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夏は輝く  作者: 高乃優雨
第一章 烏合の集
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「可愛くないやつ」

つい先日、僕が住む街では初雪が観測されました。

お恥ずかしながら、興奮してしまいました。

幾つになっても雪はテンションが上がるものですね。

 いざマウンドに立つと足がすくむ。改めて帰って来たのだと実感させられる。


 後ろから「打たせてけ!」と林の声が聞こえてくる。

 どの口が言ってんだよ。

 邪念を振り払うように、何度も深呼吸を行う。

 前を向くと相手打者が鋭い目つきで凛太朗を睨みつけている。

 つい女子だという事を忘れてしまう。


「ふぅ」


 身体中にある酸素を全て吐き出すくらいの勢いで、息を吐き出して大きく振りかぶり、ゆったりと足を上げる。

 そして、村上のミット目がけて思いっきり腕を振る。


 相手の打者はピクリとも動かなかった。

 グラウンドは一瞬の静寂に包まれる。


「スピードの割に凄い音だったよね」


 女子ベンチで誰かが呟く。


「しかも、あの人のフォーム真帆にそっくりだよ」


 ポツリポツリと声が聞こえ、相手のベンチがざわつきだす。

 村上のミットからとても大きくて綺麗な音が鳴ったからか、それとも凛太朗の球速からは、考えられないような音だったからだろうか。

 打席に立つ女子も表情こそ変えないが、一度打席から離れて屈伸を行う。今日の試合で初めてみる光景だった。

 しかし、ストレートしか投げない凛太朗のボールに、相手のバットが一度も当たる事はなかった。

 三振に倒れた女子はベンチに戻る際に、何度も首を傾げていた。

 その後の打者も凛太朗は難なく三振に抑える。


 楽しい。もっと投げたい。もっとーーもっと。

 こんな風に思えたのは、いつぶりだろうか。


 緩んだ頬を見られるのが嫌で、少しだけグローブで口元を隠す。

 ボールを握る指先が熱い。まるで血が沸騰してるみたいだ。

 打席に入る打者を見つめる。西野真帆だ。

 他の女子部員と比べると華奢なのに、逞しさは誰にも負けていない。


 こいつだけには打たれたくない。負けたくない。

 なぜ、こんなにも強く思うのかは自分でも分からない。けど、西野を目の前にすると全身に力が入り、胸の鼓動が大きくなる。


 真帆は一球目からバットを振るが、ボールは村上のミットに収まる。

 それでも二球目、三球目、と真帆はストレートに対応し、バットに当ててみせた。

 徐々に真帆も凛太朗のボールに対してタイミングが合ってきて、鋭い当たりも増えてくる。

 何十球と投げれば、当然だろう。


「ほんと可愛くねぇやつ」


 凛太朗はユニホームで頬をつたう汗を拭き取る。

 たった1イニング投げるだけで肩や足が重い。今までろくに運動をしてこなかったツケが回ってきたのだ。

 小さな白球を握りしめる。これが全力で投げられる最後の一球だ。

 この一球で打ち取れないのであれば、間違いなく打たれる。


 ゆったりと足を上げて指からボールが離れるその瞬間まで、指先に力を込めた。




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