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たとえば、僕たちが  作者: 滝沢美月
second half
23/28

23.苦しくて切なくて side優



 がやがやと賑わう居酒屋の大きく仕切った座敷で、私はちょっと孤独を感じていた。

 理緒ちゃんに誘われて軽音部の大祭打ち上げに参加させてもらったんだけど、軽音部の部外者は私だけ……



  ※



 美笛ちゃんと食堂にいる時、理緒ちゃんからラインのメッセージが届いた。


『浪江先輩がユーちゃんと美笛ちゃんも大祭の打ち上げにおいでってよ~。来れるよね?』


 山科先輩に告白されて断ったことを伝えていなかったから、美笛ちゃんは私の返事を聞く前に行くのを決定事項にして理緒ちゃんに行くって返事をしたんだけど、よく考えてみたら、あの時の美笛ちゃんは『そんなユタカに招待状』って言ってたことを思い出す。

 待ち合わせ場所までは一緒にいたから美笛ちゃんも参加するんだと思っていたのに。

 みんな揃ってさあ行こうってなったら、「私はバイトだから」って帰っちゃうなんて。

 美笛ちゃんの裏切り者ぉ~~

 私はがっしり理緒ちゃんに腕を組まれて、私も帰るなんて言うタイミングがなかった。



  ※



 はぁー……

 内心、複雑な気分でため息をつく。

 打ち上げをする居酒屋さんまではがっちり腕を掴んで離さなかった理緒ちゃんは、お店に着くなりどっかいっちゃうし、ちょっと疎外感。

 まあ、軽音部の人はみんな優しくしてくれるから居づらくはないんだけど、みんな仲間内でわいわい盛り上がっているから、私は一人ぽつんと座って料理を食べている。

 料理よりもお酒メインで立ち歩いては注いで飲んだりしているから、テーブルの上の料理はほとんど減っていない。

 黙々と食べていたら、グラスを持った山科先輩が顔を覗き込むようにして現れた。


「優さん」

「山科先輩……」


 顔を見ただけなのに、心臓がうるさく鳴りはじめて、焦ってしまう。

 私が座っているテーブルに座っていた人達はみんな移動してしまってて、空いていた私の席に座った山科先輩は、うっとりしてしまうくらい綺麗な微笑を浮かべた。


「優さん、グラス空だけどなにか飲む?」


 尋ねながら、テーブルの中央に置いてある空いていない瓶ビールを取ろうとした山科先輩を止める。


「いえ、お酒は今日はやめておきます」

「じゃあ、ウーロン茶でいい?」


 私のほとんど意味をなさない禁酒発言を覚えていたのか、瞳を甘やかに細めてくすっと笑って、隣のテーブルからウーロン茶のピッチャーをとってグラスに注いでくれた。


「ありがとうございます」

「浪江が無理やり誘ったみたいで悪かったね」

「いえ、誘っていただけて嬉しいです。でも、部外者が参加していいんですか?」


 そう尋ねたら、なぜだかぷっと噴き出されてしまった。

 山科先輩は瞳を細めて、口元に手をあてて、ちょっと横を向く。


「あはは、ごめん、笑ったりして……、その言葉、前にも聞いたから」


 言いながら、瞳に涙をためて笑う表情すら艶やかでどぎまぎしてしまう。


「ぜんぜん、大丈夫だよ。うちの部のやつらは基本大勢でわいわい騒ぐのが好きだから、優さんも大歓迎」


 にっこり優しい笑みを浮かべる山科先輩をついまじまじと見つめてしまう。

 どんな顔して会えばいいとか、山科先輩はもう私に話しかけてくれないんじゃないかとかぐるぐる思い悩んでいたのに、呆気にとられてしまうくらい山科先輩が普通に接してくれるから、胸の奥が熱くなる。


「どうしたの、優さん?」


 不思議そうに首を傾げた山科先輩は、なにかに思いついたように、困ったような複雑な表情を浮かべる。


「もしかして、俺、話しかけない方がよかった?」


 悲しそうに眉尻を下げて斜めに視線を落とすから、慌てて首を横に振る。


「そんなことないですっ、理緒ちゃんはどこか行っちゃうし、一人でちょっと退屈だったんです。だから山科先輩が話しかけてくれてすごく嬉しいですっ」


 本当のことを言っただけなのに、山科先輩は漆黒の綺麗な瞳を大きく見開いて、それからうっとりするような微笑を浮かべた。


「ありがとう」


 はにかんで、嬉しそうににこにこ笑っている山科先輩の隣にいるのは、なんだかくすぐったい気持ちになる。


「あのっ」


 大祭のステージお疲れさまでした。山科先輩の歌声、とても綺麗で好きです――

 そう言おうとした時。


「佑真っ――」


 しっとりとした女性の声に振り返ると、入り口にさらさらの黒髪を背中に流した女性が立っていた。


「まりなっ……」


 山科先輩は掠れた小さな声で呟く。その声がなんだか切なげで胸が締めつけられる。


「佑真っ、聞いてよ……」


 泣きそうな声でもう一度山科先輩の名を呼んだまりなさんは、山科先輩に近づいてくる。

 山科先輩は慌てて立ち上がり、いまにも泣き崩れそうなまりなさんに駆け寄った。

 まりなさんは山科先輩に何か言って胸に泣きつき、山科先輩はそれを慰めるように肩を優しく撫でて、隅の方の席にまりなさんを連れて行った。

 その間、山科先輩は一度もこちらを見なかった。

 ぽつんとテーブルに一人になってしまった私。

 息が止まりそうに苦しくて、切ない気持ちで胸がずきんと痛む。

 そのぐちゃぐちゃした気持ちを誤魔化すように、瓶ビールに手を伸ばし手酌でグラスに注いだ私は、一気にあおった。




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