不足分を補う組み合わせに攻撃、防御、機動力を上回られてしまう始末になっていた。


 夜叉が破壊した為、ゲートによるインベーダーの追加は無い。しかし、シェルターの防護機能が働いていなければ、戦闘の余波で人的被害が出てしまうかもしれない。

 ニューエイジ以外の戦闘部隊が纏うパワードスーツも機能不全に陥っている。学園島にある他のアストライア支部から出動したとて、戦闘区域内に入ればたちまち同じ状態に見舞われる。

 ……彼らの援護に動ける者がいない。


「──私が出る。前線支援車両、スレイプニルの用意を!」

「わ、分かりました!」


 もはや事が起きてしまった以上、残された手段で足掻く他ない。

 最悪の次を考慮して支援しなくては、と。かの逆波モーターズと技術提携し、完成したニューエイジ専用の大型車両を思い浮かべて。

 本郷博士は踵を返し、アストライア本部の地下格納庫へ駆けていった。

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