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アストライアの見解

書きたくなっちゃったので書きました。

プロット? もちろんありません。続々と出てくる姉系ヒロインと、その脳を焼くスパダリヒーローとの関係を描写していくだけですので。

 地球人と異類人──ネイバーを繋ぐ最先端の人工学園島。

 日本の東京都近海に浮かぶ島にはパフア専門校のみならず、建設に携わったアライアンスの専門施設が並んでいる。

 その内の一つ。内海の向こうにある東京と学園島を繋ぐ海峡大橋ごと、呑み込んだような大型港湾施設が存在する。

 人工学園島におけるゲート被害の対処、対インベーダー戦を目的とした武装警備組織アストライアの本部だ。


「──以上が、任務作戦【ヴィンテージヒーロー】に関する報告になります」


 そして内海を一望できる高所の一室で、アストライアの主的役員に囲まれた状態で竦むことなく、口を開く人物がいた。

 パフア専門校において教育実習生としての籍を置きながら、アストライアの独立戦闘部隊ニューエイジとして活躍する女性、如月マヨイだ。

 その後ろには同じ部隊に所属し、マヨイと同様の立ち位置にある門倉リン、ダークエルフのエイシャも控えている。


「ゲートで世界が繋がった黎明期に製造されたパワードスーツ“ヤシャリク”……それらを構成する重要部品の生体アーティファクト“殺生石”……封印装置として埋め込まれた制御デバイス“レイゲンドライバー”……」

「三か月前の上位インベーダー強襲から散見されるようになった“夜叉”……装着時によるデメリットを感じさせないコンディションでインベーダーを圧倒……」

「夜間を中心として姿を見せる機会が多く痕跡を辿る事は難しい……しかし近頃になって積極的とは言わずともコミュニケーションを取るようになった……」

「おまけに夜叉本人から提出された診断書によれば装着者は至って健康体……日中・夜間問わず頻繁に姿を晒し始めた……」


 長引く定例報告会のせいか、退屈そうに欠伸を噛み締めるリンをマヨイが横目で睨み、エイシャが脇腹を叩いて姿勢を正す。

 そんなやり取りを交わす中。

 幾度となく繰り返されてきた夜叉への概要を口にし、各所からため息が生まれた。


「変わり映えの無い報告だ。何も進展がない」

「致し方あるまい。彼の者はヤシャリクの性能を十全に使いこなすほど適応しているのだろう? 加えて、殺生石に宿る人造生命体が装着者の保護を目的として、隠蔽工作を働いているそうじゃないか」

「あくまで仮説だろ? 実際に人造生命体の声を聞いたヤツなんざ、歴代の装着者にしかいないって話だ。それも幻聴だと片が付いているんだぞ?」

「論点はそこじゃあない。問題なのはこれだけの頭数が頭を悩ませて、最新鋭のフレスベルグを投入して、他の戦闘部隊まで展開しているのに夜叉を捕縛できない現状でしょう」

「当人が地球人とネイバーの味方でいると明言したそうだな。事実、アストライアのゲート感知速度よりも早く現場へ向かい、インベーダーと交戦を始めている報告が上がっている」

「救われた民衆も隊員も大勢いる。結果として見れば、まさしく人類の救世主……しかし信用に値せん……その辺り、どうお考えかな? 本郷博士」


 不満と困惑、打破できない状況に青筋を立てる上役が、静観を貫いていた本郷タカシに問い掛けた。


「ニューエイジに夜叉を捕縛する為の装置を開発した……意気揚々と報告してくれたが、まるで成果が出ていないようだが?」

「それに関しては謝罪する。というのも、こちらとしても想定外だ」


 タカシは席を立ち、手元の資料を持ち上げる。

 同時に腕輪装着型情報端末、マギアブルを操作してホログラムを展開。空間に投影された様々な資料の内、いくつかをピックアップする。


「このグラフを見ていただきたいが、左右で大きく変遷が発生している。左が機関で保管する直前の魔力エネルギー保有率・出力をデータ化したもの……そして右が、現在のヤシャリクのものだ」

「な、なんだ、この馬鹿げたエネルギーゲインは!?」

「見間違いでなければ、五倍以上は離れているようだが?」

「ええ。そして重要なのは、ここまでの出力を誇るヤシャリクとニューエイジのフレスベルグは計算上、同値の入出力を発揮できるように調節してある事だ。本来であれば、ヤシャリクを相手取ることは数的有利を鑑みても容易い」


 しかし。


「これはヤシャリクを装着した上で何も動作を起こしていない時の数値であり、これが戦闘中になると──こう変わる」

「バカな……っ!? に、二〇倍!?」

「アストライアはおろか、アライアンスの既存兵装を上回っているぞ!?」

「フレスベルグには装着者の安全保護の為に機能制限を設けている。装着者、もしくは司令部の判断で解除が可能だが、それでも戦闘中である夜叉の半分程度のエネルギー量しか扱えない。それに、制限解除した状態で長時間活動を続ければ装着者の肉体が持たない」


 この情報から判断するに。


「小器用にも夜叉は自身の魔力エネルギーを緻密に管理し、分配することで瞬間的な出力を跳ね上げさせている。実際、ニューエイジの前から姿を消す際に用いられている機能、“天翔”の瞬間速度は秒速三四〇メートル強……フレスベルグの最高速度を優に超えている」

「そんなの、どうやって捕まえれば……!」

「対話だ」


 当たり前のように、タカシは言ってのける。


「どういう心変わりかは定かでないが、向こうからコミュニケーションを取るようになった事は、良い兆候だと私は考えている。出現頻度も、先日の反政府組織によるパフア専門校襲撃事件を機に上昇傾向にある。接触のタイミングが増えてきたならば捕縛でなく、対話による説得が必要になるだろう」

「そんな悠長な行為をしている場合かね? 奴の存在はアストライアの意義を否定しかねんのだぞ?」

「強硬手段を取って出たいならご自由に。ただし、学園島の抑止力と化した守護者に対して高圧的な態度を見せ、反感を買わないようにしていただきたい。現在、最も距離が近いニューエイジの妨げになりかねない」

「……我らの対応次第で、夜叉の出方は変わると?」

「夜叉は機械でなく、人です。今でこそ夜叉の善性によって保たれている均衡を崩し、人類に絶望させるような対応を取れば敵に回る可能性がある事を、ゆめゆめ忘れないように」


 ホログラムを閉じて会議を締めくくったタカシは、その場で一礼し、ニューエイジを連れて部屋を後にする。

 日差しに照らされた通路を歩きながら、眠気を覚ますようにリンは顔を揉み、次いでタカシの背中を指先でつつく


「博士ー、事実を言ったまでとはいえ上層部にあんな態度取っちゃっていいの? 変に目を付けられちゃったりしない?」

「君達以外の部隊が成果を上げられていないのは確かであるし、武装開発の第一人者に圧力を掛けるなど出来んさ。気にするだけ無駄だ。……夜叉に対する、ニューエイジの重要性は上も理解しただろう」

「すみません、私の力が及ばないせいで、博士に余計な心配を……」

「謝る事はない。むしろ様々な制限が掛けられている中、よくやってくれている。後はこちらの頑張り次第だ」


 四人は地下駐車場に続くエレベーターへ乗り込む。

 緩やかに全身が浮つく感覚にマヨイが呼吸を深めていると、エイシャが腕を組み、静かに唸りだした。


「ふーむ……頑張り次第、といってもだ。この間のゲート発生に伴い現れた夜叉へ、魔力エネルギー減衰フィールド発生装置の設置地点へ押し込んだが……」

「渾身の出来だったし効果は出てたみたいだけど、全然効いてなかったじゃん?」

「それどころか減衰し切れず過負荷が掛かったせいで装置が暴走し、自壊しましたからね。インベーダーを鎮圧した後だったからよかったものの……」

「そのせいで逆にフレスベルグが機能不全を起こしちゃって、三人とも墜落しかけた所を助けてもらったもんね」

「“何がしたかったんだ……?”と呆れた声音で言われた時は、さすがに羞恥で顔が熱くなったな……」

「すまない、本当にすまない!」


 直近で起きた間抜けな──本人たちは至極真面目に取り組んだ──結果を思い出して、全員が居た堪れない面持ちのまま、開いた扉からエレベーターを出る。

 近くに停車していたアストライアの装甲車に乗り込み、タカシの運転で地下駐車場から島内へ続くハイウェイに。


「開発機関へ戻る前に何か食べに行くか……私の奢りだ。要望はあるかね?」

「ジロウ系ラーメン」

「映えるオシャレなランチ!」

「大盛りチャレンジが出来るお店で」

「……私は何でもいいから、そちらで意見をまとめてくれ」


 これでもチームワークは完璧なんだよな、と。

 諦観の吐息を落とし、背後から響く不正なきジャンケンの戦いを聞きながら、島内を巡る高速道路を駆けていく。


「──こんな時、夜叉はいったい何をしているんだろうな……」


 ◆◇◆◇◆


「やっぱりよ、古来より単独で戦う謎多き人物ってのは、大なり小なり乗り物に跨って人々のピンチに参上する訳じゃん? ……夜叉にもさ、バイクみたいなの欲しくね?」

『わっっかるわぁ。儂が読んどる漫画にもクールに登場して決め台詞を吐く主人公がおるんじゃよぉ。アレかっちょいいのよな!』

「盛り上がってるところ悪いけど無免だし、そもそも小学生なんだが?」


 タカシの馳せる思いとは裏腹に、しょうもない話題に花を咲かせていた。

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