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たとえば、僕たちが  作者: 滝沢美月
second half
24/28

24.気になる? 知りたい? side優



 何杯目になるかわからないビールを飲んだ時、数人の男の子が私のいるテーブルにやってきた。その中の一人は顔を見たことがある気がする。たぶん、同じ学科なのだろう。


「ねーねー、君島さん、一人なら一緒に飲もうよ」

「俺、理学部の有野って言いますっ」

「わぁ~、近くで見ると一層美人ですね~」

「あっ、ビール、どぞどぞ」


 隣に座った子が私の空のグラスに気づいてビールを注ごうとしたんだけど。


「はーい、ストップぅ~」


 そう言ってビール瓶を取り上げたのは理緒ちゃんだった。

 私の向かいの席に座った男子二人の間に浪江先輩が割り込んで座り、男子二人の肩を抱いてにんまりと微笑む。


「お前らがユーちゃんと飲もうだなんて万年はやいんだよぉ~」


 笑顔ですごいむちゃくちゃなこと言っている浪江先輩を見て、瞬きする。


「それじゃあ、俺達生きてないですよぉ……」


 苦笑まじりに男子が言った言葉を理緒ちゃんが一蹴する。


「ほら、散った散った」

「酒井、ひでぇ……、害虫みたいな目で見るなよ」

「あんたらより害虫の方がましよ、害虫に謝んなさいっ」


 無表情で言い切った理緒ちゃんに、男子達は慌てて席を移動していく。

 空いた隣の席に座った理緒ちゃんは、私の腕にぎゅっと抱き着いてさっきのセリフを言った時とは打って変わって可愛い声で言う。


「ユーちゃん、一人にしてごめんねぇ~」


 向かいに視線を向けると、浪江先輩はあいかわらずにやにやした表情をして私を見てるから、ちょっと居心地悪い。

 視線の端に、美人な女性と隣り合って座っている山科先輩の姿が映って、慌てて視線をそらす。

 ついさっきまで私の隣に座っていた山科先輩は、訳ありそうな女性の登場に、その人と二人でお座敷の隅の席に移動してしまった。っと言っても、ちょうど私の座っている席の斜め向かえで視界の端に見えてしまうから困る。二人の姿を見ると、胸の奥がむずむずする。

 山科先輩にまりなと呼ばれていた女性は酔っぱらっているのか、頬をほんのりと染めて、夜空のような大きな瞳には涙をためて山科先輩にシャツの裾を掴んで、息も触れそうな距離でずっとなにか深刻そうな話をしている。


「気になる?」


 視線をそらしたのに、つい山科先輩の方を見てしまっていたら、真面目な表情で浪江先輩に聞かれて、どきんっとする。


「えっ……?」

「山科のこと気になるって顔してるよ、ユーちゃん」


 浪江先輩とはあんまり話したことないけど、山科先輩といつも一緒にいて仲がいいことは知っている。理緒ちゃんともすごく仲良いみたいで、“ユーちゃん”と呼ぶのは理緒ちゃんのがうつっちゃったのだろう。


「番犬が主人の側離れちゃ、意味ねーし……」

「えっ?」


 頬杖をついてボソッと漏らした浪江先輩の言葉はよく聞こえなくて聞き返したのだけど、にっこり笑って誤魔化されてしまった。


「小原先輩って、山科先輩にべったりですよね~。他の人と話してるとこ見たことない気がするぅ~。あの二人ってなんなんですかぁ?」

「知りたい――?」


 尋ねてのは理緒ちゃんなのに、浪江先輩は薄茶色の瞳に、一瞬鮮やかな光を宿して、私をまっすぐに見ていた。

 気になるは気になるけど、知りたいかって言われると……

 知りたいような知りたくないようなはっきりしない気持ちに戸惑う。

 なんて答えたらいいかわかならくて黙っていたら、浪江先輩は答えないことが答えだったように口元に意味深な笑みを浮かべた。


「小原 まりな、文学部三年。軽音部所属だけど、小原のメンバーは小原以外四年で去年引退して今年は活動していない。まあ、俺達もこの大祭で引退ってことになるしな、まあ、グループによっては四年でも活動するけど」


 そこまで言って、ちらっと後方の山科先輩に視線を向ける浪江先輩。


「で、小原は山科の中学時代の元カノ。高校は別々だったけど大学で再会。俺は山科と高校からのつきあいだけど、中学時代を知ってるやつによると、別れた後も小原が未練たらたらでああやってなにかにつけて山科に泣きつくんだと。山科は山科で優しいからなぁ、それを放っておけないってわけ」

「優しさが優しさにならない時があるって、山科先輩は知らないんですかねぇ~? ずるずる関係を引きずるのは小原先輩のためにもならないのにぃ~」


 ちょっと酔った口調でぼそりと吐き出した理緒ちゃんの言葉も、私は右から左に流れていってしまった。

 山科先輩の元カノ……

 元カノっていうくらいだから今は付き合っていないのだろうけど、昔の関係と言い切るには親密すぎる二人の様子が目に痛い。

 それだけではないようなただならぬ雰囲気に、私はぎゅっと唇を噛みしめた。

 結局、今回も禁酒宣言は意味なく、酔っぱらいの理緒ちゃんと一緒に飲み比べをしたりして、打ち上げが終わる頃にはほろ酔い状態の私。

 まあ、今日はさきにしっかり料理で意を満たしていたから酔いはそんなに回ってないけど。

 居酒屋を出てすっかり闇に包まれた道路で、二次会にいこうと言う理緒ちゃんに腕を掴まれていた私は、二次会に行く集団からひっそりと抜け出した、山科先輩とまりなさんの後姿が、ずっと頭から離れなかった――




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