たぶん日本最初のボディビルダー
調べものはいつもどおりWikipediaさんで。
ボディビルダー。
ボディをビルドする人。
ビルドっていったら、建設とかそっちの方の意味なので、直訳すると身体を造る人、でしょうか。
Wikipediaさんには、肉体的強さではなく、あくまで外見が重要である。
競技に参加するボディビルダーたちは、体躯の調和・均整美、筋骨の強壮さ、筋肉の大きさ、体調を競い、舞台に立つにあたって格付け審査員に向けて構えをきめる。
などとあります。
さて、日本神話にボディビルダーなんているのです? と、首をかしげた方、間違ってはいませんよ。
その話をする前に、ちょっと前提条件を。
この作品でも結構出てくる、舞姫 アメノウズメ ことウズメさんの語源は、オズメ(強い女)ともいわれています。
……強い……舞姫……。
蝶のように舞い蜂のように刺す。というイメージよりも、力強く刀を振るう演舞……なのかもしれない……と考えた場合。
ウズメさんのイメージは、武力に秀でる男勝りな強い女性。となるかもしれませんね?
さて、本題。というか小話。
やむにやまれず嫁さんを斬り殺した イザナギ (注1)ですが、なにも、嫁さんが憎くてぶっ○したわけじゃあありません。
なので、根の国(黄泉の国)に旅立った嫁さんを連れ戻すべく、向こうに潜入します。
『こちらス○ーク、潜入した。指示を』
返事など、あるわけないですね。
嫁さんラブ。それだけで単身黄泉の国に潜入したのですから。
さてさて、潜入した以上は、こっそり見つからないように愛する嫁さんを探します。
そして、ついに、小ぶりな建物内部に嫁さんらしき存在を感知。扉の向こうからそっと声をかけます。
「嫁さん、嫁さん、オレだオレオレ。イザナギだ。お前の旦那のイザナギだ。声を聞かせておくれ」
『……私を斬り殺した男のことなど、知りません……』
ややもすると聞き逃してしまいそうなほど弱々しい返事は、しかし、確かに愛する嫁さんのものです。
「嫁さん、許しておくれ。謝るから。あれは間違いだ。お前を助けるために、仕方なかったんだ。失敗してしまったが、お前のことを愛してるんだ。本当だよ。さあ、戻ろう。高天原に戻って一緒にやり直そう」
愛する嫁さんに必死に呼び掛けるイザナギ。
斬り殺されてしまったイザナミは、しばらく考えた上で返事します。
『……分かりました。そこまでいうなら、私を連れてここから出る手助けをしてください』
「ああ、ああ、きみを連れ戻すためなら、なんでもするよ」
『……では、しばらくの間、そこでお待ちを。……その間、決してこちらを覗いてはいけませんよ?』
「……? 分かった、待つよ。いつまでもきみのことを待つよ」
……とはいえ、待てど暮らせど、横たわっていると思わしき扉の向こうの嫁さんの気配は、一向に動く様子がありません。
待って、待って、待ち続けて、とうとう我慢ならなくなった イザナギ は、嫁さんの言いつけを守ることができずに扉をこじ開けてしまいます。
イザナギの神力をもってすれば、ちょちょいのちょいです。
建物の中には、気配どおり布団に横たわる、愛する嫁さんの存在が。
その周辺には、炎雷神とよばれる、炎と雷を身にまとった邪神が……えーと、八体ほど。
その、炎と雷が生み出す明かりによって照らし出された嫁さんの顔は……。
……なんとも、大変なことになっていました。
しっかりしているようでわりとパニクりやすい イザナギ 、つい悲鳴を上げて逃げ出してしまいます。
見るなっつったのに見られて、悲鳴まで上げられ、とうとうブチキレた イザナミ 、こうなったら直接お仕置きしてやると、黄泉醜女にアホな旦那を捕らえよと命令します。その際は、生死問わずで。
黄泉醜女とは、黄泉の国の兵士たる黄泉戦をまとめる上官になります。
醜女、というからには、ぶちゃいくな女性と想像しがちですが、ちょっと冒頭を思い出してみてください。
強い女性もまた、醜女と呼ばれるのです。
……つまり、ムキムキマッチョな巨漢……ではなく、女性? が、黄泉の軍勢たるヨモツイクサ (とてもたくさん)を率いて迫ってくるのです。
その、地獄のような光景……黄泉の国っていったら、地獄のようなものですが……に、パニクりやすい イザナギ は、より一層必死になって逃げます。
ブチキレた嫁さんも怖いものの、ムキムキマッチョな巨漢(女性?)とそれに続く黄泉の軍勢はもっと怖い。
なにあれ? 服装とか顔立ちとかどう見ても女性っぽいのに、なんであんな、豪傑も真っ青な巨体でムキムキマッチョなのっ!?
あんなんに捕まったら、嫁さんからお仕置きされる前に、ついうっかりぶっ○されそうなんですけどっ!?
そんな、めっちゃ恐ろしいムキムキマッチョが手にした槍が投げられると、恐ろしい勢いで飛来して来ます。
なんとか回避成功しますが、腰の袋を破られてしまいます。そこからこぼれた、携帯食料の干しブドウに群がる黄泉醜女に、(……甘いものに目がないとか……。やっぱ女子?)とか考えちゃう イザナギ 。
結局それが、功を奏して逃げ切れたりするのですが……。
(注2)
現世と根の国を隔てる千曳の岩で黄泉比良坂への道に封をした イザナギ は、岩を背にホッと一息。
しかし、二度も裏切られ、可愛さ余って憎さ百倍な イザナミ は、悔しくてたまりません。
『……悔しい。あまりにも。……こうなれば、キサマは殺せずとも、キサマの民を1日1000人呪い殺してやる……』
「ならば、私は1日1500人の民を産み出して、その呪いに打ち勝ってみせよう」
……だいたいのことは イザナギ のせいなのに、 イザナミ のこと挑発したりするから、これによって寿命という概念が生まれて人が毎日死ぬようになったとかいわれちゃうのでございます。
だいたいのことは、 オレ が悪いんだけどね? 分かってるよ?
でも、嫁さんラブでやむにやまれず斬ったのは本当よ?
斬らなかったら、母子ともに死んでたと思うし。
……あ、嫁さんの顔についビックリして悲鳴上げて逃げちゃったけど、憤怒の形相で追っかけてくる嫁さんより、ムキムキマッチョな黄泉の軍勢どもの方が怖かったなぁ……。
と、いうのが、イザナギ の主張でございました。
その後、嫁さんへの未練と黄泉の国の死の気配を断ち切るべく執り行った禊により、三貴人とよばれる、アマテラス、ツクヨミ、スサノオを始めとした数々の神が産み出されることになったものの、それはまた別のお話。
(注1) : 本作『外科手術』参照。
(注2) : 現世と黄泉の国との境目にある狭間の空間に、間を取り持つという権能をもった神、 ククリヒメ がいて、後に、 ククリヒメ が執り成して イザナギ と イザナミ は仲直りまたは復縁したという話もあります。
文献によっては、狭間の神は描写されていないともいわれていますが。




