先輩
「…行ってきまーす」
昨日はあの後、軽くクロのレベル上げの続きをやってからログアウトした。
メールで9時集合と言われていたので、高校がそこまで遠くない事もあり、8時過ぎに家を出て電車に乗って学校へ移動した。
俺が通っている学校は元々は弓道部がある程度栄えていたらしいが、今となっては部員が中学、高校を合わせて7人。しかもその半数は幽霊で、顧問すら幽霊の様な部活である。ただ、昔栄えていた事や、弓道場が有るので部活自体はまだ存続できている。
尚、部活は部員が最低5人、顧問が最低1人は必要でそれ以下になると同好会という扱いになってしまうが、幽霊部員のおかげで何とか”弓道部”として存続できている。
サッカー部など、人気な部活は”中学サッカー部””高校サッカー部”と、中高で別れているが…まあ、人数が少ない弓道部がそんな事を出来るわけがない。
学校の敷地内に入り、グラウンドを横目に見ながら弓道場へ移動し、弓道場の横に有る建物で準備をしてから弓道場に入ろうとすると、既に先輩が弓を番えていた。
一連の動作が終わるのを確認して、話しかける
「……相変わらず綺麗ですね」
「そ、そうか?」
「はい。やっぱり軸とかしっかりしてて射形が綺麗です」
「……」
少なくとも、今の俺では出来ない。もしかしたら今後出来るようになるかもしれないけれども、先輩の射形はネットに上がっていた動画で見たレイナさんと同じぐらい綺麗だ。俺が出来るようになるのは難しいだろう。
「…今日って部活有りましたっけ?」
「…一応無い事は無いが、まあ有って無いようなものだ。来るのも私と圭哉、お前ぐらいだろう。…何故かお前は最近来ないしな?」
「…ゲームに嵌ってまして……」
「ゲーム?」
「はい」
「へぇ…?」
通常の部活であれば活動日程など決まっているが、この学校の弓道部にはそういった物は存在していない。一応休みの日などは決められているが、それ以外は年に数度を除いて完全な自由参加なのだ。弓道場を使う団体が他に有るわけでもないのでそれも当たり前の事なのだろう。
「結構面白いですよ?」
「…そうか。邪魔したようで悪かった」
「いえいえ、全然問題ないです」
「じゃあ、聞きたい事に答えてくれたら帰って良いぞ」
「?」
「宮野から連絡が来た」
「?」
宮野?…誰?
「宮野玲奈だ。心当たりは無いか?」
「…レイナさん?」
「”レイナ”?…知り合いか?仲が良さそうだな…。で、お前の性格等が知りたいそうだ。特に、『嫌な事を嫌と言えるか』が知りたいそうだ」
「…は?」
……全く意図が読めないのだが。
「…よし。『私の後輩に金輪際関わ」
「ストップ」
「どうした?」
「それこっちのセリフです。…その連絡にそういう質問をする理由とか書かれてませんでした?」
「理由…?…、……そういえば、クランだったか、そんな感じの事を書かれてたぞ。後、弓仲間を集めたいとか」
「あー…大体分かりました。『基本ソロでやっても良いならクラン参加します』って伝えてください。俺からも伝えるんで」
要するに、会った頃に言っていた事をやろうとしているのだろう。クランを作って、弓使い集めて、皆で楽しむ?強くなる?どちらを目指すのかは知らないが、恐らくそんな感じだろう。一人の方が楽なので、一緒に行動するとかいう事は誘われたりしない限りやらないが、それで良いなら参加させてもらいたい。ソラの友達さんに教えるのもレイナさんがやった方が上手く教えられるだろうし。
何故直接聞いてこないのかは疑問だが…まあ別に気にする必要は無いだろう。レイナさんに弓使い以外を誘ってもよいのか聞いて、許可を貰えたらソラと友達さんをセットで誘おう。
「…話の意図が見えないのだが」
「あ、ゲームの話です」
「そうか……因みにゲーム名は?」
「【Trace World Online】ですね」
「そうか…時間を取って悪かった。宮野が何故お前の事を知りたがったかが全く分からなかったから来てもらったが…わざわざ来てもらう必要は無かったな。申し訳ない」
「全然大丈夫です。今日は練習をする気で来ているので」
「そ、そうか?」
「ええ」
折角学校に来たし、俺よりも圧倒的に上手い先輩がいる訳だから、色々と教えてくれるだろ。
「……何をやったらそんな射形が…独特になるんだ?」
「すみません……」
結論から言うと、自己流の早打ちとかをしすぎた所為で射形が崩れていた為、先輩を驚かせてしまった。
…早打ちの仕方などを教えてもらったので結果的には良かったのだろう。




