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帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜  作者: 長月京子
第八章:婚約披露の代償

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43:王女と叔父の再会

 目覚めてユエンと目が合うと、スーは真っ先にルカの無事を確認した。


「姫様は本当にルカ殿下のことしか考えておられないのですねぇ」


「だって、大切な方ですもの」


 スーの個人的な感情を別にしても、帝国の皇太子に何かあったら一大事である。ユエンからルカが無事であることを聞いて、ようやくスーは自分の様変わりした部屋に気付き、唖然となった。


「重傷者でもないのに、ちょっと大げさすぎないかしら?」


 帝国式の美しい調度を台無しにする勢いで、寝台周りには医療機器が陣取っている。

 腕からは細い点滴の管や、(コード)のようなものが幾重にも繋がっていた。


 脱臼した肩を動かしてみると自由に動く。肩には痛みも感じない。

 足の捻挫は厄介だが、動けないこともない。


「姫様が思っているより、身体はダメージを受けておられると思いますよ」


「そうかしら?」


 傍に控えているユエンが、医師を呼ぶ。婚約披露からは数日たっていた。刺客にのまされたものとは別に、治療の一環として鎮静剤を投与されていたらしい。


 点滴のせいか空腹は感じない。

 寝台に上体を起こそうとすると、みぞおちに刺すような痛みがあった。


「姫様の肋骨には、ヒビが入っていますし」


「ええ? そうなの?」


 声をはると痛みが走る。ユエンの手を借りて、スーは痛みが出ないように気遣いながら、寝台にゆっくりと上体を起こした。


(あの人攫い、女の子相手に手加減なしだったわ)


 吐き気がするほどの痛みを思い出して、スーは苛立ちを覚えたが、同時に今まで味わったことのない、深淵のような絶望感を思い出す。


 怖くなかったと言えば嘘になる。それでも、スーはあの誘拐劇をただの恐ろしい経験にしたくない。嫌な記憶になるだけでは悔しすぎる。帝国に嫁ぐ覚悟を刻む絶好の機会だったと、受け止めて糧にしたい。


(――あなたは皇太子とは別の誰かの子を孕む。帝国には、その結果がもたらすものを望む者がいるのです)


 思い出すだけで肌が粟立つが、ルカの生きている世界の一端なのだ。華やかなだけではない、不穏な悪意がはびこる世界。


 怖気づいてはいられない。これから先、彼の隣で寄り添うために必要な強さ。スーは学んで育んでいかなければならないのだ。


 どんな体験も意味があると思えば、少しはのみ込むことができる。


(でも、ルカ様が無事で本当に良かった)


 スーにとっては、それに勝る幸運はない。

 自分も多少の怪我を負ったが、きちんとルカの元に戻ってこられた。


(わたしは絶対に、ルカ様の子を産むんだから!)


 得体の知れない輩の子を孕むなど冗談ではない。自分を手籠めにしようと考えるような者がいれば、暴れまくってギタギタにしてやる。


 心の中で憤慨してみるが、スーは嫌な感触を思い出してゴシゴシと唇を手の甲でこする。


(……苦しくて、気持ち悪かった)


 さすがに泣きたい気持ちになった時、医師がやってきた。

 問診後、怪我の具合を診てもらい、医療機器からつながる管や線が外された。機器も片付けられ、病室じみた室内が寛いだ雰囲気を取り戻す。


 部屋は元通りになったが、怪我が癒えるまでは安静にするように言われる。また退屈な日々を過ごすのかとため息が出た。


「ちゃんと大人しくしてないと駄目だよ、スー」


 医師と入れ替わりにやって来た人影に、スーは目を見開いた。思わず寝台を降りて飛びつきそうになったが、胸に走った痛みで我に返る。


「リン叔父様!」


「久しぶりだね。スー、婚約おめでとう。しばらく見ない間にとても綺麗になった」


「ありがとう、叔父様! でも、叔父様は全然変わらないわ! どうしてここに? いつから? あ、もしかして婚約披露にも来てくれていたの?」


「いや、近くまで来たから、スーにお祝いでも言おうかと思って立ち寄ってみただけ。そしたら、スーがこの有様だし驚いたよ。いろいろあったみたいだけど、帝国に来たことを後悔していないかい?」


 叔父のリンは昔から神出鬼没だった。いつもどこかを旅しているらしく、スーが帝国へ発った日もサイオンにはいなかった。スーも随分顔を見ていなかったが、リンの様子は思い出の中と全く変わらない。親族であるのが一目でわかる容貌に、スーは懐かしさを感じて心が緩む。


「後悔なんて微塵もないわ! 叔父様はルカ様にはお会いになった? とても素敵な方なのよ! 優しくて思いやりがあって、とても綺麗で!」


 スーは脳裏にルカを思い描いて、うっとりとした気持ちで素直に打ち明ける。


「わたしが政略結婚に夢を見ていなかったのは叔父様もご存知だと思うけど、今はルカ様のために素晴らしい妃になることが夢なの! そして、誰もが羨むようなおしどり夫婦になるわ!」


「わかった、わかった、スー。わかったから、そんなに身を乗り出さずに安静にして」


 スーのあまりの剣幕にリンが笑う。笑いながら、意味ありげに開いたままの扉を振り返った。


「殿下、いつまでそこで立ち聞きしているつもりですか?」


「え?」


 スーはぎょっとする。まさかと思ったが、ルカがゆっくりとした足取りで室内に姿を見せた。リンとルカを案内してきたのだろうオトも、彼の後ろについておかしそうに笑っている。


「ル、ルカ様!?」


 今のを聞かれていたのかと思うと、スーは一気に全身が茹で上がる。


「隠れているつもりはなかったのですが、驚かせて申し訳ありません」


「あ、いえ、あ、あの」


 恥ずかしさで消えたくなったが、スーは改めて寝台の前に現れたルカを見て、張り詰めていた力が抜けるのを感じた。


「ルカ様がご無事で良かったです」

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