召喚士
まあ、そんな事を考えていたって仕方がない。次に行った時にさり気なく聞いてみて、場合によっては素材などをただで提供しておこう。
装備できるようになるまで熱中してしまったが、今の時間はもう昼を過ぎている。切りも良いので第五の街に戻ってログアウトする事にした。
「あぁ…なんか疲れた」
1階に降りてリビングへと向かうと、姉がソファーで『ぐでーっ』としていた。
「……どしたん?」
「疲れたぁー」
「あーそ」
「いやね?お母さんから話を聞いたのか知らないけど、お父さんからメールが来ててね…」
「へー……あ」
「どうしたの?」
「そう言えば夏休み入ってからメールを確認してないなって」
…まあ大丈夫、だよな?夏休みが始まってからすぐに来るメールなんて無いだろう。…まあ、一応確認しておくか。
「確認してくる」
「へーい」
……。
……。
「どうだった?」
「明日の予定が決まった」
「そう」
ま、まあ一日すっぽかしたぐらいなら許してくれるだろう…。
それから、遅めの昼ごはんを取り、メールを返信しておいた。
…ゲーム再開しよ。
「はぁー……」
多分許してはくれるだろうけど、怒っていそうだな…。
第五の街迷宮へと移動し、意識を紛らわす様にとにかく狩りを続ける。
1時間程続けた時だろうか?
「あっ」
今倒した鳥にプレイヤー同様、名前が表示されていたような…。
「ハヤテ!?」
「……」
このゲーム、一応PKというものは存在する。フレンドリーファイヤーも存在するので、プレイヤーを故意に殺すことも出来るのだ。まあ、殺してもアイテムを剥ぎ取れるという訳でもないので、デメリットがでかすぎてやっている人などほぼいないらしいが。
「……」
あの鳥は今まで見た事が無い気がするが、なんて言う魔物だったのだろうか?見た目はフォレストイーグルに近かったような気がするが…。それに、飛び方などもフォレストイーグルと似ていた。ただ、大きさがフォレストイーグルよりも大きかった為、別種類だろう。
「誰だっ!俺のハヤテを殺したのはっ!?」
「……」
凶器は矢だが、それはスキルの【回収】により、完全に無くなっている。刺さった対象が死ぬまでは回収されることもないのだが、それを見ていないと凶器の完璧な回収を行える。
…暗殺プレイとか出来そうだな。
「【召喚】『クル』…。クル、索敵をしてくれ!」
召喚された魔物は多分だが、スクオロルだ。
因みに、殺してしまったことを謝るためにも目の前までは来ているのだが、この様子だと気づかれていないようだ。…装備の効果強すぎるな。
「あのー…」
「…。なんだ?今クソ野ろ…。…?は?」
「ごめんなさい。ハヤテ?だったか、殺しちゃった」
「は?」
「お詫びと言っては何だけど、オーガの魔石をあげるから許してください」
一応、ゴブリンジェネラルの魔石や、ゴブリンナイトの魔石も持っているが、個人的にオーガの方が強かったような気がするので、これが今の俺に出来る最大限のお詫びだ。…アサシンスネイクとかの魔石も一応持っているけど…どうなんだろうな?魔石の強さと召喚士本人の強さに差が有りすぎると召喚自体が失敗するらしいし。
目の前にいる少年は【召喚】と言っていたから、召喚士だろう。確かナオは召喚士を浪漫が有るけど運要素が強い職業と言っていた。理由としては、召喚をするのに魔石を必要とし、基本的にはその魔石の魔物より弱い魔物からランダムで一体召喚され、契約することが出来るからだ。一応、魔石の魔物以上の強さを持った魔物が召喚されることも有るらしいが、確率としては相当低いとも言っていた。
「…は?」
「…駄目かな?」
個人的に、丁度良いぐらいではないか?と思っている。召喚された魔物が死ぬと、ゲーム内で1日間召喚することが出来なくなるらしいが、1日のログイン制限と1体の強い魔物を得ることが出来る可能性だと、俺だったら後者を選ぶ。
「いやっ…急にそんな事を…ってお前が犯人なのか!?」
「うん。ボーッとしててついうっかりと」
「煽ってんのか!?」
「そういうわけではないんだけど」
…。煽っているようにしか聞こえないな。事実を言っただけだったのだが…。やっぱりメールが気になる。…今日も午後からとはいえ行っとくべきだったか?メールを送っておいたし許してくれると良いんだけど。
憤りながら戸惑っている少年を見ると、本当に申し訳なく思う。
「…オーガの魔石か…」
「今ならおまけでゴブリン、オークの魔石もセットで0G!」
「おぉ貰った!…って違ぇ!まあ…貰えるんなら貰うけど」
「許してくれるなら差し上げます」
チッ。ノリが良さそうな雰囲気をしていたから、今のノリで許してくれるかと思ったが、そう簡単にはいかないか。
「んー…もう一声」
「んじゃ、グラスラビット」
「よし。それで良いや」
「良いんだ…グラスラビットの魔石なんて価値有るの?」
「一応強い魔物が出る確率は0じゃないしな。それに…まあぶっちゃけ一発ぐらい殴ればそれで許すつもりだったし」
「あげ損!?」
「あはは」
どうやら、許してくれるらしく、ノリも良さげだった。…助かった。面倒臭いプレイヤーなどだと、こんな簡単には許してくれない。俺が渡した魔石を見てニコニコしている彼を見ると、本当に許してくれたのだろう。




