マシロのお仕事
ヴィニア姉さんの友人だというマシロさんを迎え入れて。
綺麗な女性に目がないリフェンスのちょっとした暴走もあったが、実体化したリクが脳天を殴り飛ばして正気に戻して。
ありがたいことに君らも混ざりな、と提案をいただいて。
互いにテーブルに着き、自己紹介を済ませてから歓談すること数分。思いもよらぬ繋がりが発覚した。
「院長とマシロさんの父親が知り合い……?」
「そーだよ。昔にアタシの父さんと結構やんちゃしてた時期があったんだって。でも孤児院を経営してからは会う機会が少なくなって、久しぶりに顔を合わせようって時に孤児院が……あっ、ごめん……」
「大丈夫よ、マシロ。私もアキ君も心の整理はついてる」
「むしろ院長のことをよく知らないまま死に別れたし、あの時の状況は新聞やニュースでしか分かってないので、もっと聞きたいです」
気遣う姿勢を見せてくれたマシロさんに続きを促す。
「……わかった。それで当時の被害に巻き込まれた人達の葬式に、父さんと参列して遺影と顔を合わせることに。一応、その時にヴィニアと初めて会ったんだったかな?」
「アキ君の看病や事後処理に追われてたこともあって疲れてたから、そっけない態度を取っちゃったわよね……」
「仕方ないよ 一夜にして家族と実家を失う羽目になったんだから。……父さんは手助けしようかと考えてたけど、部外者が関わって邪推されたら追い打ちをかけることになるから静観してたんだ」
「なるほどなぁ……会ったことねぇんだから、アキトと面識が無いのも納得だわ」
横目で頷いているリフェンスを見て、同じ感想を抱く。
思い返しても当時のオレは肉体、精神的にも死にかけていた。
ヴィニア姉さんが積極的にリハビリに付き合ってくれたおかげで今の状態になったが、そこに外部の人が踏み込んできていたら遅れていたかもしれない。
「ようやく落ち着いてきた頃合いでこっちからヴィニアの会社を通じて、頻繁に出会うようになったんだ。以来、意気投合して仕事からプライベートまで付き合うようになったってわけ」
『ほお……なのに、アキトのことはあまり知らんかったんじゃな』
「ノロケ話はたっくさん聞いたわよ? 健気でかわいいだとか、気遣い上手でカッコいいとか色々とね。追及すると拘束時間が長くなりそうだったから……深くはないけど広く大きくって感じ?」
「ちょ、ちょっとやめてよマシロ! 恥ずかしいから……」
「ごめんごめん。でも機会を見て話してみたかったから、休日なのをいいことに通りがけに押しかけて来たんだ。運が良ければ会えると思ってね」
マシロさんは言い終えると、お茶目にウィンクを向けてきた。
何はともあれ、ウチにやってきた経緯が分かったな。それと同時に、彼女は計画性を持って衝動的に動く性質の人であることも理解した。
「──ってかなんとなく思ってたんすけど、もしかしてマシロさんって逆波モーターズの令嬢っすか!?」
「おっ、よく気付いたねぇ。一応、製品開発と組み立ての両方をやらせてもらってるんだ。それでネイバー側の素材とか道具を仕入れてもらうのに、ヴィニアんとことよろしくさせてもらってんの」
興奮したリフェンスの疑問にマシロさんが答える。
リフェンスは両手を挙げて喜んでいるようだが、いまいちついていけない。
「ごめん、逆波モーターズってなに?」
「おっまえ、さっき見せたろ雑誌! あれは全部バイクや車両、各種部品の製造を主としてる大企業“逆波モーターズ”の特集なんだよ!」
『ああっ!? あのかっちょいい乗りモン、お主んとこで作っとんのか!?』
「なははっ……そんなに興奮してもらえるなんて、技術者冥利に尽きるってもんだね。その特集記事はたぶん、先月にインタビューを受けたヤツかな?」
「マシロってそういう対応はするけど、モノづくりに夢中ですぐ忘れるよね?」
「まあ、解釈一致ではあるかも……?」
リフェンスとリク。二人してオレの部屋に置いていた雑誌を取りに行って、騒ぎながら戻ってきたかと思えばテーブルに広げた。
そこからは白熱した技術的・専門的なトークが繰り広げていたようだが、あまり乗り気じゃないオレと門外漢なヴィニア姉さんは蚊帳の外。
仕方なくお茶請けを追加で用意し、その光景を眺め、聞きながら夕飯の買い出しについて相談していた。
──しばらくして。
「ふむふむ……君たちの熱意はとても理解できたよ。その齢にしてアタシに追いついてくる想い……技術者の一人として応えなくちゃいけない。ということで!」
話し合いがひと段落したのか、マシロさんは手を叩いて視線を集める。
「今からアタシが受け持ってる整備工場に行かない? まだ世に出てないアレやコレやがたーくさん見られるよぉ?」
「『えっ、行くッ!!』」
「熱量すっご……まあ、帰るのが遅くならないようにしてよ?」
「なに言ってるの。君も来るんだよ」
「ひょ?」
「そうねぇ、二人が熱を上げ過ぎた時に引き留める役が必要だから……マシロにそういうのは期待できないし。買い出しは私一人で十分だから、アキ君にお願いしてもいい?」
「……」
欲しい物をねだる子どもの如くキラキラした目を向けてくる三人と、申し訳なさそうに手を合わせるヴィニア姉さんに対して。
これは、面倒なことになった、と。
かろうじて口に出さなかった自分を褒めたかった。




