クランホーム
英単語凄い嫌い。
「で、何にします?」
数秒程固まっていたレイナさんだったが、気を取り直して質問してきた。…クラン名など思いつくわけがないが、
「目指してるものって…【遠距離物理】の認識改めでしたよね?」
「ええ。大体はそういう認識で構わないです」
「じゃあ…ひっくり返すとか革命とか?」
自分で言ってみたが、それはないな。十六夜さん、ソラとは一切合わなくなってしまう。十六夜さん、ソラに合うような意味となると…先駆者?ソラが先駆者かどうかは知らないが、十六夜さんはトッププレイヤーだし、レイナさんはこのゲーム内では一番弓の扱いが上手いだろう。それに、【遠距離物理】の人数を考えると【遠距離物理】自体がイレギュラー。先駆者として捉えることが出来る。……pioneerはなんの面白みもないし格好悪いから無しだな。
「あ、あの…先を行くとかそういった意味の…英語が良いです」
「Pre…は少し違う?」
「いえ、それで良いと思いますよ。いずれ認識は改めさせますが、不遇という逆境の中【遠距離物理】を選んでここまで来ている訳ですから。…十六夜さんは」
「問題ない」
Pre…。英単語の中で俺の嫌いなジャンル、というかreが入る単語は大体嫌いなのだが、ユウさんの様子を見るに俺だけ気づいていないという訳では無いようだ。……ユウさんの年齢は知らないが、年下だろうから比べるのはおかしい気がするが。
どうやら、レイナさんと十六夜さんは共通の単語が浮かんできたようで…ん?
何とかレイナさんが次の言葉を発するよりも先に思い出す事が出来た。
「では…」
「うん」
「「PRECEDE」R…。?」
声を揃えて発した単語は俺の想像と同じだったが、十六夜さんはRをつけて、付けていないレイナさんを見て首を傾げていた。PRECEDER。単語としては存在しないがPRECEDEしている者。先行している者と考えると此方の方が良いだろう。
レイナさんもすぐ同じ発想になったのか頷き、十六夜さんの意見に賛同した。
「あ、あの…PRECEDEって」
「時間、順序などに関して先を行く。先に起こるなどの意味になる単語です。今回の場合はRを付ける事で先を行く者。先に起こす者などの意味として使っています。…ですよね?」
「うん」
「良い単語ですね!」
「ユウさんのヒントのおかげで思いつきました。ありがとうございます」
ユウさんに確認を取った後に、レイナさんが此方に顔を向けたので頷く。その後、レイナさんは紙に【PRECEDER】と記入し、俺達3人から名前を記入してもらい窓口へと提出しようとして…
「クランどこが良いですか?」
「南西」
「どこでも良いです」
「俺も何処でも良いですね」
「じゃあ、南西ですね」
十六夜さんの希望により、クランの場所は南西に決まり、クランの設立が受理された。…チラッと見た感じだと1000万Gの金額がかかっていたが、レイナさんどのぐらい金策をしたのだろうか。……あとでクラン共有財産とでも言って500万Gぐらいは渡しておこう。
「取り敢えず行ってみましょうか」
「ん」
「はい!」
「はい」
道中は…取り敢えず俺だけ少し離れて歩くことで余計な視線を集める事は無かった。ただ、南西を望んだ理由の話をしていた時に『墓地が……』とか聞こえた気がするが…まあ、気の所為だろう。レイナさんにユウさんもそれで納得していたが…なんで?
十数分程かけて移動した先にあったクランホームはしっかりとした西洋風の建物だった。十六夜さん達談によると、墓地区もそこまで遠くなく、すぐにでも行ける好立地らしい。
「入ります…誰から入ります?」
「レイナ」
「「レイナさん」」
満場一致でレイナさんとなったので、レイナさんは嬉しそうに扉を開け、俺達を一度見てから中に入っていった。その後を十六夜さん、ユウさん、俺と続き中に入ると、真正面に受付嬢さんが立つような所、その左右に一つずつ扉が有り、右端には階段が有り、ある程度の広さがあった。
メニューを確認すると、【クエスト】【共有倉庫】【倉庫】【貢献度】など様々な物が有り、クエストを押すと、ギルドで書かれていたクエストとは完全な別物が表示されていた。
「部屋割を決めましょう!1階の2部屋はクラン共有の部屋と外部向けの部屋にしたいので2階のみですが、好きに決めちゃってください!……良いですよね?」
「行ってくる」
「はい」
十六夜さんに軽く声をかけてから、速攻で動き出した十六夜さんの後を続く。その後をユウさんにレイナさんもすぐについてきた。
……じゃんけん弱し。
「ここ」
「じゃあ、此処が良いです!」
「では、私は此処が良いです」
「んじゃ、俺は此処ですかね」
公平なるじゃんけんの元部屋が決められ、順番に階段に近い部屋から選ばれていってしまい、ビリだった俺は4番目に階段に近い部屋となった。
「では…。……結成パーティを下の左の部屋でやりたいんですがやります?」
「やりますっ!」
「…じゃあ」
「……ん」
まあ…明確にやりたいことあった訳ではないので参加しよう。




