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帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜  作者: 長月京子
第十八章:第二王子レオンの婚約披露

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100:もし親密な関係なら

 結局、ルカに抱き上げられたまま前庭を過ぎて車に到着した。庭先には騒々しく感じるほど護衛がついている。スーは圧倒されつつ気持ちを引きしめた。今日は警戒を怠ってはならない日なのだ。


 車内へ乗り込むと、ルカと二人きりになった。スーは改めて目の前に座るルカの神々しい美しさに視線が吸い寄せられる。


(やっぱり想像よりも実物の方が数万倍素敵だわ!)


 スーが熱烈な視線を向けていると、ルカと目が合った。彼が微笑むと、それだけで車内の彩度があがったのではないかと錯覚するほど場が華やかになる。


 車がゆるやかに発進して敷地を出ると、車窓の景色が流れ始めた。


「スーはあまり緊張していないようですね。あなたには今日のために少し酷な話をしたので、恐れているのではないかと心配していましたが」


「すこし緊張しておりますが、今はルカ様に会えたことが嬉しいです!」


 素直に気持ちを表明すると、ルカが気づかうように視線を伏せた。


「今は色々と用件が立て込んでいるので。……不安を煽るようなことを伝えたのに、そばにいられずに申し訳ありません」


「そんな、謝らないでください。ルカ様が多忙であることは心得ております。今日も万全の警戒で臨んでくださっていますし、何も心配しておりません」


「相変わらずスーはたくましいですね」


「……たくましい、ですか」


 褒め言葉のようだが、スーは複雑な気持ちになる。もっと怖気付いていた方が女性らしかったのだろうか。


「もしかしてルカ様はか弱い女性がお好みでしょうか?」


 おそるおそる尋ねてみると、ルカはスーの考えたことを察したのか小さく笑った。


「私の愛しい寵姫はあなたです」


「そういう外聞になっているのはわかっておりますが、わたしは率直にルカ様の好みを伺いたいです」


「女性に何かを期待することはありませんが、今はスーが傍にいてくれれば充分です」


 ルカは迷うこともなく言い切るが、スーはがっくりと肩を落とした。今日は魔性の王女という噂どおりにルカとの仲睦まじさを演出できる絶好の機会でもある。


 夜の華という醜聞を上書きするには、ルカとの良好な関係が重要なのだ。

 彼はすでに心得ているのだろう。スーも精一杯努める意志を伝えた。


「今日はルカ様の期待を裏切らないように、愛されている王女としてふるまいます」


 スーはこの作られた状況を逆手に少しでも進展ができないかと頭を働かせ、むくりと湧き上がった作戦を口にする。


「魔性の王女を本物にするために、ルカ様と親密なふりをする練習をしておくのはどうでしょうか?」


「親密なふり?」


 何を言い出すのかと言いたげなルカに、スーはここぞとばかりに訴える。


「親密な関係にある男女であれば、たとえばこのような車内で二人きりで乗り合わせるとなると、触れたり身を寄せ合ったりしませんか。そして愛を囁き合ったり、手を握りあったり、熱烈な口付けを交わしたり……」


 大胆に言い募ってみたが、ルカがじっとこちらを見つめているので、スーはすぐに勢いを失ってしまう。ぼっと顔が茹で上がった。


「えと、その、例えばの話ですが」


 大袈裟すぎたかと後悔に苛まれていると、ルカがスーの手に触れた。


「スーが許してくれるなら、私はあなたに触れたい」


「え?」


 男性らしい長い指がスーの指とするりと組み合うと、掌の熱が伝わる。同時に強い力で引き寄せられ、勢いで席から身を乗りだしてしまう。あっと思った時にはルカの胸に飛びこんでいた。とつぜんの親密な距離感に、スーは頭が真っ白になった。

 自分で言い出しておきながら、何が起きているのかわからない。


「スー」


「は、はい!」


「触れたり身を寄せ合ったりとは、こんな感じですか」


 同じ座席でルカに抱きすくめられて、スーは体が硬直する。


「はい!」


「それから?」


「え?」


「親密な男女は、愛を囁き合ったり、手を握りあったり」


「は、はい」


「熱烈な口付けを交わしたり」


 ルカのアイスブルーの瞳に自分の影が見える。体に回された腕の力強さに唐突に男性を意識した。スーは緊張のあまり怖気付いてしまう。


(ルカ様の責任感を甘く見ていたわ!)


 皇太子として必要であれば、彼は決して目を背けない。親密な男女を演じてくれるだろう。お色気作戦としては最高の成果を出しているが、いざとなるとスーは戸惑いで頭が飽和する。


(責任感につけこむなんて最低よ!)


 こみあげた罪悪感にひるみながら、スーは声を高くする。


「でも! それは例えばのお話で、わたしとルカ様は――」


 ルカの指先が言葉を封じるようにスーの唇に触れた。湖面を映しとったように揺れる青い瞳に囚われて、スーは湖底に引き込まれるように言葉を奪われる。


「私はーー」


 ルカの低い囁きが聞こえた。


「スー、あなたが愛しい」


 演技だとわかっていても途轍もない迫力だった。スーには太刀打ちできない色気がある。


 まるで恋人同士が睦み合うような甘い呼吸を感じる。スーはルカの腕の中で、偽りの情熱に翻弄されるように柔らかな激流に溺れた。痺れるような甘美なひととき。それは二度目の大人のキスだった。

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