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乗り物のこだわり

変身ヒーローの乗り物といえばコレ! というお話。

 パフア専門校の修繕工事が終わり、学校生活が再開してから一週間。

 桜の花びらも散り、青々とした新緑が芽生え始めてきた頃。

 祝日を含む週末を満喫するため、初日に割り当てられた宿題を消化する目的でオレの部屋に集まり、リフェンスと一緒にペンを走らせている最中。


「バイク、いいよな……」

『よいのぅ……』


 雑談交じりに書き進めていたとはいえ、さっきからやかましくて仕方がない二人に目線を向ける。


「もしかして休憩したいのか? もうすぐお昼時だからそこまで頑張るぞって、言ったばかりだろ? 集中しなよ」

「ちっげぇよ、おバカ! 純粋に、夜叉としての活動に乗り物があったら便利じゃねぇか? っつー話だ」


 妄想を垂れ流しながらもエルフ族の憎たらしい良き友人は、オレより早く宿題を進めていた。納得いかねぇなぁ……


『そうじゃそうじゃ! この漫画の主人公みたく急ブレーキかけて土煙あげながら、かっちょいい登場してみたいんじゃよ!』

「リクは私欲まみれみたいだけど?」

「いやいや……俺はまあ、割合としてはカッコつけと実用性の半々ってところだ」


 実体化してオレのベッドに寝転がり、漫画を読み漁るリクを横目に。

 リフェンスは自身の欲望を誤魔化しつつもカバンから何かを取り出し、テーブルに広げていた教科書とノートの上に置いた。

 それは魔力エネルギーを燃料とする内燃機関を搭載した、自動車やバイクに関係した特集が載っている雑誌だ。


「カッコつけはともかく、実用性って?」

「今のところ、ゲートが発生した時っていつも“天翔”で急行してるだろ? 消耗の激しい転移魔法を多用すると、すぐガス欠になるからって」

「だって実際に早いし、そんなに困ってないし」

『最高速度はマッハを超えるぞ。余波で建物を壊さんように、衝撃を打ち消す反作用の術式は展開しておるがのぉ』

「相変わらずトンデモねぇスペックしてやがるな。だが“天翔”だけじゃ対応しきれない事態もあるっちゃあるだろ?」


 そう言われると……群体型ですばしっこいインベーダーがビル群などに入り込んだ時は手を焼いた記憶があった。

 結界魔法で建物は保護されているけど、家屋と家屋の小さな隙間に潜もうとする奴はいる。身体は入り込めないし、攻撃も届きにくい。


 我ながら最高に頭が悪いと思うが、針に糸を通すようにフツノミタマをぶん投げて対処していたっけ。手元に引き戻しては投げてを繰り返していた。

 幸いにも直近になって解放された射撃武装、タケミナカタの自動追尾機能が優秀なので、そういった場面で活躍してくれて助かっている。だが、それでも厳しい状況はあった。


 特に入り組んだ立体交差点なんかを縦横無尽に飛び回られると厳しい。

 結界魔法も万能じゃあないのだ。“天翔”の速度で建造物に突撃すれば、結界ごと破壊してしまう恐れがある。

 “天翔”は確かに早いが、それはあくまで直線的な動きだけだ。変則的な動作に対応しようとすれば無駄が多くなる。

 そうなると問題点が見えてくるのだが……そんな考えが見透かされたのか、リフェンスはペン先を突きつけてきた。


「“天翔”は優秀な能力ではあるが、汎用性がある分多用しちまう。それに掛かる装着者の肉体的疲労の蓄積は無視できない。違うか?」

「むっ……それはまあ、そうなんだけど」

『ヤシャリクと儂の調節次第とはいえ、身体の疲れは確実に残る。休息時間を置かぬ連続変身を禁じておるのは、儂のエネルギー確保だとか枯渇するだとか以前に、そういった面を考慮してのことじゃからな』

「しかも、こないだのニューエイジがやってきた減衰フィールドの件もある。あれのせいで、一時的にリクの調子が悪くなって転移魔法を使えなかっただろ?」

『戦闘終わりで疲れとるじゃろうに徒歩で帰らせてしまったからのぅ……実体化も出来んかったし。儂、割と負い目を感じとる』

「この間、帰り際にコケまくったの気にしてるのか?」

『当たり前じゃろが』


 インベーダーとの戦闘後は脚の疲労が凄くて、よく転ぶ。

 “天翔”は地上戦どころか空中戦までこなせる能力であり、脚部に依存しているので仕方ないことではあるのだが。

 偶にリフェンスから肩を支えてもらったり、実体化したリクの手を身体に回してもらったりと、その場で対応しているが限度はある。


「そ、こ、でぇ? “天翔”の代用としてバイクがいいんじゃねぇかっつー本題に入るんだが!」

『クククッ……レイゲンドライバーとデータリンクさせてしまえば、アキトの手を借りずとも自動操縦感覚で儂が動かせる。各種武装のようにドライバーを介して召喚、収納も可能!』

「さらにヤシャリクの吸収能力を応用するんだ。吸収した魔力エネルギーを武装等に転換する機構が備わっている以上、魔改造が可能。バイクをプラットフォーム化して(いじ)れば、移動にも戦闘にも使える便利道具へ早変わり!」

『インベーダーの魔石を活用すれば、充実したラインナップを揃えられる! 速度、加速、重量、ハンドリング、搭載兵装などなど、あらゆるカスタム要素が目白押しじゃ!』

「話だけ聞くとすごく良いと思う。リクに運転してもらえるなら安心だし」


 でも。


「──肝心のバイクを買うお金なんて、どこにあるよ?」


 終わった宿題を片付けながら、激しく興奮した様子でテーブル越しに詰め寄ってきた二人に目を向けて。

 現実的な問題を口にすれば、二人はピタリと動きを止めた。


「えっとぉ……」

『そのぉ……』

「参考までに言っておくけど、オレの月のお小遣いが三〇〇〇円。無駄遣いなんて出来ないから貯めてはあるけど」


 しどろもどろになりながら肩を竦める二人を見つめて、リフェンスが広げた雑誌をペラペラとめくっていく。


「中古品価格で最低額四〇万、新品で二〇〇万。最新型はもっと高い……たかが小学生の出せる金額じゃない」

「んまー、だからぁ……」

『廃棄品のパーツを集めて、ジャンクバイクぅ……』

「正直に言いな? リクの解析と吸収能力を悪用して、ゲート被害で壊れた車両から抜き取ろうとか考えてたんだろ」


 分かりやすいくらい、二人は肩を跳ねさせた。

 ため息を吐いて、参考書として使っていた社会の教科書を広げ、目次から目的のページを開く。


「ゲート、及びインベーダーの被害に遭った家屋や車両は特殊損害保険が適用されて、政府からの補填が降りる。仮に、それら以外からの手が加わっていると判明すれば警察や行政機関、アライアンスが出張ってくるぞ。……それと、偶にニュースでも流れてくるよな? 騒ぎに乗じて現場の物品を火事場泥棒した奴が逮捕されたっていうの……悪いことをしたら、バレるんだよ」

「『はい、すみませんでした……』」


 諭すように語り掛ければ、二人は意気消沈した様子で項垂れた。

 正直な所、心が惹かれないかと言われたら嘘になる。オレ自身、夜叉として活動するようになってから“天翔”の負担を軽減できないか、色々と考えていたからだ。

 以前から空いてる時間にランニングだとかスクワットだとかで身体を鍛えてはいるが、改善される兆候はない。

 ならば量を増やす……訳にもいかなかった。過度なトレーニングは身体に毒、とリク、リフェンスに止められている。

 ヴィニア姉さんにも心配させたくないので自重していた。だから、割と二人の意見には肯定寄りである。かなり黒に近い灰色みたいなラインの話だが。


「しょせん、理想は理想か……」

「けどよぉ、実現可能な理想なんだって! 金さえあれば!」

『そうじゃそうじゃ! ちゃんと図面やら設計図なんかも考えておるんじゃよ! ……アッ、魔石! インベーダーの魔石をしかるべき機関に売り払えば、まとまった金子(きんす)が手に入──』

「その魔石をエネルギー源にしてる人に言われたくないんだけど?」

『ぐぬぅ……!』

「しかも売りに行ったところで、ぜってー聞かれるよ? “あなたみたいな子どもがどうやってこんなに魔石を!?”とか“どこで手に入れたの? まさか盗品!?”とか……面倒事の種にしかならないよ」

「ぬおぉ……!」


 勢いだらけの提案を論破され、リクとリフェンスは呻く。

 こいつら、普段は頭が良くて頼りになるのになぁ……と残念な気持ちを抱いていたら、お昼を告げる時報が鳴った。

 めそめそとしょげている二人に片付けるように伝え、部屋を出てキッチンへ向かう。


「あら、宿題は終わったの? アキ君」

「うん。リフェンスのおかげでね」


 オレより早く昼食づくりの準備をしていた、牛族の義姉であるヴィニア姉さんと一言、二言交わした後に料理を作る。

 遅れてやってきたリクとリフェンスにも手伝ってもらいながら、用意した昼食に舌鼓を打ち、昼下がりのまどろみにウトウトしかけた時。

 ──ピンポーン。

 室内に響き渡るインターホンの音に目が覚めた。


「うん? 誰かしら?」

「オレが出るよ、姉さん」


 立ち上がりかけた姉さんを止めて玄関に向かう。


「ごめんなさい、いま開けます」


 少し大きな声で伝えてからドアノブに手を掛けて回し、押すと……いきなり勢いよく引っ張られた。

 へ? と声が出るよりも早く体勢が崩れて。


「うおーいっ、ヴィニアぁ! アタシが遊びに来たぞぉ!」


 嬉しそうな声音で叫ぶ、見覚えのない女性が抱き着いてきた。

 仄かに香る工業油らしい臭いと柔らかい身体の感触、そして強烈な鯖折りによって身体が軋んだ。


「ぐええっ!?」

「あれま? ヴィニアじゃないや」

「あらあら、誰かと思えば……」


 幸いにもすぐに解放されたものの、突然の衝撃に混乱していると、騒ぎを聞きつけて姉さんがやってきた。

 目を回しながらも肩を抱かれ、引き離された感覚に身体を預ける。


「ね、姉さん……この人、誰……?」

「私の仕事先で伝手があってね、それで知り合って仲良くさせてもらってる人なの。よく一緒にショッピングに行ったりするのよ」

「いわばマブね、マブ! 逆波マシロっていうの! もしかして君がヴィニアの弟くんかな? 挨拶が遅れちゃったけど、よろしくね!」


 怒涛の勢いで自己紹介を済ませた姉さんの友人、マシロさんは白いタンクトップに映える小麦色の肌を晒しながら。

 快活そうな笑みを浮かべるのだった。

既存のヒロインと話数限定のヒロインを絡めていく流れを作るのです。


次回、ヴィニアとマシロのお仕事、意外な関係性、そして見学のお話。

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