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舞い降りる剣

 二つの世界を繋ぐ架け橋である組織、アライアンスを良しとしない反政府勢力。

 奴らは危うい均衡で保たれた世情を正す、という大層な大義名分を掲げ、アライアンスの管轄にある組織への攻撃行為を頻繁に実行していた。

 とある企業と癒着して資金を得て、アライアンスの施設を強襲しては装備を奪取。

 認可の取れていない医療技術、違法薬物によるドーピング技術で既存の警備、防衛組織すら手玉に取るなど、事実も噂も合わせて厄介なことこの上ない集団。アストライアのある学園島でも姿が散見され、問題視されていた。

 特に話題に上がっていたのが、自身を怪人へと変貌させる特級危険物。

 災害級の力を持つ特位インベーダーにすら、いとも容易く変身可能な薬物。投与に耐えうる肉体、知能を持ちさえすれば、対象は老若男女すら問わない。

 アストライアが誇る探知、検知レーダーにも掛からない偶発的な脅威の出現に対し、ニューエイジも後手に回らざるを得なかった。


「きひゃはははっ!」

『ぐっ……!』


 加えて、変身者の元となったインベーダーの要素が強いほど制圧は困難となる。

 交戦を始めたニューエイジがフレスベルグの機能を万全に、数的な有利を駆使しても。

 竜怪人の硬い鱗は弾丸を弾き、しなやかな四肢は地面を粉砕し、鋭い爪は空間を切り裂く。そして口腔より吐き出される魔法性質のブレスは、フレスベルグのシールドを溶解する。

 薬物の興奮作用で狂ったような笑い声を漏らし、デタラメに振り撒かれる暴威にニューエイジは歯噛みしていた。


『こいつは、とんでもなくやりにくいな……!』

『んもー、かわいくないトカゲだなぁ。どうにかならない!?』

『手数が足りない現状では足止めが精一杯です! 博士、応援部隊は!?』

『出撃させたいのは山々だが、武装システムを統括している人工知能がクラッキングを受けている!』


 独立型デバイスで収納、ナノマシンによる自己修復と機能的に管理されている、ニューエイジのフレスベルグ以外に動作可能なパワードスーツがない。


『つまりは反政府組織の計画的な犯行……幸いなのは、パフアだけが狙われていることでしょうか』

『しかし同様の襲撃が各地で発生しないとも限らん。その為にも現在、総力を挙げて対処中だっ。増援が出せるまでなんとか持ちこたえてくれ!』

『パフアと生徒を守りながら怪人の相手をするのぉ!? きっついなぁ!』

『だが、やるしかない。怯える子ども達をそのままにしてはおけん!』

『私たちに攻撃が集中するように機動を取ってください! 決して、背後の校舎に通さないように!』

『了か──マヨイっ、危ない!』


 竜怪人の周囲を飛び回りながら攻勢に転じていたマヨイの眼前に鋭い爪が映る。怪人の持つ翼の飛行速度は、通常のフレスベルグを上回っていたのだ。

 かろうじて身体を捻り、スラスターで強引に回避したのも束の間。錐揉みする視界の中で、球状の特大ブレスが放たれた。

 火の性質を持ち、シールドを溶かし、反応装甲の役割を持つ部分に衝突。

 急激に赤熱した装甲がパージされたと同時に、ブレスの衝撃でマヨイの体が吹き飛び、校舎の壁に激突。


『かはっ!?』


 胸の奥から息を吐き出す。バイザーに警告音が鳴り響く。

 すかさず放射された二発目のブレスが、無防備なマヨイに迫る。リンとエイシャが妨害に動くも間に合わない。

 フレスベルグの全エネルギーを回しても防げるかどうか。だが、やらねばならない。

 彼女たちが背負うのは小さな希望。守るべき、芽吹きの種。

 たとえ自身の命を引き換えにしても、未来へ繋ぐ為に。


『っっ!』


 言葉なく、覚悟を燃やしたマヨイはフレスベルグのリミッターを解除。

 次いで展開した分厚い半透明の障壁がブレスと接触し、拮抗、

 水飴の如く溶けていく障壁に合わせて、熱せられた空気が近づいてくる。止まらない、防げない。もう、ダメか……そんな諦念が胸中に湧き、目を閉じた時。


『諦めるな』

『……え?』


 背中を押すような声と共に、舞い降りた刃がブレスを両断。


『生きる事を、命を繋ぐ事を、諦めるな』


 割断され、霧散する炎の先で。


『その為に──オレがいる』


 マフラーをなびかせ、刀を構えた夜叉が、そこにいた。

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