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帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜  作者: 長月京子
第四章:第七都クラウディア国立公園

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16:目的地は第七都

「ルカ様。準備が整いました」


 執事のテオドールが、いつもの朝と同じように書斎にやってきた。

 ルカは軍の上着を手に取りそうになって、自身のラフな服装と見比べ、今日は違うのだと苦笑する。


「いま行く」


 私服の上着を羽織って書斎を出ると、廊下がいつもより賑やかな印象がした。

 静謐なはずの玄関前ホールから、話し声が響いているのだ。


 ルカが二階から大階段を降りていくと、使用人たちと談笑していたスーが、すぐにこちらに気がついた。


「殿下!」


 ルカが歩み寄るよりも早く、こちらに駆けつけて来ようとする。


(まさか、また飛びついてくるのでは……)


 一瞬身構えたが、スーはルカの前までやって来ると「おはようございます」と満面の笑顔で会釈した。再び尻尾を振って喜ぶ子犬を連想しながら、ルカも笑ってみせる。


「おはようございます、スー」


 これまでの彼女の意気込みから、大袈裟に着飾られても困ると思っていたが、どうやらオトがうまく衣装をすすめたようだ。動きやすさを重視したのか、いつもよりスカートに膨らみがない。スーの故郷であるサイオンの形は損なわれず、華奢な体の線が優美にうつり、印象が洗練されている。


 昨日とは着こなしが違うのか、華やかさよりは艶やかさが際立っていた。


 ふたつに分けて耳の上で結い上げた黒髪は編んでまとめられているが、左右から一部が馬の尾のように艶やかに肩におち、背中の線をなぞっている。

 スーが動くと、花の連なる金細工の髪飾りがゆれた。


「やはり、あなたは美しいですね」


 素直に言葉にすると、スーの眼が大きくなる。


「……ありがとうございます」


 さっきまでの勢いが嘘のように声が小さくなる。みるみる熟れた果実のように顔が赤くそまった。

 初めて対面したときも、同じような反応だったなと、ルカは微笑ましい気持ちになる。


 クラウディアにも聞こえてくるほどの美姫なのに、今まで誰かに言われてきたことはなかったのだろうか。見た目と中身のちぐはぐさが、とても可笑しい。見たことのない愛らしい珍獣を見ている気分になる。


 ルカはスーを促して玄関へと歩きだした。


「行きましょう、王女」


 (あ、まずい)と思った瞬間、隣を歩いていたスーがぐいっとルカを仰いだ。


「殿下! 昨日も申し上げましたが、わたしはスーと名前を……」


「はい、わかっています。申し訳ありません」


 すぐに詫びても、スーが物言いたげに、じいっとこちらを見つめている。威圧感とはほど遠い、くすぐったくなるような圧力を感じながら、ルカは見送る館の者たちに挨拶をして外へでた。


 玄関先で、スーが見送りに出ている侍女と侍従長の前で、意味ありげに手をあげている。さすがにルカにも館の者たちの的外れな期待が伝わってくるが、咎めるほどのことでもない。


 ルカの思惑はどうであれ、いずれ結婚する二人が仲睦まじくあってほしいと願う気持ちは理解できた。

 パタパタと小走りになりながら、スーがルカの隣に追いつく。


「今日はどちらへいらっしゃるのですか?」


 前庭を歩いて車へと向かいながら、スーがウキウキとした様子を隠さずに目を輝かせている。


「あなたには帝都を案内するのも良いかと思いましたが、今日は第七都にある国立公園をご案内しようかと思っています」


「第七都ですか? 少し遠いですね」


「はい。ここからだと車でも到着するのは昼過ぎになります」


「どうして、国立公園に?」


「帝都の街並みより、スーにはこちらの方が喜んでいただけるのではないかと。それに、第七都の国立公園はもうすぐ閉鎖されますので、見るなら今のうちです」


 帝国のエンブレムが入った車の前にくると、運転手が二人に挨拶をする。用意させた車は、運転席と座席が完全に独立しており、後部はゆったりとしたソファを設えた一室のような作りになっていた。


 車中で窮屈な思いをすることもなく、彼女とゆっくりと会話をする時間も持てる。

 昨夜の夕食の席で、明らかになった事実。

 スーはクラウディアのことを何も知らないのだ。


 彼女の無知さは、都合が良かったのか悪かったのか、ルカにはまだわからない。

 どちらにしても、スーには帝国内で過ごすために知っておくべきことがある。


 今日は彼女がクラウディアについてどのくらい学んだのかを確かめ、この先注意すべきことを、さりげなく警告しておきたい。


 ルカはスキップしそうな勢いで隣を歩くスーを眺めながら、そっと吐息をつく。


 サイオンの王女。


 彼女の重要性を知るものは多くない。問題は皇太子でありながら帝国元帥となった自分にある。


 多くの地域を治めながら、帝国内はルカを皇太子に推した皇帝派と、ルカの異母弟を皇太子に擁立したいと考える大公派の後継争いがある。


 二大派閥はルカが父を陥れた時から端を発しているのだ。

 皇帝の指名によって皇太子となり、皇帝軍を指揮する元帥の立場を与えられても、ルカの足元は不安定に揺れている。


 サイオンの王女を迎えたことは公に発表していないが、ルカが皇太子として、皇帝軍の所有する飛空艇と帝国憲兵に行進をさせたことは、クラウディアの貴族達の間では周知の事実である。

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