恐怖
あれから…どうやら十六夜さんが他に誘いたい人もいるようだが、あと一時間は来れないようなので一度ログアウトし、昼ごはんを食べてからまた集まる事にした。時間にしてはまだ早いが、昼ごはんの時間がずれるのは一切問題ない。
十六夜さんの誘いたい人が女性であった場合を考慮し…ソラにクランの場所を記した物を送りつけ、1時間後ぐらいに幼馴染と来るようにお願いしておいた。ソラに関しては皆にも許可は取ったし、幼馴染さんが弓使いだと言う話をするとレイナさんが喜んでいたのでそこらへんは一切問題ないだろう
……で。
「レンジ、ロリコン?」
「な、なな……。…どうしたんですか?」
「レンジ、動揺が物語ってるよ…」
炒飯を食べている途中に唐突に聞かれたわけだが、心当たりが……心当たりが有りすぎる。どう考えても十六夜さんの目の前で召喚した四体の精霊の事だろう。全員幼女だし。
だが、俺がロリコンだという事は認めるわけにはいかない。そんな社会的立場が無くなりそうなじじ…嘘を認めてしまうと俺が死ぬ。
「違うの?」
「違います」
「レンジ!」
「なに?姉ちゃん」
「任せといて!」
相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべている姉を見るに、十六夜さんの誤解を解く事ではなく、レイナさん達に広める事などを任せろと言っているのだろう。任せるわけがない。
誤解を解くのには何が一番良いのだろうか。一番最初に思いついたのは反対のことを言う。要するに、年上が好きだという事だが…それを年上である十六夜さんに言うのは姉が面倒なので有りえない。
取り敢えずは話をそらして…
「そう言えば、十六夜さんの精霊はどんな見た目をしてるんですか?」
「狼、蝙蝠、蜥蜴」
狼は見たことが有るから風精霊だと分かるが…蝙蝠は闇精霊だろう。蜥蜴、は土精霊なのか火精霊なのか正直分からないが…とにかく今は深くまで掘り下げる必要が有る。
「十六夜さん。精霊って進化しました?」
「風が中級」
「へぇー……どうで」
「レンジレンジ」
「……何?」
ニコニコ笑っている姉を見ると悪い予感しかしないが、返事をしないと尚更悪い状況になるのはわかりきっているので渋々答える。
「ユウちゃん好み?」
「ない。…てか、姉ちゃんは?」
「はいこの話はもう終わり!」
ユウさんは…一緒にいる時間が短すぎるので分からないが、勘違い少女、妄想少女では有るものの良い子では有ると思う。まあ、恋愛対象としては無い。
姉に返したカウンターは上手く決まったようで、その話はそこで終わり。十六夜さんは良くわからない表情をしていたが、それ以上は聞いてこなかったのでそこまで気になっていなかったのだろう。
片付けを終わらせた後に再度ログインしたが、1時間はリアルでの1時間なので、まだゲーム内時間で30分程時間があった。
「墓地、行く?」
「墓地ですか?」
「うん」
確かここからそこまで遠くない所に墓地が有るらしいが…まあ、暇だし行くか。クランの場所を南西にした理由もそれ。みたいな会話もしていたし、少し気になる。
移動を開始した十六夜さんの後を追い、墓地へと向かっていく。因みに、姉はログインすると共にどこかへ行ってしまったので此処にはいない。
墓地はクランハウスからそこまで離れておらず、歩いて1分としない内に墓石が大量に乱立している光景が視界に入った。周囲を大きな鉄格子で囲われており、俺と十六夜さんの目の前には大きな扉が開いていた。
「…頑張って」
「はい?」
十六夜さんに促され、墓地に足を踏み入れようとした瞬間に、十六夜さんが意味深な発言をし……視界が切り替わった。
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特殊クエストが発生しました。
『嘆きの怨霊』
クエスト達成条件は、
『嘆きの怨霊』の討伐
0/1
です。
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それと同時にフィールドの中心部に発生したとてつもなく大きな魔法陣。周囲を墓石に囲まれたそのフィールドに姿を現したそれは……俺の知る中で最もレベルが高く、俺の知る中で最も危険で、俺が倒したことが有る存在の”ゾンビ”。
目の前に、『虚骸のバジリスク』が現れた。
「ジャァァァァアアアァァァァアアアァァァァ!!!!!!」
永遠に思える咆哮に、動かない体。目の前に見えるのは…”フィールドボス”のバジリスクでは無く、”深層”のバジリスク。その死骸だった。本来、眼球があったであろう右目の部分は空洞で…
代わりに、俺が射た矢が刺さっていた。全身に蜘蛛の糸や、毒、酸などを受けて腐敗した痕が有り、残っている片目は確実に俺の事を捉えていた。全身から溶けた肉などを垂らしながら、腱が切れているのかゆっくりと俺へと近づいてくる”それ”。
やばい。
ただ、思えるのはそれだけ。俺は…なすすべ無く殺された。
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死亡しました。
デスペナルティは
所持金を一割紛失
装備をランダムに一つ消失
一定時間のステータス減少
です。
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