ソロ本戦７

「【精霊魔法：風】【風精霊の加護】」

「【精霊王の加護】【精霊の加護】【領域射撃】」

　【遠距離物理】であり紙装甲である俺が【近距離攻撃】である十六夜さんに勝つ最大の方法……それは、速攻である。

　流石にそれは分かっていたのか、十六夜さんは開始と同時に【風精霊の加護】を発動して【領域射撃】を易々とスキルを使う事無く回避してみせた。このタイミングで【ショートワープ】でも使ってくれれば話は早かったのだが……流石にそんな事はしてくれないようだった。

「流石に速いですね……」

「ん、１０００は……ある？」

「……なんで疑問系なんですか、ねっ！」

　近づこうとしながらも、【領域射撃：防殺陣】を警戒しているであろう十六夜さんに牽制の矢を大量に放ちつつ少しづつ移動し続ける。

　既に速攻は諦めたので持久戦に持っていくつもりで【精霊王の加護】【精霊の加護】は解除したが、依然として十六夜さんは【風精霊の加護】を解除する様子は無かった。確かに、風精霊であれば矢を逸したり出来るだろうから解除しないのは当たり前の事かもしれないが、ただでさえ勝ち目が薄い今、その警戒は途轍もなく邪魔なものだった。

「ッチ」

　持久戦に持っていけばＭＰ総量が１万以上ある俺の方が有利なのは間違いないだろうが、十六夜さんのＭＰ総量がどの程度なのか全く分からないので、安易に考える事も出来ない。そもそも十六夜さんのブラッドスキルはパッシブも詳しく分からないし、アクティブに関しては見れてすらいないのだ。

　パッシブに関しては斬りつけられる事で何かが発生するだろう事までは予測が立っているが、斬りつけられて試すなどというアホな事も出来ないだろう。

「……ん、スピンス──」

「ッ【領域射撃：防殺陣】！！」

「──【ミラージュ】」

「っは！？……つられた？」

　スピンスラッシュ……この場合は独楽さんが言っていた様なスキルを使われ、斬りつけられるだろうと考えて発動した【領域射撃：防殺陣】だったが、【スピンスラッシュ】が発動する事も無く、【ミラージュ】という技で簡単に回避されてしまった。唐突に近づいてきたので使ってしまったのだが、これは簡単につられすぎた気がする。言い訳をすればいくらでも出来るような気もするが、クヌギさんも使っていた【ミラージュ】で回避されてしまった以上【領域射撃：攻殺陣】で攻撃しても【ショートワープ】で回避されるのは間違いない。

　せめてもの救いは安地が出来上がったのでＭＰ回復薬を──

「【血剣抜刀】」

「ッ！？【ショートワープ】！！」

「【血剣抜刀】」

　赤黒く、”伸びた”刀身が安地など存在しないと言わんばかりに横薙ぎの攻撃をくらわせに来たので、慌てて【ショートワープ】を使って回避し、その後に続いた攻撃も矢を射て軌道をずらして掠らせるだけに留める事に成功した。

　てこの原理……だろうが、簡単に軌道がずれてくれた事に感謝しつつ、自分にかかったデバフを認識して、舌打ちが漏れる。

　血の様な刀身だったので、ただの矢で弾けただけ感謝するべきなのかもしれないが……十六夜さんのパッシブスキルの効果なのかアクティブスキルの効果なのかは知らないが、俺のＡＧＩが８程度低下していた。たった８だが、割合にすれば１％。１撃掠らせただけで１％持っていかれたのなら、双剣という手数の多い十六夜さんを近づける事の危険性が爆発的に上昇したのは間違いない。

　……元々近づかせるのは危険だったが。

「……パッシブ、ですか？」

「ん、【時蝕】」

「……パッシブなんですか」

　アクティブスキルの影響でこうなっているのであればまだ良かったのだが、パッシブとなると……流石に時間制限はあるだろうから、それをしっかりと確かめるべきだろう。既に１０秒は経っているので結構長い事は分かるが、【砲撃】といい【時蝕】といい強すぎやしないだろうか。独楽さんのスキルは知らないが、【独楽の理】が強かったのは間違いないし……まあ、【領域射撃】も対人向けでは無いとはいえ、強いのだからまあ良いか。

「次、【流血一閃】」

「うわっ！？【ショートワープ】」

　また、十六夜さんが別のスキルを発動したと共に、攻撃が掠った場所へと吸い込まれるように……鞭の様な赤黒い剣が薙ぎ払われたので【ショートワープ】を使って回避する。

「ん……弾けばよかった、のに」

「……もしかして弾けないやつなんですか」

「ん」

　……『ん』じゃないんだが……。

　俺の見間違えじゃなければ攻撃が掠った所へと吸い込まれるようにしなっていたので……躱すだけでも厳しい物になるのは間違いないだろう。ただ、【血剣抜刀】と言われた際についた痕が消え去ったので、もしかしたら失敗せずに連鎖させないといけないスキルなのかもしれない。……その分連鎖してしまった際には強いのだろうが……取り敢えず、デバフが解除されていない事を確認しながら、再び十六夜さんを見据え──

「【血剣抜刀】」

「【ハンドレッズアロー】【インパクト】【ブラスト】！！」

　急接近してきた十六夜さんの血剣と、大量の矢がぶつかりあった。