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第1話 双腕重機大地に立つ 〜その3

長らくお待たせしてすみません。

ようやくツェリンナーナ島防衛戦の始まりです

今回で完結、としたかったんですが、いろいろ書き足しているうちに長くなってしまいました

よろしくお願いいたします

救出劇の翌朝、鏑木二尉たち救出組は自衛官が避難民たちより一足早く帰って来た。

帰ってくるなり報告を兼ねた作戦会議を隊長たちと開くことになった。無論俺たちも呼ばれた。

敵兵は概ね500人程、予想通りなら走竜は30騎程度、目視できたのは16騎。

こいつらの相手だけで弾薬が厳しい、と鏑木が言う。

問題の飛竜は、船に捕まってた村人たちの話からすると3騎だが、気になるのはその内の1騎は大きいように思うという話だ。

まさかとは思うが、それがドラゴンだとすると話が面倒になるらしい。イメージとしては飛竜が空飛ぶ軽装甲車なら、ドラゴンは空飛ぶ戦車だとか。


「こりゃあ、ヘリは出せねぇな。」ヘリコプター班班長の星名二尉が渋面を作る。

「ワイバーンもせいぜいヘリにとっては天敵なんだが、ドラゴンとなるとなぁ。」


「あれはバーンとかっていうのではないぞ、飛竜じゃっ。」というリョージャのツッコミをガン無視して星名は続ける。

「ワイバーンの装甲は12.7mmでなんとかなるかもって程度だが、あいつら魔法で防護してやがるし、ヘリも真っ青なぐれぇ異常に小回りが効く。ひらひらしやがってなかなか堕ちねぇ。ドラゴンとなると豆鉄砲程度にも効きゃしねぇだろうよ。」


「じゃから飛竜じゃっ。」


「ワイバーンが2匹とドラゴン1匹となるとチヌーク2機じゃあ、荷が重すぎらぁ。下手すりゃ2機とも落とされる。」


「もうええ。」口を尖らせて少し拗ねたリョージャさんは可愛い。


「とすると走竜とかいうのにも37式の5.56mmじゃ相手にならんてことかな。ファウストさんとかカール君でもあればなぁ。」と話を聞いていた政宗一尉が言う。


「アニメや漫画じゃあるめぇし。飛んだり走ったりしてる相手に対戦車ロケットなんか当たるもんじゃねぇぞ。」星名がにべもなく言う。


「やっぱ34式か携SAMが〜。」


「あのなぁ、無い物ねだりしても仕方ないだろう。そりゃあ、34式軽対戦車誘導弾とかありゃあな。」鏑木二尉は少しニヤリとする。「なぁに飛竜対策にちょっと考えてることがある。ドラゴンに通用するかはわかんないけどな。」


「はい、それ採用。」その場の全員が『出たよ、政宗一尉必殺丸投げ』と言う顔をする。


「内容ぐらい聞いてから言えよ。」鏑木はため息混じりにそう言って笑った。


◇◇◇

救出した人を乗せた貨客船はその足でツェリンナーペ島の人たちも拾って来たので、到着は夕方になった。

ツェリンナーモとツェリンナーペからも防衛戦に志願してくれる人が多くいたが、全員と言うわけにもいかないので、リョージャさんとヴィーネさんに人選を任せ、30人ほどの人に残ってもらうことになった。

ツェリンナーナ島からも戦いに参加しない人たちには貨客船に乗船して、大フォールラシータ島へ避難してもらうことになり、翌朝には出港して行った。


その間も作業は続く。

穴を掘り、櫓を組み、子供も通れないジャングルジムみたいなバリケードを作る。ひたすらその繰り返し。


時間の経つのは早いもので、そんなこんなで3日間なんかあっという間だった。


一ノ村は建物を移動して迷路を作って、そこかしこに嫌がらせのような仕掛けを施している。まずはここである程度の数を削る。

二ノ村の手前の渓谷にかけた橋は落とすわけにはいかないので、バリケードで通れないようにしている。代わりに見せかけの橋を架けてある。建物はそのままで、村全体を迷路化、要塞化しており、ここを主な決戦場としている。できればここで食い止めたい、と言うのが政宗隊の総意だ。

もしも二ノ村を突破された場合に備えて三ノ村も迷路化しているが、ここまで押し込まれる前に終わればいいな。


とか言って出来上がった砦を見回して感慨に耽っていたら、例によって背後から忍び寄った政宗タイチョーにヘッドロックをかまされた。ええ、ですから当たってますから。ふくよかなアレが顔に・・・。ありがとうございマス。

「アムロちゃ〜ん。」これ、あかんやつです。ムチャ振り確定です。「作戦会議するよ〜♪。」

なぜ楽しそうなんだ?


◇◇◇

三ノ村の村長の家が臨時の戦闘指揮所となった。その前のちょっとした広場にこの防衛戦に参加する全員が集っている。今防衛戦の陸戦隊総勢65名とヘリ班の10名だ。

この他にジェットフォイルの4名と巡視艇「みのお」の12名の自衛官がそれぞれ船上で待機している。


個人防衛火器(PDW)仕様の37式小銃が12丁、『みのお』備え付けとヘリ部隊のカービン仕様の37式が合計で9丁、SFP9拳銃が46丁、対物狙撃銃が2丁、12.7mm機銃がヘリ備え付けの分を含めて3丁。弾薬に至っては撃ち続ければものの15分もしないで底をつく。まあ、というわけで、1対1の火力では圧倒できるのは当然なんだが、圧倒的な数の不利と弾薬の不利があるわけだ。」と鏑木二尉が説明している。

「で、そこのところは知恵と勇気でカバーしようというわけだ。」

「まずは仕掛けた爆弾で龍母艦を沈める。奴らが停泊できるのは、この一ノ村に続くビーチがある湾内になる。小さい湾だし比較的浅い。竜を下ろすのにかなりビーチに近づくはずだ。なんなら切先が砂に突っ込んでもいいぐらいまで近づくだろうな。」


「そこをドカンと。で、同時に捕まってる人たちを助け出す。」と政宗が胸を張る。なぜ、そこで偉そうなんですか。なぜにウィンク。


そんな感じでブリーフィングは続いた。


そのうち、一ノ村で応戦していた6名がバイクでニノ村に戻った際に、砦内に入る時の事が問題になった。

橋を渡る際に架設のバリケードを開け、さらに橋を渡り切ったところの防護壁に設けたゲートも開ける必要があるのだが、それらを敵に突破されてしまうと、その先の誘い込み罠が意味をなさなくなる可能性が高いのだ。


バイクが無事に入場して、バリケードを閉め、ゲートを閉め、誘い込み罠の用意が完了するのまでのしばらくの間、時間稼ぎが必要となったというわけで、あれこれ案が出されるがどれも決定打となり得なかった。


ということでお人好しで有能な俺が手を挙げたというわけだ。

政宗一尉がニマニマしながら近づいてきたかと思ったら、思いっきり顔を胸に埋める形で抱きしめられた。当たってますというか・・・・。ありがとうございマス。



◇◇◇

そんなこんなでクムルの連中が2隻の船でやってきたのは予定日の午後、日もずいぶん高くなってからのことだった。予定通り竜母艦に仕掛けた爆弾が舵を効かなくして砂浜に突っ込ませた上で、船底に穴を開け座礁したように見せかけることに成功し、これまた予定通りに囚われていた人たちを助け出した。

慣れないフロッグメン装備で脱出を補佐したジェットフォイル班の海自の皆さんの奮闘をたたえたい。決して政宗タイチョーの手柄ではないことを言い添えておく。


そして話の冒頭の状況に至る、というワケだ。

俺が今操縦桿を握るのはH建機製の四脚双腕重機ZX2100だ。独立懸架の四つ脚クローラーで走行し、2本のマニピュレーターアームで、結構細かい作業ができる。旧型に比べて動作も素早くなり、伸ばし切ると12mもあるアームを振り回して解体作業するとこれまでより捗ることこの上ない。それに走行速度も最大時速45kmまで出せるようになった。電動車両なので作動音も静か。一応レンジエクステンダーも付いているので、非常時には発電も可能だ。

操縦席にはカモフラネットを掛けて外からは見えないようにしている。一応防弾仕様だが、狙い撃ちされては堪らないので、人が乗ってると思わせないようにしているのだ。

操縦席の上の前照灯をつけて四本の脚を最大値まで立てて両腕を広げている様は、知ってる俺たちからしてもかなり迫力のある姿である。初めてこれを見たものにはどう映っただろうか。

そんなことを思いながらも俺は操縦席でブルっていた。


相手から見えてなくても、相手がどう思っていようとも、それでも怖いものは怖いのだ。

例の決め台詞を言うように、とかタイチョーには言われたが、そんな余裕なんかあるもんか。


橋の入り口側で待機していた俺の方に、バイク4台が30騎の騎竜を引き連れて向かってくる。予定していた時間よりずいぶん早い。2人乗りの2台が先行して、その後を1人乗りの2台が追ってくる。

俺の横を後のバイク2台が駆け抜けていく直前に、俺は射出器のアンカーを適当に撃ち出す。アンカーが土煙を上げて地面をえぐりながら点々と転がっていく。


その様子を見て騎竜の動きが止まる。現れた見知らぬ怪物に遠巻きにしている。

それを見て、アンカーを巻き取りながら俺はじりじりとZX2100を後退させる。

そんな俺の上空を、スキャンイーグル無人機を追って2騎の飛竜が飛んで行く。


「ここでワイバーンを誘き出す。スキャンイーグルで誘い出して、ニノ村の上空をチヌーク2機に飛んでもらう。」と言った鏑木二尉の策が当たったようだ。


そのワイバーンこと飛竜に向かって、ニノ村で最も大きい30mの大木の上に作った物見台、というか例によって安室班が遊びのために作ったツリーハウスに、陣取っていたヴィーネさん以下弓名人の皆さん5名が、引き絞っていた矢をコンパウンドボウから一斉に放った。


そもそも矢ぐらいでは飛竜はびくともしないし、魔法でも保護されているので高を括っていたのだろう。なんなら当たってやるぐらいの勢いで、進路を変えることなく弓なりに飛んでくる矢に向かって行く。

そして竜騎士たちの想像だにしないことが起こった。矢が、正確には矢に括り付けられたものが爆発したのだ。少々の爆発なら平気な飛竜と竜騎士であったろうが、爆発したのがスタングレネード《閃光発音筒》だったのが勝手が違っていた。


とんでもない音量の爆音と、太陽がそこに現れたのかのような眩いばかりの閃光が、飛竜と竜騎士を襲ったのだ。それを合図とばかりに25mの即成の物見櫓に伏せていた百瑛三尉の対物ライフルが続け様に2発、火を吹く。

耳が聞こえなくなり、目が眩んだ2人の竜騎士は何が起こったかわからないままに、12.7mm弾に貫かれて息を引き取った。


飛竜の方はパニックになり、そのまま方向を見失ってきりもみしながら森に墜落した。朦々と土煙を上げて、幾本かなぎ倒しながら。

今頃待機していたプラトムの志願兵の皆さんが袋を被せに向かっているのだろう。

竜というのは馬と似ていて、どんなに暴れていても頭に袋を被せられると大人しくなってしまうらしい。


あと一騎残った大きい飛竜とやらが出てこなかったのが良かったのか悪かったのか、今の時点ではわからない。とりあえずは敵の秘蔵っ子であったはずの飛竜2騎を落とせたことを喜ぶべきなのだろう。だが、なんか胸騒ぎがするのだ。なぜだろうか。


そんなことを考えながら、ゆっくりと橋の上を竜たちを牽制しながら俺は村の方へと退いて行く。

脇を抜けようとした騎竜を腕でなぎ払う。ドシっと言う結構な音とともに、かなり重量感が腕に伝わる。その竜はよろめくと橋の欄干に打ち当たり、欄干を派手にひん曲げながらも落ちる事はなくその場に倒れた。乗ってた竜騎兵は勢い余って手綱を掴んだまま欄干の外に放り出され、どうにか落下を免れていると言った風である。


2騎ほどすり抜けようとした竜をそうして無力化したところ、敵も慎重になった。銃を撃ってきたりもしたが、こちらがびくともしないのを見て、弾の無駄遣いと思ったのかもう撃ってくる事はなかった。


睨み合いをしながらも俺はゆっくりと後退する。もう時間稼ぎは十分だろうか。汗で背中がぐっしょりと濡れている。


そんな睨み合いの中、俺の目にとんでもないものが飛び込んできた。

遠くからワーワー言う声が聞こえてきたなと思ったら、それが次第に近づいてきた。

そして前方の森の中からとんでもない多人数の兵士たちが、湧いて出てきたかのように飛び出してきたのだ。


「こちら安室、これまでだ。兵士多数が森を抜けて向かってきている。下がるぞっ。」

俺はそう言うと一気に加速して橋を渡りきり、脇に置いてあったバリケードを引っ張って橋の出口を塞ごうとする。突破しようとした1騎を腕で牽制してどうにかバリケードで出口を塞ぐと、開いたゲートに急いだ。



◇◇◇

話は前後する。

俺が孤軍奮闘しているよりしばらく前のことだ。

機帆装甲船フリゲートが二ノ村に対して砲撃を行うべく移動を開始した。


「面倒なのは機帆装甲船フリゲートの大砲だが、両舷で32門、最大射程が2,000m程度と考えられるので、三ノ村までは弾は届かないと思われる。だが、一ノ村は確実に射程内だろうから、せっかくの嫌がらせが大砲でやられては不本意だ。それに、ニノ村も船の位置どりによっては射程内に入る。そこで大砲の無力化、できれば船そのものも無力化したい。ここは『みのお』に頑張ってもらう。」


「水浸しにしてしまえば、大砲は撃てなくなるだろうってことです。」と三科が補足する。


3日前の作戦会議でのそんなやりとりを田村二等海上警備士は『みのお』の操舵室で思い返していた。

そもそも砲撃を受けずに接近できるものなのか、そんな田村の心配をよそに副長の一力二尉は鏑木から借りたM82対物ライフルにご満悦の様子だ。


「んじゃ、そろそろ配置に着きます。」と言うと足取り軽やかに一力は操舵室を後にした。

その後ろ姿を敬礼しながら見送りつつ、あれで口を開かなければなぁ、などと思う。これは何も田村だけではなく、この島に赴任した全員が思うことではあったが、誰1人それを口にするものがいないのも、これまた事実であった。


インカム越しの「配置に着いた。」と言う一力の言葉を合図に、田村がテキパキと指示を出す。

「両舷全速。おーもかーじ30」



巡視艇『みのお』は速力を増して島陰から出て、その視界に機帆装甲船(フリゲート)を捉える。距離は500mほど。互いにほぼ正面を向き合っている。

結構でかいな、全長100m超で9,000トンぐらいか、というのが田村の感想だ。


向こうからすれば、島陰から唐突に怪しげな真っ白な船が現れて自分の方に向かってきたのだから、そこそこ驚いているに違いない。

とはいえ、こちらの船はあちらの3分の1ほどの大きさなのだから、驚異と捉えてはいるかというと、それは違うように思えた。


 一力は操縦室の上の狭い上部デッキで伏せ撃ちの姿勢をとっていた。静かに息を吐きスコープの中を見つめる。狙うはマストと帆けた(ヤード)。それにしても舷墻が高い。2mはあるんじゃないだろうか。おかげで甲板上のものはほとんど見えない。

もう一度静かに息を吐くと、ゆっくりと絞るように引き金を引く。


「ドパンッッ」


轟音とともに撃ち出された12.7mm弾は、一力の狙いからはやや逸れたものの、一番前のフォアマストの物見台の見張り員の腰あたりを粉砕し、何本かのローブをぶった切り、メインマストの帆けた(ヤード)で止まった。落ちてきた見張りの2つに別れた遺体を見たものはゾッとしただろう。


「一本ぐらいマストが無くなっても航行はできるよな。」などと考えながら、一力は一番手前のマストの中央に狙いをつける。


「ドパンッッ」


命中したようだが、派手に破片が舞ったりはしなかった。いやむしろ穴が空いただけ。木にペンキでもを塗っているのかと思っていたのだが、どうやら金属を巻きつけているらしい。


流石に1発で破壊ってことにはならないよな、と改めてマストを撃ってみる。


「ドパンッッ」


やはり命中はしたものの、同じよう穴が空いただけでそれっきりだった。

12.7mmでマストを粉砕というのはどうも無理なようだ。


物見台に登ろうとしている水兵がいる。するすると滑るように登って行く。

思ったより早く昇るんだな、と感心しながらも狙いを定めて引き金を引く。


「ドパンッッ」


今度は頭を粉砕した。元は若者だったそれは力を失って落下する。

下では大騒ぎになっていることだろう。

次に目標を帆を張るロープに変える。


「ドパンッッ」


何本かロープが引きちぎられる。フォアマストの一番下の帆けた(ヤード)が 斜めにかしいだ。


こちらを狙おうとしているのだろう。機帆装甲船フリゲートは右へと舵を切って船の左側をこちらに向けようとしている。少し角度がついて砲列甲板の舷側砲の砲門がなんとか見える程度になってきた。


「まぁ、こんなところかな。」そう一力は独言るとちょうどカートリッジが空になったのでいったん銃撃をやめた。


『みのお』はその間もどんどん距離を詰めて行く。

「敵船に対して角度をとれ。真横に並ばない限りは攻撃されない。」田村の指示が飛ぶ。「おーもかーじ10」


距離はまだ300mはある。放水が届くまでまだ180m以上近付かないとならない。こちらはとっくにあちらさんの射程圏内だ。いくら旧式な大砲でも当たればこちらはただでは済まない、などと思いながら、田村は敵船との角度を気にしながらの操船を続けていた。


船首付近の甲板では、粟村三尉以下5名の自衛隊員がカービン仕様の37式小銃を手に、即席の防弾板の後ろで待機していた。


「速度では圧倒している。位置取りを気をつけて攻撃距離まで接近する。一力班においてはは援護射撃をよろしくお願いする。」


相変わらず田村さんは律儀だなぁ。艦長なんだから命令でいいのに、と思いながら一力は改めてスコープを覗く。

「粟村、敵船首付近で動きがある。牽制用意。」一呼吸置く。「始めッ。」


「ドパンッッ」

「タタタッ、タタタッ」


銃声が響く。

一力の放った12.7mm徹甲弾は 船首の他より装甲板が薄い舷墻、とは言っても20mm近くあるのだが、を撃ち抜いて、その後ろの水兵を屠った。

流石に5.56mm弾は装甲板を撃ちぬけはしなかったが、銃眼から跳弾として飛び込んで被害を与えていたようだった。


田村は機帆装甲船フリゲートとの距離を、そろそろ頃合いと見て指示を出した。

「放水塔伸ばせ〜ぃ。両舷半速。」


——————

かたや機帆装甲船フリゲートの方は大騒ぎになっていた。

物見係が2人も何か大砲のようなもので撃ち殺されたのだ。1人は腰を吹き飛ばされ上と下に分かれており、始末が大変だった。

そして、2人目は物見台に登った途端に頭を吹き飛ばされた。落ちて来た死体の首から上がさっぱり無くなっていた。


「落ち着け、早く死体を投棄しろ。」

副官は操舵室内で指示を出していた。

流石に2人も撃ち落とされたのではまた物見に上がれとは言えなかった。どうも見ても無駄に死体を増やすだけだったからだ。

「急ぎ角度をとれ。左舷で戦をする。右旋回20急げ。」


ところが左舷の16門の大砲で戦おうと角度を取ろうにも、敵の白い船の方が圧倒的に速度が速く、射角内に捉えることが出来ない。

そして、不気味なほどまでに近づいて来る。既に200mほどまで近づいて来た。


銃で牽制しようと船首近くの銃眼に人を配置したら、事もあろうに件の大砲で船縁の装甲ごと撃ち抜いてきた。さらには口径は小さいが射程の長い銃で牽制もしてきやがった。その跳弾で何人かがやられてしまった。

極めて厄介な相手だ。


「どこの国の奴らだ。西大陸に現れたとかいう帝国なのか?。」


白い船は目と鼻の先と言っていい距離に詰めてきた。ただわからないのはこの距離になっても大砲を撃ってくるそぶりがないのだ。

これほどの速度差と、人を狙えるほどの正確な砲撃ができるのであれば、もっと大きな大砲を撃ってきてもおかしくないのだが。


「あの赤いのは大砲ではないのか?。」


副官がそう訝った途端のことだった。操舵室の視界が無くなった。


——————

「泡消火液、放水始めッ。」田村艦長はここが頃合いと見て伸ばした放水塔の2つの放水銃からの放水を命じた。


改造された放水塔の放水銃は毎分5,000リットルの勢いで泡消火液を上部甲板の操舵室付近に向けて噴出する。

この泡消化液もかつてのとは違って、粘性が高くなっており火災そのものに対しても止まることで消化を促進するとともに、周囲に付着して延焼を防ぐ役割もある。

これが大量に操舵室周辺を覆って視界を遮ったのである。


やや遅れてに船首と操舵室上の放水銃が、砲甲板の開いた砲門に向けて大量の水を撃ち込む。こちらも改造されており、船首のは毎分7,000リットル、操舵室上のは毎分3,000リットルの放水を行う。


上部デッキを泡まみれにした放水塔をもとの高さに縮めると、今度は砲甲板に向けて放水を始めた。


合計で毎分20,000リットル、20トンもの水が砲甲板を蹂躙していく。

大砲を撃つために待機していた100人ほどの砲手たちは水の勢いに耐え切れず、吹っ飛ばされてしまう。気を失う者や、怪我を負う者が後を絶たない。

大砲を撃とうにも、着火装置がずぶ濡れになって使い物にならない。そればかりか、水の勢いで台車が壊された砲台もあり、数分のうちにほぼほぼ砲甲板は用をなさなくなった。


さらに水は下の階にも流れ込み、流石にまずいと判断したのか機帆装甲船フリゲートは反転して逃げを打とうとし始める。

その左舷に張り付いて『みのお』は放水を浴びせ続けた。


しばらくそうしているところに、ヘリ班の茂木三尉から通信が入った。

「ドラゴンらしいのがそっちに向かった。当機が囮になるので退避されたし。」


もう少し機帆装甲船フリゲートをいじめておきたかったが、田村は『みのお』を反転させ島の背後へと舳先を向けることにした。

その耳には聞き慣れない甲高い雄叫びが聞こえてきた。


田村は声の主を認めて目を見開いた。

そこにはメタリックな青灰色の1匹の竜が、凄まじい勢いで自分たちに向かって来ていたのである。


「両舷全速。ケツまくって逃げるぞ。」


そこに一力が戻って来た。

「自衛噴霧をしよう。目眩しにはなるだろう。」M82対物ライフルを自席の背に付けた臨時ラックに固定する。「それと、粉末消化器を何時でも噴霧できるようにしてくれ。」



CH-47が三ノ村方向から、島と『みのお』の中間あたりまで全速で飛んで来ると、ホバリングしてコクピット直後の左側面のドアガンを青いドラゴンに向ける。


パイロットの茂木三尉がガンナーに声を掛ける。「森友、まだ距離がある。1,600で射撃開始だ。単発でじっくり狙って行け。」

声をかけられたガンナーの森友曹長はバイザーに映し出される光学照準器からの照準越しに目標のドラゴンを睨みながら、的はでかいので問題ないな、と考えていた。


M2機関銃の2038年度からの改良型である本機は、レーザー、赤外線、可視光の複合光学照準器とヘッドマウントディスプレイによるAR表示による照準が標準装備となった。そのためより狙撃に適した機関銃となった。


森友は引き金を操作して、セミオートの様に1発ずつドラゴンに向けて弾を撃ち出す。

案の定、戦車並みと言われるドラゴンの上皮に阻まれ、全くと言って手応えがない。騎兵を狙ってみたが、巧みに翼や胴体の傾きと魔法障壁らしいもので防御され、どうにも要を得ない。

今度は3連バーストでドラゴンの頭部に弾を集中することに策を変えることにした。


ドラゴンは標的を『みのお』に定めたと見えて、一向に茂木のCH-47の方には向かってこない。茂木が焦りを感じ始めた時、それまで30ノット近い速度で逃げていた『みのお』が、頭部への集中砲火でドラゴンが怯んだ隙に、方向を転換してドラゴンに船首を向けたのだ。


「おい、何を・・・。」茂木はその様子を見守るしかない自分に歯噛みした。



◇◇◇

「ドラゴンが出た。」


その知らせに戦闘指揮所は色めきだった。

「ブ、ブルゥドラゴンっ。」オブザーバーとして指揮所に入っていたシルビスのカーチャがモニターを見て絶句する。


「厄介なのかい?。」政宗の質問にカーチャは小さく2度頷く。


「特に攻撃的で、ドラゴンの中でも皮膚は最も硬く、力も魔力も強い。これは多分まだ子供だが、成体になるとこの倍ぐらいの大きさになる。良く手懐くたものだ。」


「対策は?。」


「・・・・特には。」難しい顔で考え込みながらカーチャはゆっくりと口を開く。「ただ、元々は気性が荒い性格で、激しやすい。そこを上手く利用すれば、敵の思うように操つることは妨げられよう。」


「要は怒らせろと。」


「そうなるな。」


「で、そのあとは?。」


「どうなるか判らぬ。とにかく暴れるであろうな。」


「それあんまり嬉しくない。」

そんな会話を断ち切るように二ノ村から連絡が入った。

「こちら鏑木。ゲートを突破されそうだ。アムロと宗像が奮闘しているが、時間の問題だ。」


「嫌な時に嫌なことは重なるものなんだなぁ。」

政宗は天を仰いだ。


さて、タイトルの双腕重機がほとんど出てこないじゃないか、とお叱りを受けそうですが

次話ではもう少し活躍する予定です

完結までお付き合いいただけますと嬉しいです

よろしくお願いいたします

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