夏休み約束編⑪~田中先生の理解~
ご興味を持っていただきありがとうございます。
9月12日に書籍第一巻が発売になります。
タイトルを改名して【ネトゲ廃人の異世界転生記】となっております。
よろしくお願いします。
田中先生が体を起こして、肩周りの筋肉をほぐすようにストレッチを行う。
その作業中に、何気なく俺へ言葉を投げかけてきた。
「佐藤くんと黒騎士さんの関係を教えてもらえる?」
「黒騎士は俺ですよ。どこでわかりました?」
「さっきの会話。魔力を放出って炎の塊のことでしょ。そんなことできるのは世界中で黒騎士だけよ」
「それで、どうしますか? 世間にばらしますか?」
田中先生はクスっと笑ってから、また寝るように横になった。
「誰にも言わないわよ。なんだかスッキリしたから寝るわ」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
「おやすみ……夏美はもっと強くなれる?」
田中先生は俺へ後ろ姿を向けており、表情を見ることはできない。
ただ、声のトーンから真剣に聞いてきていることはわかるので、本音で答える。
「このまま俺についてきてくれれば、必ず強くなります」
「あの子をお願いね」
「はい」
俺の返事を聞いた田中先生は安心するようにまた眠り始めていた。
夏の日差しから木々が守ってくれており、心地よい風を感じる。
久しぶりにこんなゆっくりとした時間を過ごすので、全身で自然を感じることにした。
目を閉じていたら俺も緊張がほぐれて、意識を失った。
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「終わったよ!!」
夏美ちゃんの大きな声とともに意識が呼び起される。
慌てて起きたら、顔色が良くなった田中先生が笑っていた。
もう空がオレンジ色に染まっており、夕方になっている。
夕日を背にしながら、夏美ちゃんが腰に手を当てて俺を見下ろしていた。
「信じられない……彼女が頑張って走っているのに、熟睡していたわけ!?」
「できるって信用していたから、待っていたんだよ。終わったでしょ?」
「もちろん終わったよ……」
終わったという夏美ちゃんの手には、その証拠に金色のリングが握られていた。
直前まで怒っていた夏美ちゃんがもじもじしながら、俺へリングを差し出してくる。
「これをつけてほしいんだけど……お願いできる……かな?」
「いいよ。かして」
夏美ちゃんからリングを受け取ると、左手を差し出された。
どの指か聞こうとしたところ、夏美ちゃんの潤んだ瞳を見てすべてを察する。
(期間限定彼氏として役目をはたそう)
差し出された手を慎重に持ち、薬指にリングを通していく。
根本まで通すと、リングが指の大きさピッタリになっていた。
「それ、特殊アイテムだったの!?」
一部始終を楽しそうに眺めていた田中先生が、夏美ちゃんの指にはまったリングを興味深そうに見る。
このイベントで入手できるアクセサリーの効果は全部同じで、【全ステータス+5】というものだ。
ステータス画面がないため能力が確認できないので、【+5】がどの程度効果があるのかわからない。
(補助的な装備と思っていれば……まあね……)
ブレスレットのように、他にも入手できるアイテムがあるので、夏休みを利用して積極的に回収しようと思う。
どのアイテムから取りに行こうか考えていたら、田中先生が荷物を持って移動しようとしていた。
「2人とも、今日は徳島ラーメンを食べに行くわよ! それを食べたら帰りましょう!」
「はーい」
夏美ちゃんが元気に返事をしてから田中先生を追いかけている。
俺も徳島ラーメンを食べるのは初めてなので、期待をしながら後に続いた。
目的地のラーメン屋さんへ向かっている最中、スマホに振動を感じたので画面を見たら電話がかかっている。
画面には花蓮さんと表示されていたため、夏美ちゃんに一言伝えてから電話に出た。
「ねえ、弓道協会の総会っていつまであるの?」
「今日で帰りますけど、なにかありました?」
俺が質問をすると花蓮さんが黙ってしまい、深呼吸するような息の音が聞こえてくる。
何か花蓮さんと話すことがないか話題を振ろうとしたら、花蓮さんのか細い声が聞こえてきた。
「えーっと……約束したと思うんだけど……海に行きたいな……と、思って」
終業式の日の登校するときにそんな約束をした記憶を思い出した。
1度交わした約束を破るわけにはいかないので、適当に場所を決めることにする。
「そうでしたね。ちょっと調べたいことがあるので、明後日とかどうですか?」
「え!? そんなに早くて大丈夫なの!?」
明後日と言った瞬間に花蓮さんが驚くような声を出していた。
横を歩く夏美ちゃんが軽く俺のことをにらみ始めており、早く電話を切りたくなってくる。
ただ、花蓮さんと日程の調整ができていないので、もう少しこの視線に耐えなければいけない。
「すみません、花蓮さんの予定埋まっていましたか?」
「ううん……そんなことはないけど……」
「それなら、明後日の朝に花蓮さんのお家へ迎えに行きますね」
「よ、よろしくお願いします」
最後はなぜか花蓮さんが妙にていねいな言葉づかいになっていたため、首をかしげてしまった。
電話を切ると、夏美ちゃんがすねたように顔をそむけられる。
「一也くんは彼女といるときに他の人とデートをする予定を組むんだね」
「えーっと……今は夏美ちゃんだけだよ」
「知らない!」
言葉選びを間違えたような気もするが、自分がこんなことを体験するはめになるなんて想像していなかった。
完全にすねてしまって、俺から離れて田中先生の横を歩く夏美ちゃんの背中を見る。
(なんであんないい子が俺へ好意をよせてくれるんだろう……)
おそらく、俺はこの世界にきてから戦うことか強くなるためのことしかやっていない。
その過程のどこで花蓮さんたちが好きになってくれるようなことがあったのか、詳しく理由を聞くことができなかった。
(田中先生がいるから、夏美ちゃんにも聞けないよな)
それに、好意を寄せてくれている女性へ、俺のどこが好きなんだと聞ける度胸はない。
質問を口に出そうかと考えただけでも尻込みしてしまう。
(保留だ。考えるのは後でもできるし、思春期だから一時的な感情かもしれない)
田中先生が案内をしてくれた有名な徳島ラーメンのお店で夕食をすませた。
お店を出たら、田中先生が徳島駅へ向かおうとするので、帰還石を渡す。
「これを使えば帰りは一瞬ですよ」
「移動だけでこんな高い物は使わないわよ……」
なかなか田中先生が帰還石を受け取ろうとしてくれないので、夏美ちゃんへ渡して使ってもらう。
「真さん、一也くんはこんなの1回使うくらいなんとも思っていないので、気にしない方がいいですよ」
「ちょっと!?」
夏美ちゃんは田中先生に向かってそう言って、帰還石を握りしめた。
田中先生は夏美ちゃんが直前までいた空間を見てから、俺へ目を向ける。
「あなたたちはいつも帰還石を使っているの?」
「そうです。安いので気兼ねなく使っていますね」
「安いって……」
大きなため息をする田中先生へ帰還石を差し出すと、今度は受け取ってもらえた。
意を決したように両目を閉じながら石を握ってくれていた。
2人が帰還してくれたので、俺はワープでギルドへ戻る。
先に帰っていた2人が話をしていたので、帰還石を回収させてもらう。
「2日間ありがとうございました。帰還石の手続きはしておきます」
「こちらこそありがとう、夏美のためにごめんね」
田中先生が帰還石を渡してくれるが、夏美ちゃんが下を向いたまま動かない。
夏美ちゃんの表情を見た田中先生が踵を返して、立ち去ろうとしている。
「一也くん、夏美を家へ届けるまで彼氏だから、頼むわね」
「わかりました」
夏美ちゃんはその言葉で顔を赤くして、ゆっくりと俺に帰還石を渡してくれた。
いつものように手続きを終わらせ、夏美ちゃんと一緒に静岡駅へ向かう。
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