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帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜  作者: 長月京子
第七章:皇太子は王女を欺けない

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37:ダンス披露とシャンデリア

(すごい緊張感だわ!)


 スーは再び会場に戻り、心臓が口から飛び出そうなほど鼓動をバクバクさせていた。


 広間の調度や、立食用の料理を盛られた食卓の配置が、さっきまでと変わっている。

 中央には、広く作られた空間があり、人々がダンスを楽しむための準備が整っていた。


 ルカに手を取られて広間に戻ると、奏でられていた音楽の曲調が緩やかに変化し、人々の注目がいっせいに二人に向けられる。


 まだ誰も踊り出していない空間は、どうやら婚約を披露した王女と皇太子のために開けられているようだ。会場を見回すと、自分と快く会話をしてくれた令嬢たちも、こちらを見て目を輝かせている。


「スー。では、一曲披露しましょうか」


 ルカは怖気づく様子もなく、緊張が最高潮に達しているスーを見て面白そうに微笑む。


「そんなに固くならなくても大丈夫。スーのダンスは素晴らしいです。自信をもって」


「はい」


 ルカの声で少し落ち着きをとりもどす。自慢ではないが運動神経は良い。サイオンでは木に登ったり、野山を駆けて過ごしてきたし、武道も修めている。サイオンの民族的な踊りも完璧だった。王女として必要であったかどうかはさておき、身体で覚えることは得意なのだ。


 ルカの私邸で先生に習い、徹底的に社交ダンスを身につけた。今日に至るまでに、ルカを相手に踊ったこともある。


 手を引かれ、空間の真ん中に出ていくと照明が自分たちを追いかけてくる。スーは作法通りに優雅にお辞儀をした。曲の旋律に合わせて、ルカがスーを引き寄せる。


 ステップのはじまりだった。


 踊り始めてしまうと、身体が足取りや姿勢を覚えている。緊張がほどけてすぐに楽しさが心を占めた。


 ルカに視線を向けると、目が合う。彼はスーを称賛するように笑顔になり、頷いて見せてくれた。ルカのリードは先生よりも力強く、身体がさらに軽く感じられる。


(ルカ様から、良い香りがする)


 二人が動くたびに追いかけてくる風にのって、男性的な爽やかな香りが漂う。寄り添うような距離にいることに、スーはうっとりと幸運を噛みしめた。


 はじめの緊張が嘘のように、楽しく幸せな気持ちに満たされている。


 二人をいざなった曲が終わりに近づく。ダンスの披露が終わると、スーはルカに合わせて再び優雅にお辞儀をした。

 少し息のあがった状態で顔をあげると、周りから拍手が巻き起こる。


「スー、ありがとう」


 喝采に包まれながら、隣でルカが笑ってくれる。

 鳴りやまない拍手が、スーの努力が報われた事を教えてくれた。


「--っ!」


「え?」


 ルカに「こちらこそ」と礼を述べようとした瞬間、スーは遠くにルキアの声を聞いた気がした。


「スーっ!」


 目の前を落下してくる影と、ルカの叫び。

 何かを把握する前に、気がつけば強い力に突き飛ばされていた。


「!!」


 倒れた衝撃で足を捻るが、痛みをかき消すように大きな破砕音が響く。祝福に満ちた広間には不似合いな悲鳴が、重なるように響き渡った。


「ルカ様!?」


 すぐに身を起こして振り返ると、大きなシャンデリアが落下して、砕け散った硝子が、キラキラと光を反射している。衝撃で割れた装飾、歪んだ枠や曲がった細工が重量を感じさせた。いびつになった装飾の下を這い、全てを赤く染めるように、じわりと床に血だまりが広がっていく。


 視界を阻む、巨大なシャンデリア。

 血の広がりに合わせて、なんとも言えない甘い香りが広がっている。


「ルカ様!!」


 スーにはジャンデリアが邪魔になって、ルカの安否を確認できない。立ち上がろうとすると、倒れた時にひねった足に激痛が走った。護衛がジャンデリアの向こう側に駆け付けるのを眺めながら、スーもそちらへ這って行こうとする。


「ルカ様!」


「スー王女! 大丈夫ですか?」


 見たことのある赤毛とドレスが視界を横切る。途端に、鼻をつく甘さがいっそうひどくなった。酔いそうな芳香。なぜだろう。体が急激に重くなる。


「お怪我はありませんか?」


 声は明瞭なのに、どんよりと世界が遠ざかっていく。


 印象的な赤毛とドレス。誰だっだだろう。甘い香りに記憶を阻まれるように、思い出せない。自分に危害を加えるような者ではないことだけがわかる。


「足を痛められたのですね? そちらはガラスの破片で危険です。王女はこちらへ!」


 女性とは思えない力強さで、赤毛の令嬢がスーの肩を担ぐ。体に力が入らない。


 床に広がり、じわじわと描かれていく血だまりが、スーの心を激しく揺さぶる。危機感と絶場が競り上がっていくのに、まるで別世界のことであるかのように、現実に手が届かない。


「スー王女!」


 給仕に化けた護衛が自分を取り囲むが、赤毛の女性が凛と答える。


「足を挫いておられるようです。破片でお怪我もなさっているかも。王女にもお医者様を」


 女性の声を背景音楽ように遠くに感じながら、スーは振り絞るように声をあげる。


「わたしは大丈夫です。とにかくルカ様を……」


「スー王女は、わたしがお連れいたします」


 赤毛の令嬢にすがるように、スーは彼女の肩をかりて立ち上がった。駆け付けた護衛に大丈夫と頷いて見せる。今は自分よりもルカの安否を確認してほしい。


「さぁ、スー王女。こちらにいらっしゃると破片でお怪我をいたします。とにかく、今はあちらへ」


「ーーはい」


 甘い香りが漂っている。もしかしてルカの血の匂いなのだろうか。

 令嬢が自分をシャンデリアから遠ざけようとするのも、見せたくないものがあるからではないのか。


(もし、ルカ様が――)


 嫌だ。考えたくない。ぐらりと頭が重くなる。熱を含んだように体がだるい。


 視界の端にうつる血だまり。ルカは大丈夫なのだろうか。確かめたいのに、できない。体が重く、全てが億劫で遠い。スーは朦朧とした意識のまま、自分を支える令嬢に身を任せた。

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