開戦
「ただいまー!」
「あ、おかえりなさい」
その後も、レイナさんにレッサーザラタンについて教えてもらったり、精霊術士のレベルが上がったりとしている内に、楓さんを先頭に全員が帰ってきた。
「おいレンジ。結局どんなやつだったんだそれ」
ソラの一言で俺の手元にある苗木に全員の視線が集まる。
「与ダメージはそこまで高くなかったけど、周囲50mにいる魔物全部を毒状態にしてたから……ソロじゃないと使えない」
「へー?」
「ん?レンジ君、それ災獣じゃない?」
「?」
「『Black Haze』の開発原因!それに対抗する為に開発されたってスイが前ボロっと零してたよ!」
…グドラが『Black Haze』を開発した原因?
『Black Haze』は竜などに取り付いて意のままに操るわけだから、『Black Haze』を操る事が出来ていれば確かに対抗手段にはなるような気もする。
まあ、レッサーザラタンの攻略には使わないわけだから今は良いだろう。
「それは今はどうでも良いんでレッサーザラタンの攻略に行きませんか?」
「いや、レンジ君。それどうでも良くは無いでしょ!?」
「いえ、さっさと攻略を終わらせましょう」
「ん?なんで逃げまでしたレンジ君がこんな」
「さっさと終わらせましょう」
楓さんが気づくべきでない事に気づき始めた為、もしかしたらレッサーザラタンの甲羅を破壊できるかもしれない事を告げ、移動を開始させる。
といっても、
「なあソラ」
「言うなレンジ」
目の前で楽しそうに会話をしながら進んでいる女性陣とイサ。俺とソラはその中に入るのは厳しいと判断して二人で後ろへと下がったのだが、イサは普通に会話に参加していた。
「イサ凄いな……」
「あいつはまあ、見た目も女子って言っとけば勘違いさせれる見た目だし、そこまで…な?それに、レイナさんに少しだけ教えてもらってから墓場に行って実践練習をしたから、それの報告とか色々と話すことが有るんだろ」
「へぇー」
確かにイサは最初にさん付けをしてしまう様な、ソラとは違うな〜と感じる見た目をしていたが、女子と言って通る…のか?
そこら辺は良く分からないが、そうなのだろう。
「そう言えばソラ。ハヤテの調子はどう?」
「ん?あぁ、元気だよ。何で死んだのかすら気付いてないからそこまで気にしなくていいぞ」
「……自己紹介の時に持ち出したのは誰だっけな」
「まあ、アレは…ノリ?フランスパンの影響かもしれない」
「なら仕方ない」
それならば仕方ない。全面的に姉が悪い。
「そう言えば、ソラはレッサーザラタンと戦ったこと有る?」
「ああ。てか、戦った事無いのレンジだけだと思うぞ」
「まじ?」
「まじ。墓地にいた時の会話で甲羅が硬いっていうのをしてたからな」
「へぇー…そう言えば、レイドのパーティてどう組まれるんだ?」
「あ、それは入る前にウィンドウが発生する。今回の場合は俺と十六夜さんがソロ。それ以外が……レンジもソロの方が良いか?」
「ああ」
もしグドラを使う機会が発生した場合、ソロで無いとそもそも召喚する事が出来ない。パーティ内の他のプレイヤー全員が死亡すれば使えるのかもしれないが、そういう事は考えるべきではないだろう。
「でもな……初期地がパーティ毎にランダムだぜ?俺と十六夜さんは飛空系の従魔がいるから問題ないが、レンジはどう集まるんだ?」
「…やっぱ一緒が良いや」
「……レンジ」
「何?」
「お前、泳げ」
「おっと手が滑った」
何か言おうとするソラに軽く腹パンをする。そこまで本気ではないし、ダメージも発生しない筈だから大丈夫だろう。
「…そうだったのか」
頬が震え今にも笑い出しそうなソラを横目に、ようやく見えてきた湖を見渡す。
大きさは第五の街にあった湖の2倍程。王都から出てすぐに見えたその湖を探しても魔物を見つける事が出来なかった。
「魔物は?」
「いない」
「ボスはいるのに?」
「そこら辺は謎なんだけどそういう物だと納得するしか無いだろ」
「へぇー……」
まあ、そこら辺は得したとでも考えておけば良いだろう。それよりも……
「なあ、レイドボスのフィールドに移動するのって湖の中に入ってなきゃ駄目だよな?」
「なんだその願望多めの質問は。まあ、そうだろ。少しでも入ってれば良いわけだから溺れる事は無いだろうけど」
「レンジさん、ソラさん。事前準備をお願いします」
言われるがままに準備を……と思うが、MPが完全に回復している事を確認する以外は何もすることがなかった。ソラもそこまでする事は無かったようで、すぐに終わらせ、レイナさんに完了した事を示した。
「パーティはソラさん、十六夜さん、その他で良いですか?」
「はい」
「はい!」
「良いよ〜」
「ん」
「ああ」
「うん」
「はい」
全員に確認を取ったレイナさんが何かをすると目の前にパーティ申請が表示され、承諾をすると……光に包まれ、フィールドが転送された。
目の前にいるのは山と錯覚するような大きさの亀。視界の隅には十六夜さん、ソラがそれぞれでワイバーンの様な従魔に乗りながら此方へと移動してきているのが見えた。
丁度良く、俺から亀を見るとそのがら空きの横っ腹というか、甲羅が見え
「レンジさん!お願いします!」
「【チャージ】」
大量に召喚された魔物、レイナさんの声を皮切りに戦闘が開始された。
どの『はい』が誰なのかが凄い難関な気がする……。




