兄さんねずみの入学
冬の童話祭「きらきら」参加作品です。
ねずみの兄さんが、大きな学校へ通うことになりました。
みんなたくさんお祝いをしましたが、心がどこかぽっかり空いたような気がしていました。
学校は、巣穴から遠いところにあったのです。一度入学してしまえば、次に会うのはずっと先でしょう。
兄さんが出発する前日の夜、母さんは腕によりをかけて豪華なご飯を作りました。サラダ、パン、ハンバーグ、それにケーキまで。いつもの食事とは大違いです。食卓を囲んで、みんなで味わいました。
兄さんが皿洗いまで手伝ってくれたので、母さんは思わず泣いてしまいました。子供の成長に感動したのです。
夕飯が終わると、父さんは兄さんを自分の部屋に呼びました。
「我が家に伝わる宝石だ。大事にするんだよ」
受け取ったのは、きらきらと紅く輝く綺麗な宝石でした。嬉しくて、兄さんは思わず飛び上がりました。
それから、学校に持っていく荷物にそうっと入れました。
妹は、笑顔で兄さんに手紙を渡しました。覚えたての文字で、手紙を書いたのです。
「お兄ちゃん、手紙を読むのは、向こうについてからね!」
妹はそう、笑顔で言いました。
次の朝、兄さんは朝早い電車に乗って出掛けてゆきました。
学校では、すてきな仲間たちに出会いました。優しい子、賢い子、面白い子。
しかし、兄さんはどこか、寂しかったのです。
「家に、帰りたいなぁ」
ある日、兄さんはルームメイトにそう言いました。ルームメイトは悲しげに、耳をぴくりとさせました。
荷物を片付けていた兄さんは、宝物を手に取りました。それは、紅い宝石、そして手紙でした。
宝石は、変わらずすてきに輝いていました。「大事にするんだよ」そうほほえみかけた父さんの顔がよみがえりました。思わず、顔がほころびます。
手紙をそっとひらいたとき、兄さんの目から涙がこぼれ落ちました。嬉しくて、笑いたいのに泣けない。変わった気持ちでした。
手紙には、妹からの前向きな言葉が綴られていました。それを読むたび思い出します――家を発つ前に囲んだ、団らんを、妹の笑顔を。
宝石と手紙をしまい、兄さんは立ち上がりました。
ルームメイトに、笑顔でこう告げます。
「ぼく、これからも頑張るよ」
その顔は、いつよりもきらきらと輝いていました。




