銀河鍋戦記 ~ 令嬢ヒトミの鍋革命
『銀河鍋戦記:令嬢ヒトミの鍋革命』
宇宙歴5021年、カニ座銀河――そこは、貴族の没落と魚介の混乱が渦巻く、甲殻類無法地帯。
「まったく、どうして私は、こんな鍋の底みたいな星にいるのかしら……!」
ヒトミ・フォン・アカサカ。
元・銀河王朝の名門貴族、そして――“悪役令嬢”として名を馳せ、政略結婚とスキャンダルで宇宙中から追放された女。
しかし彼女は、敗北とともに得た。
それは、料理という名の“力”。
「上流階級に戻る気はないわ。でも、この私の鍋で、宇宙を“まとめ”てみせるのよ。」
彼女は全銀河を旅し、魚介と鍋の秘伝を集める料理人となった。
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ある日、ヒトミが降り立ったのは、暴走する蟹たちが支配する惑星“クラブ・オメガ”。
この星では、カニだけが“貴族”。
その他の魚介類たちは蟹に抑圧され、鍋の具材どころか、調味料としてすら扱われないという理不尽な世界だった。
「我らカニこそが、至高の素材なのだ! 鍋の主役は我らのみ!」
そう豪語するのは、甲冑をまとった蟹王ガニエル13世。
魚介同士の対立を煽り、銀河の鍋バランスを破壊し続けていた。
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ヒトミは静かに割烹着に袖を通した。
「蟹が偉いんじゃないの。“まとめる”蟹が偉いのよ。」
彼女は調理場に立ち、バランスと調和を極めた宇宙料理――銀河統一蟹鍋を完成させる。
その鍋は、エビの甘みと、ホタテの旨味と、アサリの出汁を蟹が完璧に統括する、奇跡の融合体。
ヒトミはそれを、ガニエル13世の眼前に差し出した。
「さあ、食べなさい。あなたが知らなかった“真の主役”を教えてあげる。」
ガニエルが一口啜ると――その甲殻がガタガタと震えた。
「こ、これは……! 我が殻を越える……殻を超えた……魂の鍋……ッ!!」
蟹王は泣き崩れた。
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その瞬間、クラブ・オメガに平和が訪れた。
魚介たちは対立をやめ、互いの旨味を認め合った。
ヒトミは鍋の前で立ち上がり、冷たくも美しく言い放つ。
「**蟹こそが魚介類をまとめる。**でも、それを“支配”と履き違えたら、ただの茹でガニよ。」
誰よりも強く、優しく、そして美味しく。
かつて悪役と呼ばれた令嬢は、今日も鍋で銀河を救う。
(了)




