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第214話 第十三章完結

「世界は、我々が思っている何倍ものスピードで発展しています! なのに、このまま閉じこもってしまって居ていいのでしょうか!?」


 なにやら扉の向こうからどなり声が聞こえる。


「壁の中に閉じこもって極狭い視野でしか世界を見ていなかった。だからこそ、気づけなかったのではないですか!」

「ちょうどいい機会です! 国を開いて、北の国々と和睦を結んではどうでしょうか」

「南の大国は我等を脅すかしかしない。それに、聖皇国と友好を結べば、王の縛りも緩くなるでしょう」


 入っていいのだろうか?

 オレはここまで案内してくれた兵士さんに顔を向けながら扉の方を指差してみる。

 兵士さんは困った顔で考え込んでいる。


 とりあえずノックでもしてみるか?


「入りたまえ」


 ノックをしてみると扉の向こうからそう声が聞こえる。

 扉を開けてみると王様が数人の男性に詰め寄られていた。

 その男性達はオレの方を見ると、舌うちをして部屋の隅の椅子に腰掛ける。


 なんかアウェーだな。そりゃそうか、王様を奴隷にしちまったんだから。


「なんのご用事でしょうか?」

「それはこちらが聞きたい。いったちそちらは我々に何を望んでいる、ただ、音楽とやらを広めに来ただけではあるまい」


 なるほど、奴隷化して以来、一切この国には近寄っていない。

 演奏にかこつけて何か命令しにきたと思われているようだ。

 とはいえ、本当に演奏しに来ただけなんだけどな。


 戦争も終わったんだ、過去の事は水に流して、楽しく行きましょうという意味も込めて。


 いつまでもヘイト溜めて置くのも怖いし。

 少しでもオレ達の事を知ってもらって、互いに理解を深めたい。

 大半の争いは理解の齟齬から生まれる。


 互いに理解さえしていれば、まあ、あいつ等はそんな感じだから。で済む場合も多々ある。


「ハッ、良く言う、自分たちの実力を見せつけにきただけだろう」

「あるいは人民の洗脳か……おまえ達の音楽とやらを聞いた奴は人が変わったかのようにそれを望みだす」

「まったくだ、うちの家内と娘も煩くてかなわん」


 意味が分からない。

 いったいこの人達は何に怒っているのだろう?

 ここ三日ほど、街の色々な場所でライブをしているのだが、それが気に食わないのだろうか?


 初日はひどかった。


 石を投げてくる子供や、毒付きのナイフまで飛んでくる始末。

 曲が始まっても大声を出して邪魔をしてくる人々。

 しかし、さすがは我等がエクサリーさんのスキル、ハウリングボイス。


 そんな喧騒のさなかでも確実に人々の耳へ音楽を届ける。


 一曲が終わり、二曲目が終わり、三曲目、四曲目となると騒いでいた人々は徐々に少なくなって行く。

 音楽は麻薬だ。

 特に良い音楽は。


 人の心を狂わす、秘めた感情を呼び覚ます。


 一度聞けばもう止められない。

 たった一曲が、たった一フレーズが、人の人生すら捻じ曲げる。

 だがそれは、決して悪い事ではないと思う。


 それはなぜか?


 そうやって捻じ曲げられた人達はみな、笑顔だったからだ。

 それをオレは知っている。

 たった一曲が、たった一フレーズが、人の人生を良い方向へ捻じ曲げる。


 音楽で世界を救うことは出来やしない。

 音楽で戦争を止める事は出来やしない。

 オレはそれも知っている。


 だけど、音楽で傷ついた心は癒す事が出来る。

 オレはそれを……知っているんだ。


 だから歌う、希望の歌を、夜明けを告げる曲を。


 もう戦争は終わったのだから。


「降参だ、降参だよ。それで我々は何をすればいい? 何をすれば……その音楽を売ってくれるのかな?」

「ショウウン……」

「うちの家内と娘が煩いのだよ。もう一度聞きたいとな、聞けば昨日で終わりだったとか。しかし、聖皇都には、あるのだろう? いつでもそれが聞ける魔道具が」


 王様が立ち上がりオレの方へ歩いてくる。


「聖皇国と正式に貿易がしたい」

「よろしいのですか王よ?」

「我等の神はもう居ない。どうするかは我等で考えなければならない」


 そう言って場を見渡す王様。


「我等は南の同盟を離れ、聖皇国に付く」


 いや、それじゃせっかく内緒にした意味がなくなるんじゃ?


「戦争に負けるという事はそういう事だ。さあ、我等は何をすればいい? 南の国々を滅ぼすというのなら先陣に立って戦おう」


 なに物騒な事言ってるんですか!

 山神が居なくなってヒャッハーしてるんじゃないですよね?

 ちょっとは落ち着いてください。


「今の所、何処の国からもなんの音沙汰も無い。必要な情報は……うちの腹黒がほとんど知っている」

「それでは困るな……我々の出せるものは情報ぐらいだ」

「そんな事は無い、立派な田畑があり、立派な兵士達がいるじゃないか」


 裕福な土地があるんだ、農作物を輸出してもいい。

 そしてあんた達はアサシンだ。

 ならばアサシンから守る方法も熟知しているのだろう。


 要人を守るボディーガードとか、向いていると思うんだがどうだろうか?


「我々が人を守る?」

「忍とは人を殺めるだけが仕事ではない。そうだな、風車のやひちって人の話をしてやろう」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふう、いいかげん諦めませんか? もう立っているものは居ませんよ」


 ラピスの目の前には無数のグリフォンドールが地に臥せっている。


「ぐふっ、クッ、あの小僧はとんだ獅子身中の虫を飼っているようだな」

「人聞きの悪い事を言わないで下さい。私は常にお坊ちゃまの事だけを考えて行動しているのですよ」


 そう言って、はるか遠くの王城を見下ろすラピス。

 背中を見せたラピスに向かってグリフォンドールの長である山神が駆ける。

 しかし、突き出された鉄の六角棒はたやすくラピスに掴まれることになる。


「難しい事は言っていません。ただ私に従いなさい、それだけです」

「ふっ、わしはすでに別の者に忠誠を誓っておるのでな」

「その人物の為に出来る事をしなさいと言っているのですよ」


 主の為になる事と、主の望むものはまた別物だ。

 主から直接命令があるまで決して動くことは出来ん。

 と山神は答える。


「頑固な人ですね……」

「方々の神獣や神と呼ばれるモンスターを狩っている者がいると聞いたな。それがお主だったわけか」

「だから人聞きの悪い事を言わないで欲しいですね。私はただ、協力を願っているだけですよ」


「何ゆえそこまでの戦力を欲しがる、もう十分にあやつは力を有しておるだろう」


 ラピスが一瞬、目を細める。


「夢、でしょうかね」

「夢?」

「そう、お坊ちゃまに夢の話をされて以来、胸騒ぎがするのですよ」


 お坊ちゃまの魂はこの世界の存在ではない。

 魂は肉体が死すると同時、世界に溶け込んで行く。

 しかし、お坊ちゃまの魂はどうなるか?


 もしかしたら世界は、お坊ちゃまを排除しようとするのではないか。


「この世界は天啓のスキルがある事からも分かる通り、異世界からの干渉はかなり強い。考え過ぎではないか?」

「私はこう考えているのですよ」


 本来、お坊ちゃまの世界の知識を天啓のスキルとしてこの世界に呼びたかった。

 それが手違いで、魂まで連れてきてしまった。

 この世界にとって必要なのはお坊ちゃまの世界の知識。


 お坊ちゃまの魂そのものは『余計な物』ではないのだろうか。


「あなたの元に一個のパンが届けられたとします。そのパンは袋に包まれていました。あなたは、その包まれていた袋をどうしますか?」

「……捨てるだろうな、少なくとも後生大事に取っておく事はせん」

「中身を食べ終わった後の袋はゴミでしかない。あるだけで邪魔だと思いませんか? まあ、私の危惧であればそれでいいんですけど、万が一に備えておくのは悪い事ではありません」


 そう言ってラピスは考え込む。


「お坊ちゃまの望むもの、ならいいんですよね? ならば私が良い話をしてあげましょう、風車のやひちって人の話を」

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