表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜  作者: 長月京子
第六章:皇太子と王女の婚約披露

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/167

31:殿下の好きな人

 はじめは遠慮がちな問いかけをだった令嬢たちとの会話も、互いに打ちとけてくると、気軽さや率直な声を含みはじめた。


 キラキラと着飾ってお姫様のように可愛らしい令嬢たちは、スーと年もちかい。

 クラウディアにきてからは、ユエンやオトなど年配の女性と話すことが多かったので、スーはウキウキと心が軽くなる。


 クラウディアの貴族女性は結婚年齢が早いらしく、スーと同じ年ごろで、すでに子持ちの女性もいるらしい。婚約者がいるのは当たり前で、十八で結婚は遅いくらいの認識のようだった。


 少し会話をしていると、スーがこの場を楽しんでいることが伝わったのか、令嬢たちはますますおしゃべりになる。

 誰と誰が愛人関係であるかなどの、裏事情や情報も教えてくれた。


(なんとなく想像していたけれど、すごく複雑な世界だわ)


 婚約中の不貞で約束が白紙になることがあるのに、結婚後に愛人を作ることには寛容な貴族社会が、スーにはよくわからない。


(離婚したい時は不貞になるけれど、そうでない場合は愛人も歓迎ってことかしら?)


 令嬢たちは各々の体験を武勇伝のように面白おかしく聞かせてくれるので、スーも勢いに任せておしゃべりになりそうだったが、皇太子妃となる立場も忘れてはいけないと心の舵を握りなおす。


「スー王女はいかがですか? ルカ殿下のお邸にいらっしゃるというお話でしたけど、何か困ったことがございましたら、わたくし達にご相談くださいね」


 相談した途端に噂をばらまかされそうな気もするが、スーは善意として素直に受けとる。


「ありがとうございます。でも、毎日とても幸せです」


「まぁ! なんと健気な」


 綺麗な巻髪をした女性が、細工の美しい扇で口元を隠した。


 令嬢の中にも関係性があるようで、巻髪の女性は、会話の主導権をもっているように思う。はじめはみんなおしゃべり好きで同じような印象だったが、よく観察していると、口数の少ない令嬢や、けたたましく話す令嬢など、特徴が見えてくる。


「わたくしなら遠国に独りなんて寂しくて耐えられません。なのに、幸せだなんて」


「寂しいと思う前に学ぶこともたくさんありますし、それにルカ殿下はとてもお優しいです。館の方もとても親切ですし」


 笑顔で答えると、ざわりと令嬢たちの空気がどよめく。


「殿下がお優しいなんて」


「スー様もお可哀想に」


 不穏な囁きが耳に入ってきた。

 巻髪の女性が、ここぞとばかりに心配しているという様子で身を寄せてくる。


「――それは、スー様の本音でしょうか? 無理をされていらっしゃいませんか?」


「え?」


「わたくしたちには、本音を語ってくださってもよろしいのですよ」


 どういう意味だろうかとスーが返答に困っていると、傍らから赤毛の美しい女性が告げる。


「実はわたし達は、スー王女のことを心配しているのです。ルカ殿下に嫁ぐなんて、心の休まる日がないのではないかと思って」


 なにやら話の雲行きが怪しい。労わるようにスーを見る令嬢たちの視線。どうやらこの話題が彼女たちの一番の関心事でもありそうだった。


「今日も、この晴れ舞台に公妾をお連れになっていらっしゃいますし、さすが血も涙もないお方ですわ。本当に殿下はスー王女のことをなんと思っておられるのかしら」


 聞きなれない語句に思考が停止しかけたが、スーは含まれた爆弾情報に気づく。


(こ、公妾!? いま公妾って言った? ルカ様の公妾?)


 令嬢たちのなんとも言えない嫌悪感のこもった視線の先をみると、ルカとヘレナが楽し気に会話している。


(ええ!? ヘレナ様って、殿下の幼馴染みというだけじゃなくて!?)


 公妾ということは、皇太子が公に認めた愛人ということだ。スーはずぅんと心が重たくなる。


(たしかにさっきルカ様は、ヘレナ様をお支えしていると言っていたわ)


 気がつかなかった自分が鈍いのだ。ルカには隠すような意図もないだろう。


(愛人……。おかしいと思っていたのよ、妃がわたしだけなんて)


 こんなところに落とし穴があった。

 あんなに大人の女性が愛人であれば、自分がこどもに見えるのも仕方がない。


(元はルカ様のお父様の妃だと言っていたわ。……幼馴染ということは、お父様に嫁いでおられたヘレナ様を、ルカ様はずっとお慕いしていたのかしら。お父様がなくなって、ようやく想いを実らせたのだとしたら)


 自分は完全に邪魔者である。ズボッと心が落胆の沼にめり込んだ。


(ルカ様には、お好きな方がいらっしゃるんだ……)


 地下深くまで引きずり込まれそうな憂鬱な気分になり、スーはうなだれそうになる。独りになって叫びたい気分だったが、今は毅然とした態度を崩してはいけないと、精いっぱい平静を装う。


「みなさま、殿下は本当にお優しい方なんですよ。血も涙もないなんてことはありません」


「スー王女、なんて健気なお方」


 赤毛の女性が大げさに嘆く。なんだか茶番じみてきたなと、スーは少し白けてしまう。

 結局、他人の不幸は蜜の味ということだろうか。


(愛人に寛容だったら、公妾のいらっしゃる皇太子に嫁ぐことも、そんなに悲劇じゃないと思うんだけど。そもそも皇家は多妻が許されいるのだし)


 できるだけ否定的なことや下品なことを言わないようにと、スーは言葉や内容をきちんと選ぼうと気を引きしめる。


(いまは落ち込むのは後回しだわ。わたしがルカ様の評判を落としたくないもの)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▶︎▶︎▶︎小説家になろうに登録していない場合でも下記からメッセージやスタンプを送れます。
執筆の励みになるので気軽にご利用ください!
▶︎Waveboxから応援する
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ